第11話 Dream came true

小学校の卒業アルバムに

「警察官になる」

と書いてから約7年ほどの歳月を経て、紆余曲折はあったが遂にその夢を叶えた。


合格の興奮冷めやらぬ中、先ずこの吉報を父親に知らせるべく書斎のドアをノックした。

すると、ドアの向こう側から「おう、入れ」と父親の声が聞こえてきた。

ドアを開けるとワーキングチェアに座った父親がこちらに振り返った。

今日は清々しい気持ちで父親に歩み寄り「報告があります。採用試験受かりました。」と合格したことを伝えると普段は不動明王のような面持ちの父親がその時は笑みを浮かべてワーキングチェアから立ち上がり、「おめでとう、諦めずに頑張ったかいがあったな」と肩を叩いた。

父親とは数年間最悪な関係が続いていたが、今日父の笑顔を見ることが出来、労いの言葉も貰うことが出来た。

関係改善の兆しが見えてきたと共に「何とか親孝行の出発地点に立てたのではないか」という思いが込み上げてきた。


母親にはLINEで合格したことを連絡すると「おめでとう!本当によかったね!晩御飯は何が食べたい?」という返信があった。

絵文字といいスタンプといいなんとも母親らしい明るい祝福だった。


祖父母にも合格した旨を伝えようと考えたが携帯電話を持っていないし、しばらく顔を覗かせていなかったため後日直接伝えることにした。


次は、高校の担任先生たちに報告しに行くことにした。

驚かせてやろうと考えアポ電することなくいきなり訪問することにした。

通学路を久しぶりに自転車で通っていると懐かしい気分になった。

嫌々ながら通っていたこうの道も今日はとても清々しい気持ちで通ることが出来る。

「そう言えば学校てもう夏休みに入ったんかな?」

「先生たちはいるだろうか…」

と考えていると高校の正門に到着した。


卒業してから1年弱しか経っていなかったがとても懐かしく感じた。

毎日来るのが嫌だったこの校舎も今ではいい思い出だなと感じるようになっていた。

高校の担任は二人おり普通教科(英語)と専門科目(デザイン科)の先生で、それぞれ職員室が別の棟にあるので先ずはデザイン科の担任の先生を訪ねることにした。

デザイン科の校舎に入ると職員室のドアが開いていたので、おそるおそる覗き込みながらノックすると担任だった先生と目が合った。

高校生の頃にしていた要領で「失礼します。○○先生よろしいでしょうか?」と先生の傍で声を掛けるようと思う前に先生から「久しぶりだな!今日はどうしたん?」と声を掛けられた。

私は「実は、県警の採用試験合格しました!」と自信満々に答えた。

先生は「おぉ遂にやったな~おめでとう」と祝福をしてくれた。

このデザイン科の担任の先生は、課題はしないし反抗的なために他の先生から見放されていた私を根気強く気にかけて指導してくださった恩師であり、父親のような存在であった。

なので、久しぶりに会って話をすることが嬉しくて「先生の教え子はみんな採用試験に合格してるって話だったんで、遅ればせながら何とか合格しました(笑)」などと冗談交じりに色々な話をした。

別れ際、先生が「英語先生にこっちからノリトが来ていること伝えとこうか?」と配慮をしてくれたのだが、あくまでもサプライズに徹したかったので連絡をしないようにお願いしておいた。


英語先生とは、もう一人の普通教科の担任の先生である。

この担任の先生も私にとって紛れもない恩師である。

在校中こそは何度も呼び出しを食らい説教をされ、授業中にも色々と怒られ…と大嫌いな先生ではあったが、卒業が近づくに連れて毎年進級・卒業するために陰で尽力して下さったこと、私の夢を否定せずに応援し続けて下さったことなど英語先生のありがたみを感じるようになっていた。

進路課の職員室のドアの前に到着した。

学生の頃、このドアをノックする時は大抵説教の呼び出しという嫌な思い出しかなく大嫌いな場所だったが、今日は清々しい気持ちで立っている。

ノックをし、ドアを開けながら「英語先生~いらっしゃいますでしょうか?」と声を発すると奥の方から「はい、いますよ~」ということともにドアの方を棚越しに覗き込む先生の姿があった。

私の顔を見た先生が「あら、久しぶりじゃないの~今日はどうしたの?」と変わらぬ元気な声で話しかけて下さった。

先生の元に歩み寄り「県警の採用試験に合格しました!」と伝えた。

すると先生は「やったじゃない!よく頑張ったね!おめでとう!」と満面の笑みで祝福してくださった。

また「他のクラスの子たちはちょくちょく顔を出してくれていて、その時誰が何をしてるとか現状を聞いていたけど、ノリト君だけは何も話を聞かないから心配だったんよ」とクラスの中でレアポケモン化していることも教えて下さった。

先生とは、卒業してから今日までの話を結構長い時間話した。

とても有意義な時間だった。

在校中、迷惑と心配たくさん掛けた恩師二人に合格報告することが出来きたことに自分自身とても満足したし、先生お二方とも嬉しそうに祝福して下さったことが本当に嬉しく思えた。


そしてエミリーにも合格したことを教えた。

すると「やったじゃん!おめでとう!リュウタなら絶対何でもできるよ!」と祝福のメッセージが届いた。

エミリーと連絡を始めてから一年弱、彼女は私にいつも優しい言葉を掛け励まし、奮い立たせてくれていた。

失意のどん底にいた時、彼女との連絡を唯一の楽しみに過ごしていた日々があるくらい大きな存在だった。

そんな彼女が「夢があるのは凄いことだし、それを叶えたことも凄い。私もリュウタみたいに夢を持って頑張る!」と言ってくれた。

エミリーにとって何らかの励みになる存在になれたことに喜びを感じた。


後日、祖父母に合格報告をするため普段は車で行くのだが、その日は家に使える車が無かったので電車でサプライズ訪問することにした。

安易な考えで行ったが祖父母の家は私が下車した駅から徒歩1時間の場所にあり、しかしも真夏の炎天下だったので死ぬんじゃねぇかと思いながら向かった。

祖父母宅に着き、数年ぶりの対面なので何て声を掛けようかと暫く考え、インターフォンを押した。

何度かインターフォンを押すと奥の方から「はいはい、ちょっと待ってくださいね~」という優しさの溢れる祖母の声が聞こえてきた。

ドアチェーンの外れる音が聞こえ、ドアが開いた。

祖母は、「宅配便ですか?」と数年ぶりということもあり、成長した私のことが分からない様子だった。

なので、「ばあちゃん、俺だよ。リュウタだよ。」と笑いながら答えると祖母は驚いた様子で「本当にリュウタかい!?大きくなったね~誰だか分からなかったわ~」と言った。

案の定、祖父も私のことが分からなかった。

「どこの誰なら!なんの用じゃ?」と祖母が私であること根気強く説明・理解させるまでかなりの時間が掛かった。

二人ともが理解してくれたあとは、お茶を飲みながら採用試験に合格した旨を伝えた。

それを聞いて祖父は「お巡りさんになるんか、そうかそうか、お巡りさんにな~」と感慨深そうに何度も連呼していた。

祖母は「ずっと仏様にお祈りしとったんよ、本当によかったね~」と喜んでくれた。

母親から「じいちゃんとばあちゃんがずっと気にかけとったよ」と聞いており、二人の嬉しそうな姿を見ることが出来て私も嬉しくなった。


合格報告をしていく中で私の夢を色んな人が応援し、支えてくれていたのだなと感じた。

それと同時に、人生の大きな節目に先立ってお世話になった色々な人に感謝を伝えたいと思うようになった。

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