拡がる戦い

暗雲の中の帝国

 ブロッス帝国皇帝ギガスは魔族の手により命を落とし、その生涯を閉じた。


 ギガスが息を引き取ると、エンビデスが部下にある指示を出している。


「陛下のご遺体を安置所まで運べ、くれぐれも丁重にな」

「はっ!」


 エンビデスの部下はギガスの遺体を安置所まで運び、床に落ちたギガスの血液も別の者が拭いていた。


「……陛下……」

「カイス……」


 ギガスの死により気が沈んでいるカイスにギンは声をかけることができず、エンビデスに今後の事を尋ねる。


「エンビデス、お前達は今後どうする気だ?皇帝であるギガスの死は帝国に多大な影響を及ぼす。それについてどう考えているんだ?」

「陛下の死を契機に動きを起こす者は必ずいる。我々は当面その者達への対処を優先せざるを得ない」


 エンビデスの言葉を聞いてブライアンは疑問が浮かび、エンビデスに尋ねる。


「なあ、休戦のことはどうするんだ?まさか皇帝さんが死んだから白紙に戻すなんてことはしねえよな?」

「案ずるな、我々としてもお前達との休戦をする必要はあると思っている」

「安心したぜ、その代わりってわけじゃねえが俺達もその帝国の混乱を鎮めるのを手伝ってもいいぜ」

「いや、それには及ばぬ」


 ブライアンの申し出をあっさりエンビデスが断った為、思わず聞き返す。


「何でだよ?折角、人が協力する気になってんのによ」

「この休戦を終戦の前段階ではなく、帝国の軍事力の回復の時間稼ぎと考える者もいるはずだ。帝国内の鎮圧に反帝国同盟の手を借りたとあってはその者達も離反しかねん」

「それはあんたらが説得すりゃあなんとかなるんじゃないのか?」

「陛下のお言葉なら聞くだろうが、我らではゆっくり時間をかけながら説得するほかない、それこそ休戦の期間を利用してな」


 エンビデスは少なからず帝国内にも反プレツ派が多くいることを理解しており、その者達の説得は時間がかかると踏んでおり、更にルルーも話に加わる。


「確かにそうだわ。私達を良く思ってない人達は帝国には多いはずだから」

「ルルー、お前までそう言うのか」

「ブライアン、私達が彼らに力を貸すのは帝国内の反プレツ派を煽るだけじゃなく、反帝国同盟にも影響を及ぼすのよ」

「それは一体どういう意味だ?」


 ブライアンがルルーに尋ねるとムルカが話し始める。


「私が説明しよう、このまま我々が帝国の内乱に介入してしまえばそれは内政干渉と周辺国家にとられ、今の同盟から離脱、場合によってはプレツへの侵攻の口実になりかねん」

「そうよ、今の状況を静観しているのは私だって辛いわ。でもこれ以上の混乱は避けなくちゃダメなの」

「こんな時も国同士で牽制しなくちゃなんねえなんて……」


 ブライアンもルルーもやりきれない思いを抱えながら今の状況に耐えるしかないことを理解するほかなかった。


 皇帝ギガスの死後の帝国には暗雲がかかっていた。

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