第6話 Penpal

あのメッセージを送ってから2〜3日は経ったと思う。

いつものように昼頃に起きて携帯のメールボックスを確認するとJapan-guide.comからメールが届いていた。

「新規メッセージが届いています。」

という内容だった。

直ぐにサイトにアクセスし受信ボックスを確認すると

「リュウこんにちは!なるほど!それは超いいでしょう:)アメリカは楽しくて、面白い国ですと思います!よろしくお願いします~:3」

というメッセージが届いていた。

あのメッセージを送った相手から、日本語でメッセージが返ってきた。


完璧な日本語ではないが内容は理解できた。

内容よりも日本語で返信が返ってきたことにまず驚いた。

(日本語でコメントを書いてるぐらいだから当たり前だが…)


「おおマジか!日本語で返信がきた!すげぇ」

と驚きで胸が躍っていた。

自分から連絡をしたにも関わらず、返信が来るとは思っていなかったので、何を話せばいいのか考えていなかった。

とりあえず簡単な自己紹介から始めることにした。

相手は同い年の人で高校生だということが分かった。

同い年なのに何で高校生?と思ったがとりあえず吞み込むことにした。


直感で何となくペンパルになれそうな人だと感じたので、LINEなどのSNSアカウントを持っているか聞くことにした。

私たちが使っていたJapn-guide.comのコミュニティチャットはメッセージが来たら登録しているメアドに通知が来る仕組みになっていた。

そのため連絡するのに手間がかかるため、個人のSNSでやり取りをする方が楽だったので、他のペンパルたちともSNSなどで連絡をとっていた。


どんなSNSを使っているか聞いたところ、「LINEがあるよー」と返信がきた。

アメリカやヨーロッパではWhatsAppやFacebook Messengerが主流でLINEはマイナーだったので驚いた。

なんでLINEを持っているのか気になったが、まずLINEアカウントのIDが送られてきたので友達検索することにした。


教えて貰ったIDを入力したら、彼女らしきアカウントが出てきた。

名前は[エミリー]

プロフィール写真を見て思った。

「めっちゃ可愛い」と…。

俗に言う…一目惚れ。

「待て待て、俺は何を考えとんや」

相手は会ったことも無ければ、ろくに話したこともない人間である。

確かに可愛いがまだ早いだろうと元々ネット上の人間関係に懐疑的であった私は複雑な気持ちになった。

「とりあえず先ずはペンパルの一人として楽しく英語や色々な話が出来ればいいじゃないか」と自分に言い聞かせた。


仕切り直してLINEで再び自己紹介をすることにした。

エミリーは同い年で卒業を控えた高校4年生だった。

「何故高校生なのか」と質問したところ、「アメリカの高校は4年生制で9月から新学期・新学年になるよ」と教えてくれた。

また「アメリカで使用頻度の少ないLINEを何で持ってるの?」と質問したところ、「以前日本に留学していてホストファミリーたちと連絡するのに使っている。日本には何度か交換留学で留学しているよ」と教えてくれた。

「だから日本語が上手なのか」と納得した。


エミリーは卒業を控えた学生であるため色々な行事ごとで毎日忙しいと話しており、時差の影響もあって中々返信がこなかったが、たまにくる返信がなによりも嬉しく、毎日その返信を楽しみに生きていた。


ある日、『エミリーが写真を送信しました』と通知が来た。

初めて写真が送られてきたので「なんだ?」とドキドキしながらLINEを開いたところ、彼女のセルフィー写真だった。

「マジで!」と思ったけど、なぜ写真を送ったのか気になったので単刀直入に質問してみた。

するとエミリーは「顔を知らない相手と連絡を続けるのは何か変じゃない?リュウは写真持ってないの?顔見てみたい」と言われた。

そう言われればそうだ。

これからPenpalになろうとしているのに顔を知らずにずっと連絡するのは変である。

「信頼関係が大事なのに顔も素性も分からぬ相手と信頼関係は築けないよな」と思った。

というのも私はLINEのアイコンを自分の写真にしておらず、エミリーに顔を見せたことが無かった。


「俺、自撮りとかしないし、写真嫌いだから自分の写真なんてないよ」と答えた。

するとエミリーは「自分が嫌いなの?」と言った。

この言葉が胸にグサッと刺さった。

エミリーの言う通り、私は自分のことが好きではなかった。

ある時から、プリクラや写真を撮るのが嫌になったし、写真に写る自分が大嫌いだった。

だから、自分が写った最近の写真は全く持っていなかった。


でもエミリーは「探してみて、写真見てみたい」と言うので、写真フォルダ内から見せられそうなまとも写真がないか探した。

探し悩んだ末、高2の時に友人たちと撮影した一枚の写真を送信した。

後日、「おぉ、かっこいいじゃん!自信もって」と返信がきた。

自分のことが好きではない自分は「お世辞だろ」と半信半疑だったが嬉しかった。


エミリーは色んな写真をよく送ってくれた。

エミリーと友人の写真や住んでいるエリアの風景写真、その日の出来事を撮影して色々な説明をしてくれた。

「おお~映画やドラマで見るような世界があるんだなぁ~」と海外に行ったことのない私にとってとても新鮮なものだった。


連絡を取り始めてから数か月程たったある日、「ビデオ通話しない?」と連絡がきた。

私は「いいよ」と返信をしたが、物凄く緊張した。

会ったことない人とゲームのVCで話すことはあっても、ビデオ通話することなんてなかった。

ましてや相手は外国人なので「話通じんかったらどうしよう…」とか色々考えた。

外国人と話をするのは高校のALT以来だった。

ALTはおっさんだったので何も思うことは無かったが、今回は同い年の外国人なので滅茶苦茶緊張する。

「今かけてもいい?」と来たので、「いいよ」と返信した。


LINE電話の通知が表示され、着信音が鳴る。

一呼吸置いてから、電話に出た。

iPhoneの画面に彼女の姿が映った。

当時のiPhoneの画面サイズは現在のサイズでは考えられないくらい小さかったが、片手に収まる画面の向こうで動く彼女はとても可愛いかった。

「リュウ、こんにちは~」

エミリーの第一声を聞いて「おぉ、日本語うまいな」と思った。

LINEとかのメッセージで「日本語上手だね」と送っていたが、実際に彼女が発する日本語を聞いてより一層そう思った。

「麒麟って漢字知ってる?書いてみて!」

と言われたので、紙に書いて見せてあげたりと楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

当初「話が通じなかったらどうしようか」と心配していたがそんなことは全くなかった。

英語を教えて貰うことは無かったが、全く気にしなかった。

むしろ日本語でこれだけ話が出来ることに感激した。

そしてエミリーは実在する人物だったんだと安心した。

エミリーからの連絡を楽しみに明日からまた頑張って生きて行こうと思った。


ある日、エミリーに自分が目指している夢の話をした。

するとエミリーは「夢を持って頑張っているのはすごい、応援しているよ。リュウなら出来る自信を持って」と言ってくれた。

この言葉が凄く励みになった。

「エミリーといつか会える時に警察官として頑張っている姿を見せたい」そう決心した。


私は「警察官になる」という夢を叶えるために地元じゃない都道府県の採用試験も受けることにした。

とりあえず東の警視庁(東京)と西の大阪府警。


採用試験の日程が早い大阪府警にまず申し込みをした。

申し込み後は、去年と変わらずろくな試験対策をすることもなく「受かる」という気概だけを持ってエミリーからの連絡を楽しみにニート生活を過ごしていた。

そして、大阪府警の採用試験を迎える。





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