第10話 三度目の正直
警視庁の採用試験を不合格になった私は、「本当に警察官になれるのか?」と不信感を抱いていた。
「今年一年間、地元の採用試験がある秋までどうするかなぁ~」
「ただでさえ、学歴で負け組なのに成人式ニートで出席はヤバすぎだろ、マジで…」と焦燥感に駆られていた。
ただ、警察官になる以外の夢や目標が無かった私は、その夢を叶えるために生きて行くしかなかった。
桜の花が見ごろを迎えた頃、父親が珍しく話しかけてきた。
「おい、県警の採用試験が春に行われるらしいぞ。」
「毎日スマホばっかり見とんなら確認してみぃ」
そう言われた。
この話を聞いた時は、「マジで?」と思った。
それは、チャンスが増える喜びと本当にそんなことがあるのか?という半信半疑の気持ちからだった。
というのも地元の採用試験は大卒区分であれば春にも採用試験が行われていたが高卒区分は秋のみ実施だったからである。
疑問に感じながらもインターネットで調べることにした。
「○○県警 採用」で検索をしたところ、県警のホームページが出てきた。
そこで県警のホームページを確認したところ「高卒区分の春採用試験開始」との見出しが出ていた。
鳩が豆鉄砲を食らったようだった…。
「えぇ~!チャンスが巡ってきたやんけ!」
採用試験の詳細を確認したところ、採用試験の申し込みはすでに始まっていた。
採用申し込みをするために「申込用紙どこで貰おうかなぁ~」と考えた。
数日後、運転免許を取るために免許センターに行く予定があったため、
「免許センターも確か警察の施設だから申込用紙配布してるだろ」
と考え免許センターで貰うことにした。
運転免許受験の日。
学科試験終了後、合格発表までの間暇だったので申込用紙を貰うことにした。
事務所窓口の係員に「県警の採用試験申込書をいただけますか?」と尋ねたところ、係員の方は警察官では無かったのか「担当の方を呼んできますので、ちょっとお待ちください」と言い事務所に入って行った。
暫く交通安全に関する掲示物を眺めていたところ、奥からスーツを着た男性が出てきた。
「こんにちは。申込用紙を希望されている方ですか?」と声を掛けてきたので「そうです。今年から高卒の春採用が始まるという話を聞いたので、試験のついでに貰いに来ました。」と答えた。
すると男性は、「こちらが申込書とパンフレットです。受験は何回目ですか?」と質問をしてきた。
私は「今回で3回目です。警察官は昔からの夢なんです」と答えた。
するとその男性は驚いたような顔をして「3回目!そうですか、志望動機とか詳しく聞いても大丈夫ですか?」と言った。
私の熱意を感じたのか定かではないが、その男性は熱心に色々な話をしてくれた。
思わぬ収穫を得た私は、今回の試験は何か風向きが少し変わっているような気がすると感じていた。
肝心の免許試験も合格で全てが御の字だった。
月日は流れ三度目の採用試験を迎えた。
教養試験の試験会場はいつも通り大学の講堂。
体力試験は、警察学校の体育館だった。
流石に三度目にもなると会場の空気感や日程も分かるため凄くリラックスして受験することが出来た。
教養試験は例年どおり問題ない出来で作文試験などを含んでも絶対受かる手ごたえを感じた。
体力試験も筋トレだけは欠かさずしていたので合格点は絶対ある。
一次試験はいつもどおりの出来だった。
合格発表の日。
合格発表サイトには、私の受験番号が掲示されていた。
一次試験を通過することは出来たが、毎回落ちる鬼門「面接試験」が立ちはだかる。
この鬼門は通過しないことには、採用試験はどうにもならないので遂に対策を講じることにした。
対策とは、面接練習と面接カードの見直しだ。
面接練習と面接カードの見直しは父親と父親の友人がしてくださった。
面接カードとは、一次試験合格後に送られてくる書類の一つで受験者本人が質問項目に記入を行い、これを元に試験官が面接を進める大変重要なものだった。
例年は、私一人で記入をし提出していたが今回は大人の知恵を借りることになった。
今年提出する予定だった下書きを見て父親の友人から「これじゃダメだな」と指摘が飛んできた。
何がダメなのかと言う説明の後、各項目を面接時の想定で質疑応答を行い、理由の確認をした。
