最後の命令

 突如、魔術師の魔法の前に倒れたギガス、そんな中魔族であるブリックとピッキーが現れ、さらに魔術師の正体はアルドというなの魔物であり、一気に事態は混迷する。


「ふっ、しかし武神の力が弱まれば、皇帝も大したことはなかったようだな」


 アルドの発言に激昂したカイスが怒りを露わにする。


「何だと!貴様、陛下を侮辱するとは!」

「事実だろう、俺は剣こそ魔族一だが、魔法の方はそうでもない、そんな俺の魔法で今にも死にそうなんだからな」

「貴様……ならば私が貴様を討ち取ってやる!」


 そう言ってカイスは剣を抜き、アルドに斬りかかるが、思ったように動かず、アルドに剣をかわされてしまう。


「くっ、身体に力が入らん……」


 身体に力が入らないカイスにルルーが呼びかける。


「カイス、私の治癒魔法では傷の治療はできても体力まで完全に戻すのは無理なの」

「何!くっ……」


 自身の体力が万全ではないことでアルドに剣をかわされたことを悔しがるカイスにギンが声をかける。


「無理をするな、カイス、こいつらは俺達に任せろ」


 戦おうとするギンに対し、ジエイとヨナが言葉をかける。


「待って下さい、ギン殿、ギン殿も魔力が戻っていないはずです」

「ジエイの言う通りだよ、それにエイムも魔力が少ないはずだから、あんな魔法剣は今は無理だよ」

「我々と帝国軍でならば奴らを追い払うくらいはできます」

「そうだよ、ここはあたし達に任せな」


 ジエイとヨナが臨戦態勢に入るのを見たアルドが剣を構える。


「おもしろい、少しは楽しめそうな奴らがいるようだな」

「待って下さい、アルド、ここは退きましょう」

「少しは敵の戦力を削っていたほうがいいんじゃないのか?」

「残りの帝国の全戦力と今の我々じゃ分が悪いでしょう、それに帝国はほっといても自滅への道を歩みます」


 ブリックの説明を聞き、とりあえず退く態度をアルドは示す。


「仕方あるまい、楽しみは後にとっておくのもまた一興か」

「フフフフフ、それでは皆さん、またお会いしましょう」


 ブリックがそう言うと、3人の魔物はその場から姿を消した。


「転移魔法ですね、これでは魔力を追えません」

「我らの魔力感知の精度が落ちている隙をつくとは、不覚であった」


 エイムとエンビデスが互いの考えを話していると、カイスが叫びながらギガスに呼びかける。


「陛下!陛下!」

「カイスよ、余は力をもって、全てを従わせようとした、その報いを受けたという事だな」

「それは違います、陛下は魔族を倒す為、自らが先頭に立ち、我らを導いてくださいました」

「カイス……」


 さらにカイスは涙を流しながらギガスに呼びかけ続ける。


「私は……陛下の理想を信じ、今日まで戦ってきました。陛下の理想は我々が……必ず叶えます……ですから……どうか……」

「……魔導騎士団長カイスよ、ブロッス帝国皇帝としての最後の命令をくだす……、涙を人に見せるのは今日で最後にせよ」

「……はい……」


 エンビデスがギガスに対し声をかける。


「申し訳ありません、陛下、陛下の理想を叶えられずこのようなことになってしまい……」

「謝る必要はない、余がこうなってしまったのは余の弱さよ、まだお前には苦労をかけるが、カイスを支えてやってくれ」

「はっ、この身尽き果てるまで……」


 最後にギガスはギンに対して呼びかける。


「ギンよ、余を打ち負かした主らならば、余の理想を実現できるやも知れぬ」

「帝王ギガス、俺達は俺達のやり方で、この世界に平穏を取り戻してみせる。だからもう……」

「それでいい……それでこそ……だ……」

「帝王よ、安らかに眠れ……」


 ブロッス帝国皇帝ギガスはここにその生涯を終えた。志半ばで倒れたが、その志を形を変えて引き継いだ者達がここにいた。

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