第8話 二回目

高校を卒業してから初めて迎える秋。

二回目の地元警察の採用試験の受験日を迎えた。


一次試験に関しては全く心配していなかった。

教養考査・作文考査・適性試験・体力試験等…去年と大阪の経験から合格できるラインの要領は得ている。

問題は鬼門である面接…最終試験であると思っていた。


その考え通り一次試験は今年も突破することができた。

しかし問題は最終試験である。


母親が「近くの公務員専門予備校で試験対策講座を実施してるらしいよ、行ってみる?」と聞いてきたが自分の力で合格することに頑なにこだわっていた私は「いや行く必要ないわ。」と答えた。


最終試験の日。

試験会場に向かう道中、去年落ちた経験からくる不安と今年こそは絶対に受かるという自信とが入り乱れて頭の中がぐちゃぐちゃだった。

待機場で順番待ちをしている時、久しぶりに感じる何とも言えないこの場内の張り詰めた異様な空気に居心地の悪さを感じた。

そのため何度もお手洗いに行き、洗面台の鏡に映る自分を見つめ「俺なら大丈夫、絶対に受かるから。」と何度も自分を鼓舞した。


集団面接に私のグループが呼ばれ、肌寒く少し薄暗い廊下を歩いて面接会場に向った。

面接会場は日ごろ初任科生が各種教養を受ける教場だった。

無機質な教場には、窓側に長机が置かれており試験官が3人座っていた。

その向かい側に椅子が5脚、横一列に並べられていた。


面接官の質問に対して順番に自分の考えを答えていく方式だったが皆緊張しているのが声のトーンや発言の間、内容から伝ってきた。

会場の空気に飲まれた私は、緊張に拍車がかかり回答がちぐはぐで的を得ていないものになっていた。

「これはやべぇ。」と集団面接から待機場に戻る道中思った。

ただ個人面接の配点が集団面接の何倍も高いため「個人面接が大丈夫なら受かる、仕切り直しや!」と自分に言い聞かせた。


個人面接の試験室は何室かあり、各室一人ずつ次の受験者が廊下の椅子で待機するようになっていた。

そのため前の受験者がどんな質疑応答をしているのか気になって仕方がなく、耳を澄まして聞き取ろうとするも全く聞こえない…。

そんなことをしている内に順番が回ってきた。

監督官から「それでは入室してください。」と声掛けがあった。

「今年一年間この日のために生きてきた、気合入れろ、頑張れ!」と深呼吸をしてからドアをノックした。

部屋の中から「どうぞ。」と返事があった。

「失礼します!」と言い入室した。

去年も見た光景…。

試験官3人の視線が一挙手一投足に注がれているのを肌身で感じる。

武者震いを抑えながら、教場真ん中に置かれている椅子の横で気を付けをし、受験番号・氏名を告げた。

「それでは座ってください。」と面接官から指示を受けた。

着席してから、去年同様「会場まではどうやってこられましたか?会場に来るまでのお気持ちはどうでしたか?」といった質問から試験が始まった。

しかし試験内容は去年とは全く違うものだった。

去年は圧迫気味で返答に対する荒さがしをする試験官が二人いたが、今年は三人とも穏やかで荒さがしの突っ込みが少なく、逆に不安になるような試験内容だった。


試験が終わり、家路につく車中で母親が「今年はどうやった?」と聞いてきた。

私は「いや~去年と全く違ったわ。手応えはぶっちゃけ去年の方があった気がする…。」と答えた。

すると母親は「去年より手応え無かったら、ダメでしょ。とりあえずお疲れさま。」と笑っていた。


試験が終わってエミリーに「やっと試験がすべて終わったよ。」と連絡した。

エミリーとはまだPenpalとして連絡を取り合っていた。

そんなエミリーともしばらく連絡が取れなくなることがあった。

彼女が大学入学に際して携帯の機種変更をした際、既存のLINEアカウントが消えたのだ。

ある日突然、彼女のアカウントが[Unknown]となったので、「どうしたんだろうか?」と思いつつ、いつか連絡来るだろうと思っていた。

しかし、一か月は待っただろうか…連絡はこなかった。

以前からPenpalと突然音信普通になることはよくあることだったので、いつかそういう時が来るだろうと予期はしていたが、エミリーとは過去一番仲が良くなったPenpalであり、日本語で連絡も取れる唯一の相手だったので残念な気持ちになった。

