25話「残り2日」
25話「残り2日」
「もう!びっくりしたんだからね。勝手にいなくなるなんて。もしかして魂が違うところにいっちゃったのか、いろいろ考えちゃったんだからね」
「悪かった。けど、そんな心配する事じゃないだろ」
「ちゃんと言って!!」
「わかった。だから、怒鳴るなって……」
花と凛が一堂との話を終えて店に帰ってくると、雅がかなり心配していたようで店先でうろうろとしていた。
花が抱えていたテディベアを見て、雅ははーっと大きく息を吐いた。そして、「よかったー」と、弱弱しい声を出しながらヨロヨロと近づいてきた。
そして、先程のように怒りだしてしまったのだ。あまりに心配だったのだろう。
「ごめんね。私も一言雅に連絡しておけばよかったね」
「花ちゃんはいいんだよ。勝手にバックに入ったのが悪いんだから」
「でも、ほら、何もなかったしね……」
「凛がそんなに行きたい場所があるなんて、どこに行ってたの?」
「えっと、そのー」
「布屋だ。こいつが手芸屋に行くって話してたからこっそりついていった」
花が言い迷っていると、凛がそう嘘を告げた。
花は一瞬驚きながらも「そうなの」と話を合わせると雅は「それなら俺に言ってくれればいいだろ」と言いながらも納得してくれたようだ。
どうやら、凛は十三師の所に行った事を雅には伏せておきたかったのだろう。もし話を聞きに行った事を伝えれば、雅だって結果を知りたくなる。けれど、それについては彼にまだ伝える事など出来るはずもなかった。
もしから、という不確定な情報で、成功するかもわからないのだから。
「今日、花は泊っていくって」
「え、あ、うん!お邪魔してもいいかな?」
「それは大歓迎だけど。珍しいね、花ちゃんから泊まりたいって言うなんて」
「おまえの手料理食べたいんだってよ」
「そうなの?じゃあ、頑張ろうかなー」
すっかり機嫌を取り戻した雅は、献立を考えながら足早に店の中へと戻ってしまう。
花は彼に聞こえないように、凛に問いかけた。自分では、泊まるつもりなどなかったし、そんな話をしていなかったからだ。
「ねぇ、どうして泊まる事になったの?」
「いろいろ決めなきゃいけないだろう?あと数日しかないんだ。何とかして終わらせる。計画立てなきゃいけない」
「うん」
「あいつが料理中や仕事中、あとは寝てる時が勝負だからな」
「そうだね」
一堂に教えてもらった事が本当に成功するかはわからない。
だが、他の方法もわからない。
だから、考えついたことをやるしかないのだ。
凛と花は頷き合い、時間を見つけてはお互いの出来る事をやろうと決めたのだった。
雅が2人から離れている時間を見つけては、花と凛は2人で話し合ったり、作業を進めていた。
雅にテディベアの作り方を指導してもらったり、店の説明も受けているようで凛は大変そうだった。花は自宅に帰り休むことも出来るので、凛が心配になった。けれど「凛が寝てくれるから俺は寝なくても平気なんだ」と言い、ほとんど起きているようだった。
そんな日々も長くは続かない。
あっという間に数日が過ぎてしまう。忙しい時こそ、時間の流れは早く感じてしまうものだ。
四十九日という貴重な時間を穏やかに過ごして欲しいと思いながらも、せわしなく生活をしていた。
けれど、雅は毎日が楽しいようで、いつも笑顔だった。
残り僅かだというのに、不安など全く見せる事がないのだ。
もう終わりを見据えているのだろうか。そんな風に思っていたが、それはどうやら違うようだった。
それがわかったのは、残り2日となった夜の事だった。
「俺は、まだこの世界に残るよ。成仏もまだしなくていい」
「………え」
食事をしながら、凛がそんな事を唐突に言い始めたのだ。
花と凛は唖然として思わず固まってしまう。
「今日、病院に行ってきたんだけど、どこにも異常は見られないみたいだったし、四十九日きっちりにしなくてもいいかなって。凛ちゃんのお父さんも過ぎていたけど大丈夫だっただろう?」
「で、でも凛さん、どうして急にそんな事を」
「2人共、俺のためにいろいろ調べてくれているんでしょ?俺に隠れてやってくれてみたいだったから。でも、そんな無理はしなくていいよ。凛に体は返したい。けど、2人に無理させるわけにはいかないし。だから、せめて時間は気にせずにやって欲しいんだ」
雅は気づいていたのだろう。
凛と花がコソコソと何かをしている事を。そして、それが四十九日の奇だという事が。
申し訳なさそうにそう言う雅は、少しだけ悲しそうだった。
彼にそんな表情をさせるためにやっていたわけではなかった。
けれど、雅に心配をかけてしまっていたのだ。
やはり、全て雅に話をするべきだったのだろうか。花は、そう思った。
「俺達は明後日にお前を送る」
「……え」
「勘違いするなよ。俺の体は取り返すし、おまえを成仏させる。それは絶対だ。決まり通りに、四十九日のうちに必ずにお前を上の世界まで連れて行ってやる」
「………凛」
凛は変わらずにまっすぐ前を向いている。
疲れや不安もあるはずだ。それなのに、出来るとと信じている。
信じないと出来ない。それをわかっているのだ。
それを曲げずに貫く事は難しい。
一度、辛い事を言われただけで花は決心が揺らいでしまった。逃げてしまった。
けれど、凛は逃げずに前だけを見ている。
こんな風になりたい。花は強く思った。
それと同時に、凛の本当の気持ちも知りたいとも。
「ありがとう。そうだね、凛という通り諦めない事にするよ。ダメだったらその時に考えればいい。俺だって、凛の体を燃やすつもりはないからね」
「ダメになんかならない」
「あぁ。その通りだ………」
頑なに曲げない凛に、雅はクスクスと笑いながら返事をした。
3人は最後の日に目を向けていく。
終わりたくないと願っていても、その日は来てしまうのを大人である私たちはもう知っているのだから。
急ぎながらも、ゆっくりと、3人の時間を大切に過ごしたい。
それぞれは、お互いにそんな風に思っていたはずだった。
その日の夜。
岡崎から電話があった。
それは「明日から仕事に復帰していいと通達が来た」そんな連絡であった。
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