22話「協力者」
22話「協力者」
目を覚ました花は、寝る直前の約束を雅に聞けずにいた。
花が起きると、すでにクマ様は起きていたので話ずらかったのだ。そのまま、遅めのブランチをいただいた後、花は1度帰宅することにした。
凛と雅の写真を持ってきたかったのもあるが、1度one sinの支店長である岡崎に連絡をしたかったのだ。それに、先輩である冷泉も心配してくれているのではないかと思ったのだ。
帰宅後すぐに店に連絡を入れる。
平日の昼間となると、きっとそんなに混んではいないだろう。忙しいときはかけ直そう、そう思った。何て言われるのか、「もう辞めたんじゃないの?」そんな事を言われてしまうのではないか、と不安になってしまう。が、それで何もしなければすすんでいけないのだ。もし、辞めることになっても私には帰る場所がある。そう思えるだけで、花は強くなれるような気がした。
『乙瀬さん!?大丈夫、心配してたのよ……』
電話出たのは、運良くも花の指導係の乙瀬だった。驚いた後は、すぐに涙声になる。やはり、彼女は花の事を心配してくれていたようだ。しかも、他のスタッフより花の詳しい事情を知っているからこそ、不安になったのだろう。
花は目の前に相手がいないのに、自然と頭を下げてしまう。
「冷泉さん……すみません。ご迷惑お掛けしてしまって」
『あなたは何もしてないじゃない。……本当に酷いことを……』
「………」
自分の味方はここにもいる。
それだけで、花は自然と笑みを浮かべられた。
そんな人が1人でもいるだけで、私は帰れる。また、仕事をこなせる。そんな風に思えるのだ。
『………乙瀬さんですか?』
遠くから岡崎の声が聞こえた。話の内容から花が電話をかけてきたとわかったのだろう。冷泉は「いつでも戻ってきていいんだからね!」と激励の言葉を花に残した後に、岡崎と変わってくれた。
『乙瀬さん、お電話ありがとうございます。本社の方から電話したと聞きました。……大丈夫でしたか?』
「……はい、応援してくれる人がいるので。大丈夫です」
『そうですか……。それは、心強いですね』
もう弱音を吐こうとしない花の声を聞いて、岡崎は安堵の息と明るい声が電話口から聞こえた。
「岡崎店長。……私は、自分から辞めるしか道はないのでしょうか……?」
仕事を休むように上司に言われたのが1日前だが、しばらくという事は出社していいと言われるまでは何もできないという事を意味していた。そうなると、もちろん給料も入らない。
何も通達が来なければ、待機したままになるため、自分から辞めると伝えるしかなくなるのだ。それを待っているのだろうか、と思えてくる。
その花の考えは当たっていたようで、岡崎は表情を歪めたまますこしの間固まってしまった。
『………残念ですが、会社はそのつもりのようです。自分達から辞めて欲しいとは言えないため、自主退社にもっていきたいのでしょうね。……そのやり方を私は賛同出来ませんが』
「………そうですか。岡崎さん、one sinって副業的な事ってしていいんでしたよね?」
『え、えぇ……。個人のため、会社のためになるようなものでしたら大丈夫ですが………。乙瀬さん、まさか何か仕事が決まりそうなのですか?』
予想外の質問に、岡崎は驚きながらも答えてくれる。花は自分の決めた事をはっきりと岡崎に伝えておくことにした。
「今、相談したり、仲良くしてくださっている方が、お店をやられていて。そこに誘われています。少し興味があるのは事実なんです。ですが、one sinをやめるつもりもないです。お休みの日に手伝えたら嬉しいな、と思っていて。それぐらいは大丈夫ですか?」
『それはもちろん、大丈夫ですが……』
「私、岡崎さんにた助けていただいてone sinに入る事が出来たのが嬉しかったんです。こんな私を気にかけてくれてる人がいるんだって。だから、岡崎さんに認められるように頑張ろうって決めたんです。それに、one sinの制服、大好きなんで気に入ってるんです」
『乙瀬さん………』
「だからだめだとしても、もう少しだけ粘って見てもいいですか?早くお役に立てるように頑張りますので」
『やはり、私の目に狂いはなかったようですね』
「岡崎店長?」
岡崎のくすりとした微笑んだ声が小さく耳に入った。が、それが上手く聞き取れずに花は聞き返そうとするが、岡崎はもう話してくれる様子はなかった。
『何か進展があったり、不安な事があったらすぐに電話をください。あなたは私の大切な部下なのですから』
「ありがとうございます」
父親が亡くなり、母親も離れて行ってしまった。そんな時、自分は一人きりなのだ。そう思っていた。
何をしても人の目が気になり、笑っている人を見ると、自分が嘲られているのではないかと不安になる。
楽しい事も何もなく、ただただ呆然と過ごすか、現実から逃げるためにただ寝て過ごす日々だった。
けれど、1歩自分から外の世界へ踏み出した途端に、こんなにも自分の傍に居てくれる人がいるのだと気付かされた。味方をして、応援してくれる。
花を1人の人間として見てくれる。乙瀬家の娘、という肩書だけではない。自分自身を。
岡崎との電話を切った後、花は手で流れそうになった涙を拭った。
人に優しくされると、最近すぐに泣いてしまっている。
これでは、凛や雅にまた「泣き虫」と言われてしまう。
花は、立ち上がり棚からレース編みの道具を取り出した。
今、自分が出来る事をしよう。
花はそう決意して、黙々と真っ白なレースを編み始めた。ただ寝ていても、隠れていても何も変わらない。行動すればいつか何かのためになる。
自分がそうであったように。
それだけを考えて、花は夜になるまで編み続けた。
けれど、もう1つの考えなければいけない事は、まったく解決策が浮かばないのだった。
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