当時、エミリー以外にも何人かのPenpalと連絡を取っていたが一番仲良くなったエミリーとの連絡も突然途絶えたことから、「所詮Penpalとのつながりはオンライン上の希薄なものだから止めるか~」と連絡を取るのが面倒くさくなった。

そしてPenpal探しも連絡も止めることにした。

「所詮はオンライン、俺には向いてない。でも、面白い経験が少し出来た。」と思うことにした。


そして、エミリーの存在を忘れ始めていたある日、Skypeに着信があった。

私は、Skypeのアカウントを持ってはいたものの使用することが全くなかったので「誰だ?」と思った。

画面には[エミリー] と表示されていた。

「エミリーって、あのエミリーか?」と思いながら電話に出たところ、彼女だった。

めちゃくちゃ驚いた。

「どうやってSkypeのアカウントを調べたのだろうか?」不思議で仕方がなかった。

エミリーは「ごめんね、電話変えてLINEなくなったから連絡できなかった。」

「電話番号見つけたから電話しようと思ったけど、ちょうど大学のことで忙しくて連絡できなかった。」

といきさつを話してしてくれた。

結構前に「国際電話は高いから掛けることないだろうけど…一応教えとくよ。」とたまたま電話番号を教えていたおかげでエミリーがSkypeで電話番号を検索し連絡をしてくれたのだった。

この偶然があってエミリーとは再び連絡を取るようになった。



県警最終試験合格発表の日。

「俺の受験番号がない…。」

と焦りまくっているところで夢から覚めた。

合格発表日という最重要イベントの日であるにも関わらず最悪の気分で一日が始まった。

なんか嫌な予感がするな…そう思った。


午前10時、合格者発表ページが更新された。

今年こそは合格して大はしゃぎする姿を少し想像しながら、ページをスクロールするが、私の受験番号は若い番号だったのですぐに気づいた。

「あ…ない。」

結局、今年も私の受験番号は無かった…。

「不合格だ。」

「いや…もう分かんねぇわ」

「これは警察官になる適性がないってことなのか…」

今までの人生挫折はあったものの何となくで今日まで生きてきた私にとって同じことでダブりをくらう経験は初めてだった。

流石に心が折れそうになった。


とりあえず、親に結果報告をしないといけないので夜、父親に話しかけた。

「今年もまた不合格になりました。すみません。」と頭を下げた。

父親は「お前、なりたいなりの努力をしとんか?相手は人を見るプロなんやから、付け焼刃なんか見抜かれるにきまっとるやろ!今後どうするつもりな」と今年もまた小一時間説教をされた。

「どうするつもりって言われてもなぁ」警察官以外考えていなかった私は返す言葉が無かった。

私の答えなしには説教は終わらないと分かっていたので、とりあえず前に調べていた情報を交えて「警察には絶対なります。警視庁が年明けに受けれるはずなので受験します」と答えた。

その答えを聞いて父は「1月何かあっという間に来るんやから、準備しとんか!?」とまーた説教された。


母親からは「警察官にこだわらんと消防も募集しとるし、市役所とかの行政職もあるんよ?」と高校卒業後から何度も他の業種を並行して受けることを勧められていたが警察官以外になる気はなかった。

警察官という職業は、紆余曲折はあったが幼いころからの夢であり、あの日「絶対に警察官になる」と大切だった人に向けた誓いと覚悟だった。

だから絶対に諦めることはできなかった。


とりあえず、その日のうちに警視庁採用試験のインターネット申込を行った。

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