信じるからこそ

 ジエイが後方より迫る魔導師団の一員を食い止めている間にギンはエイムを救出するため、再度今回の作戦の指揮官であるアビィを追撃する。


 走ってはいるが、確実に追いつくためにギンは決断をした。


「出し惜しみはできん」


 そう言ってギンは速度強化の魔法を使用し、アビィに対し猛追していく。


 逃走を図っているアビィに対し、部下から報告が入る。


「アビィ様、敵が迫りつつあります!」

「くっ!しつこい奴め!」


 これ以上追い付かれるわけにはいかないアビィは部下達に命令を下す。


「お前達、これ以上追い付かれるわけにはいかん、全員で奴を食い止めろ!」

「ですがアビィ様、アビィ様をお守りする者がいなくなってしまいます、それに……」

「それに、何だ……」


 アビィが冷たい目で部下を睨むが、部下は少々狼狽しながらも自身の意見を伝える。


「し、少々申し上げにくいのですが、アビィ様お1人ではその娘を抑えるのは難しいかと存じます」

「何を申すかと思えば、そのようなことか。確かに私の魔力はこの娘に劣る。だがこの娘も疲弊しているうえ精神状態も良くはなかろう。そうなっては私の魔力でもこの娘は抑えられる」

「しかし……」

「くどいぞ!お前達は私の命令に従っておればよい!早く奴を食い止めてこい!」


 部下の進言も聞き入れず、アビィはあくまでも食い止めるよう部下に命令を下し、部下も従う他なかった。


「はっ」


 アビィの部下達は迫るギンを食い止める為にギンの迎撃へと向かう。


 そしてアビィは逃走を図る為、エイムの手を引こうとするが、どういう訳か動かない。


「どうした、行くぞ」

「行きません、さっきの人の助言を聞かなかったあなたの負けです」


 エイムはそう言うとアビィに対し風魔法を放つが、アビィは魔力障壁を張る。しかし、魔法の勢いがあり、アビィの体は吹き飛ぶ。


「ぐはっ!馬鹿な、あれ程精神が追い込まれながらまだこれ程の魔法が撃てるとは、思った以上に図太い娘のようだな」

「私は……私を助けに来てくれる人を信じています!だから辛くてもやらないとダメなんです!あなたは自分しか信じていない、だから私はあなたには負けません!」

「何をぬかすか、小娘が!私は帝国の為に力を尽くしている、何も分からぬ小娘が調子に乗るな!」

「本当に帝国の為なら、さっきの人の意見だって聞けるはずです!自分しか信じていないからこんな風になっているんです!」


 エイム自身の言うように、エイムは多数相手には無駄な抵抗だと分かっていた。それでもギンが自分を助けに来ると信じたからこそ、辛い事実を知っても耐え忍び、わずかなチャンスにかけ、反攻に転じたのだ。


 そして希望を信じたエイムの元へ、その希望が訪れた。


「待たせたな、エイム……」

「ギ、ギン……さ、ん」


 エイムの元へと到着したギン、いよいよ救出の時だ!

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