第4話 18歳、高卒、ニート
高2になっても絶望の高校生活は変わることが無かった。
なんせクラス替えはない…。
最初の数か月は席順が出席番号順にリセットされるのでリナの席が近い…気まずい。
頼むから席を早く変えてくれ、それよりクラス替えしてくれよと日々思っていた。
授業に関して言えば、デザイン系の科目は内容によっては面白かったが普通教科は絶望的だった。
国語や社会などは暗記ゲーだったのでまだましだったが、英語や数学などはチンプンカンプンだった。
英語は担任の教科だったので、しょっちゅう説教されていた。
「なんで宿題やってないの!」「このままだと単位足りんよ!」と…。
そして案の定、高2の冬にも特別三者面談が開かれた。
今度はガチでこのままだと留年だと宣告された。
英語と数学は現状のままだと何がなんでも進級させることは出来ないという判断だったらしい…。
面談の帰り道で母が「あんた、頼むから高校だけは普通に卒業してよ…。」
と真面目なトーンで話しかけてきたので、これはマジで何とかせねばと思った。
というのも当時、父親との関係は最悪であり唯一の話し相手というか理解者は母だった。
父親とは、顔を合わせても挨拶をすることは無く、全く会話をしていなかった。
父親からはよく「工業を留年しそうになる奴に何ができるんや」と言われていた。
言われるたびに「は?黙っとけ」と文句の一つでも言いたかったが、話をしたく無かったのでいつも無視していた。
母親は、私のせいで中学の頃と変わらず度々学校に呼ばれ教師に頭を下げてくれていた。
それでも母は私の夢を応援してくれていた。
(言うことを聞かないからそうするしかなかったのかもしれないが…)
だから出席日数を稼いで、宿題も空白だらけでも提出するようにした。
これが功を奏したのか、晴れて何とか留年を免れ進級することができた。
そして月日が流れた高3の秋。
紆余曲折を経た「夢の警察官」になるための県警採用試験を迎えた。
一次試験は筆記試験と適性検査、体力試験が行われた。
筆記試験は、大学の講堂が会場だった。
体力検査は別日に警察学校で実施された。
筆記試験と適性試験については、ネットで公務員試験のことを調べたり、過去問を見て「余裕だろう」と思っていた。
実際に試験内容は、簡単だったので「これは受かっただろう」と感じた。
体力試験は、この日に備えトレーニングをしていたので心配はしていなかった。
一次試験合格発表の日。
午前10時発表だったので学校に行かずにベッドの上で合格者発表サイトを眺めていた。
担任二人には、前日に「明日は合格発表あるんで休みまーす(笑)」と告げていた。
午前10時ちょうどにブラウザ更新をしても合格発表が出ないのでイライラしながら更新ボタンを連打していると数分経って表示された。
受験票を見ながら自分の受験番号を探した。
するとそこには自分の受験番号があった。
合格していた。
めちゃくちゃ嬉しかった。
直ぐに親に連絡したところ、親も喜んでいた。
翌日、合格したことを担任の先生に伝えた。
英語担当の担任の先生は、「おめでとう、ここからが大変だから面接練習しないといけないね。」と二次試験の対策について熱心に考え、アドバイスを与えてくれた。
デザイン担当の担任の先生は、「よく受かったな、おめでとう。過去に警察試験受けた教え子みんな合格しとるから頼むで」と言われた。
それから面接練習をするように何度も言われたが放課後は遊びたくて仕方なかったので面接練習をすることは無かった。
「だって警察になりたい熱意をアピールするだけだろ、そんなもん練習する必要ねぇよ」と高を括っていた。
そして、県警最終試験の日を迎えた。
待機場で順番待ちをしている時、その張り詰めた空気とこれが終われば夢が叶うという現実から武者震いが止まらなかった。
面接は集団面接、個人面接の順にあっという間に終わった。
受かる気しかしなかった…家路の車内で母親に「絶対受かったわ」と伝えた。
母親は「受かるといいね」と言った。
翌日、担任から面接の出来について聞かれたが、私は自信満々に「余裕っす!絶対
受かりました」と答えた。
それから、ある問題が起こった。
放課後、数学の教師に呼び出されたのだ。
「お前、このまま宿題も出さず授業も寝とるつもりなんか⁉」
「県警に受かろうがワシには関係ねぇ、卒業の単位がねぇ奴は卒業させん」
と鬼の形相で怒鳴られた。
腹立った私は、「あーそうすか、ご自由に」と反抗的な態度で職員室を後にした。
県警に受かっても卒業できないという問題が浮上してきたのだった…。
でも、私は気にしなかった。
「合格していれば何とかなるだろう。教師も配慮するだろう。」そう思った。
そして、県警採用試験最終合格発表の日。
午前10時になると同時に合格者発表サイトの更新ボタンを何度も連打した。
やっと開いたサイトには、受験番号が列挙されていた。
心臓が飛び出そうなぐらいの緊張を感じながら自分の受験番号を探した。
「俺の受験番号はどこかなぁ〜」
011.013.029.033〜
どんどん自分の受験番号に近づいていく。
146(計31名)
「あれ…?何で俺の受験番号がねぇの?」
何度自分の受験番号を探しても見つからない…。
「え、そんなわけないやろ。」
この現実から足掻きたかった自分は、チャリを漕いで県警本部警務課採用係に情報開示を求めに行った。
受付で受験票と氏名を告げ、職員に開示を求めた。
その職員は、簿冊をめくりながら戻ってきた。