私が過去に提出していた面接カードは、少し詰めるとボロが出たり中身の無い話になる自分に不利な面接するものだったことが分かった。
だから、自分に有利な面接をするための話が出来るエピソードや経験を主軸に書き直すことになった。
次に父親の友人と面接の練習をすることになった。
自宅の一室を模擬面接試験場にして入退室から練習を行った。
入退室の姿勢や声量から指摘を受けた。
父親の面前で真面目にするのが小恥ずかしいと感じていたが、全ては合格のためだと割り切り我慢することにした。
そして迎えた最終試験。
去年は曇天だったが、今年は快晴だった。
気持ち的にも去年よりいい感じだった。
今回は秋入校ということもあって新卒組がいないからか人数も少なかった。
待機場で順番待ちをしている時、数か月ぶりに感じる何とも言えないこの場内の張り詰めた異様な空気に吞まれそうになったが「三度目の正直じゃ、絶対上手くいく」と何度も自分を鼓舞した。
集団面接に私のグループが呼ばれ、肌寒く少し薄暗い廊下を歩いて面接会場に向った。
今回の面接会場も例年通りの教場だった。
試験開始前は「今回は意外と緊張してねぇな」と感じていたが、いざ始まってみると
他の受験者の緊張が声のトーンや発言の間、内容から伝ってきて、次第に緊張し始めた。
集団面接の出来はお世辞にも良いとは言えるものでは無かったが「他の受験生もあんな感じだったし、個人面接が大丈夫なら合格できる」と気持ちを切り替えることにした。
今回は、受験人数が少ないため個人面接に呼ばれるまでの時間も短かった。
「今回は練習もしたし万全の体制じゃ、三度目の正直やし絶対いけるわ」と深呼吸をしてからドアをノックした。
部屋の中から「どうぞ」と返事があった。
「失礼します!」過去一の気合と声量で入室した。
複数ある個人面接会場だが私は何故か毎回同じ教場だった。
なので雰囲気に戸惑うことは無い、警察官になりたいという気持ちを面接官に素直にぶつけるだけだと腹をくくり、練習で指摘を受けた気を付けの姿勢や礼の角度に気をつけながら面接を行った。
例年どおり「会場まではどうやってこられましたか?会場に来るまでのお気持ちはどうでしたか?」という質問から試験が始まった。
面接カードを書き直し、練習した甲斐があってかスムーズに返答することが出来た。
少し厳しい詰めの質問があったがそこは気合と気持ちで答えた。
最後に、真ん中に座る一番偉いであろう面接官から「最後に何か言いたいことはありますか?」と声を掛けられた。
私は、「はい、あります。必ず県民の役に立つ警察官になります。どうぞよろしくお願いします!」と言葉足らずな警察官に対する自分の熱い気持ちをぶつけた。
試験が終わり、家路の車内で母親が「お疲れ様、練習の成果を発揮できたんかな?」と聞いてきたので、私は「おう、これで受からんかったら手の打ちようがねぇわ。でも、絶対受かる自信があるけん大丈夫よ」と答えた。
母親に伝えたとおり、「今回の面接は絶対に受かる」と何故かそう感じた。
寧ろこれで受からなかったら、絶対に警察の採用試験は受からないだろうくらいの気持ちだった。
合格発表当日。
結果が気になりすぎて全く眠れなかった。
合格発表の出る午前10時までが途方もなく長く感じた。
Youtubeでオススメに出てくる動画を適当に見ながら、午前10時が来るのを待った。
午前9時半くらいになるとそわそわしながら県警ホームページと他のウェブサイトの往復を繰り返した。
午前10時。
ブラウザの更新ボタンを何度も連打した。
すると少し遅れて、「警察職員採用試験合格発表」のリンクが表示された。
リンクを押すと受験番号が列挙されていた。
「頼むからあってくれ」そう願いながら自分の受験番号を探した。
011.013.029.033〜
【061】
「あった!」
自分の受験番号がそこにはあった。
即行でスクリーンショットを保存した。
嬉しさのあまり「夢じゃないよな」と何度も受験票と掲示の番号を見返した。
間違いなく私の受験番号がそこには掲示されていた。
待ちに待ったこの瞬間が遂に訪れた嬉しさから「おっしゃ~」と衝動的に叫んでしまった。
間違いなくこれまでの人生で最高の瞬間だった。
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