そして、あるページを提示しながら口を開いた。
「あ~不合格ですね。」
提示されたページには氏名と受験番号、点数、順位、不合格の文字が書いてあったと思う。
「不合格」という言葉を聞いた瞬間に頭が真っ白になったので、詳しくは覚えていない。
家までの足取りは本当に重たかった。
担任と数学教師に強気の啖呵を切ったことが本当にださい。
そして、父親にこの結果報告をすることが本当に億劫で仕方がなかった。
その日は学校をサボって公園でボーっとしていた。
夕方に腹が減ったので家に帰った。
リビングに行くと父親がいたので「採用試験駄目でした。すみません」と頭を下げた。
すると父親は「世の中舐めたらいけんで、試験に向けてなんの努力をしたんな」という言葉を皮切りに説教を始めた。
父親の言うことは正論だった。
だが、現実逃避したい自分は「落とした面接官の見る目がねぇのがわりぃ」と決めつけた。
最後に「お前これからどうするつもりや、何にもせんでも卒業の日は来るんぞ」と言われたが、今後のことなんて全く考えてなかった。
だから何も言えなかった…。
何も言わずただうつむいている自分を見限った父親は「自分に不都合なことがあるといつもだんまりやな、そんなことじゃ生きていけんぞ」と言い残しリビングを去った。
その後、母親が優しく諭してくれた。
「高校卒業してから何もしないわけにもいかないんだから、しっかり考えなさい」と言われた。
自室に入り、ベッドに寝転がり天井を見つめた。
絶望。
一気に全身から気力がなくなる感じがした。
「マジか。俺の何がダメだったんだ。」
面接試験を何度思い返しても答えは全く見つからない…。
私は、合格することで
「中高と迷惑をかけていた両親を安堵させることができるんじゃないか」
「進学校に進学した友人を見返してやれる」
なんて色々な事を考えていたが、全てが終わった。
「俺の人生最悪だ……。もう面倒くせぇ。」
そうして、無気力なまま残りの学校生活を過ごした。
気がつけばクラスで進路が決まっていないのは自分だけとなっていた。
ある日の放課後、3回目の特別三者面談が行われた。
「全教科成績が悪いですが、英語と数学が著しく悪くこのままでは卒業できません」
と告げられた。
さすがの母親も「あんた高校だけは卒業しなさいよ」と結構語気強めに言っていた。
それから話が進み「進路はどうするの?今から、一般企業や大学を受けるのは難しいけど、予備校とか専門とか行かないの?」と色々な提案をされた。
しかし私は「俺、行かないっす。独学で警察になってみせます」と答えた。
家に帰ってから親と再度話をしたが私の意見が変わることは無かった…。
そして、クラスで唯一進路が決まることなく高校卒業の日を迎えた。
(裏話で卒業が出来たのは、担任の先生が各教科担当に頭を下げてくれたおかげで卒業することができたらしい…。)
卒業式に出るのが面倒くさかった私は、前日の卒業リハをサボっていた。
しかし、担任から何度も電話が掛かってくるので電話に出ると「明日は絶対に来なさいよ」と言われた。
母親も仕事の休みをとって卒業式に出席すると言うので、しぶしぶ出席することにした。
卒業式。
肌寒い日だった。
布団から出たくないと思いながらも昨日のことがあるので渋々起きることにした。
久しぶりに自転車で通学路を通ると「懐かしい」という気持ちが込み上げてきた。
始業ギリギリの到着で教室の扉を開けるとクラスメイトは皆揃っており各々記念撮影や談笑をしていた。
久しぶりの教室とクラスメイトがとても懐かしく感じた。
自分の席に行くと「リュウさん来たんだね。今日も来ないのかと心配したよ(笑)」と男子二人とマナさんたちに声を掛けられた。
私は「いや~先生から電話あってさ、来ちゃいました(笑)」と照れながら答えた。
着席するために椅子を引き出すと机の引き出しに卒業アルバムが入れられていた。
「卒業アルバム昨日配られてさ、皆で寄せ書きしたんだよ。寄せ書き書くからアルバム貸してよ」と仲良かった友達が卒業アルバムに寄せ書きを書くために集まってくれた。
この光景を見ながら「皆ともっと思い出を作ればよかったな」と少し後悔した…。
卒業式の式典内容は覚えていない。
前日のリハーサルに出ていなかったから式典の進行もよく分からない。
「寒いし、早く終わってくれよ」と座りながら思っていた。
卒業式後、教室に戻り最後のホームルームがあった。
そこで一人ずつ教壇に立ち挨拶をすることになった。
私の番はすぐに回ってきた。
壇上に立つと座っているリナと教室の後ろ側で立っているリナの父親の姿が見えた…。
頭の中に色々な思い出と気持ちが込み上げてきた。
「採用試験に合格してこの場に立ちたかったな…」
「リナと出会い警察官を再び目指すことになってから今日までの日々はなんだったのだろうか…」
とネガティブな気持ちに押しつぶされそうになった。
「いや違う。人生を悲観し夢や目標も無く生きていた自分に彼女が夢を目指すキッカケを与えてくれた。だから恩人に胸を張れる人間にならないといけない」そう思った。
すこしの沈黙の後、私は口を開いた。
「えー、三年間ありがとうございました。皆さんには色々とお世話になりました。いつか必ず警察官になって胸を張れる人間になります。本当にありがとうございました。」
そうして私の高校生活は終わりを告げた。
18歳、高卒、ニート。
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