今日の死予報

@kkk222xxxooohhh00

謎の少年

高校1年の一学期もあっという間に過ぎ、気が付けば夏休みに突入していた。

夏休みの初日は、気温35度を超える猛暑日だった。


 蜃気楼でぼやけるアスファルトを眺めながら、俺は意味もなく住宅街を散歩していた。異常気象とも言える真夏の熱気が、風に乗って俺に迫ってくる。


 こんな暑い日はあの日の事を思いだす。


 俺、神田望人はあまりの暑さに白いTシャツの半袖を捲りあげた。

 鍛え上げた上腕二頭筋があらわになる。


 「あっつぃ」


 しばらく散歩を続けていると、向こう側から歩いてくる少年が見えた。

 黒を基調としたタンクトップにドクロのマークという、いかにも柄の悪い服を着ている少年は俺を気に留めることもなく、俺とすれ違う。


 すれ違ったと思ったら、唐突に俺の腕を少年は掴んできた。


 「うおっなんだよ!」


 少年はうんともすんとも言わずに、ただ無表情で俺の腕を掴んでいた。

 何事かと思って少年の手を振り払おうとしたその時、目の前の電柱がおぞましい程の爆音を響かせながら倒れた。


 俺は目を丸くした。


「で、電柱が…!?」


少年が腕を掴んで引き止めてなかったら、きっと俺は死んでいた。

俺は丸くなったままの目で少年を見つめた。少年はいかにも不機嫌そうな顔で俺から手を離す。

電柱が倒れたという事実を涼し顔で流してそのままどこかに行きそうな雰囲気の少年を引き留めるように、俺は少年に話しかけた。


「ねぇ君、電柱が倒れるってこと…もしかして分かってた?」


「…」


少年は何も言わなかった。

まるで俺に一ミリも興味がないかのように少年は歩き始める。

俄然、興味が出てきた俺は、歩く少年についていった。


「ちょっと待ってよ…君は電柱が倒れるって分かってて俺のことを助けてくれたの?だとしたらありがとう」


少年はやっぱり何も言わない。

心なしか、少年の歩くスピードが上がってるような気がした。


そこからもうしばらく少年を追いながら質問を繰り返したが、余りにも少年の反応がなかったので、俺は少年を追うのをやめた。


「くそっ、ちょっとくらい反応してくれればいいのに」


少年の背中はどんどん離れていく。


あの少年、電柱が倒れるということを絶対知っていたに違いない。

でなければ、急に知らない人の腕を掴む事なんてしないはずだ。

何故、あの少年は電柱が倒れるという事を予測出来たのだろうか?

考えれば考える程、沼にハマるように興味が湧き上がってくる。

俺の心の奥底にある本能が、少年を調べろとうずく。


「ちょっとだけ追尾してみるか」


対してこの後の予定もなかった俺は、電力会社に『電柱が倒れた』と通報した後に少年を追尾することにした。

セミは飽きることなく、甲高い鳴き声を重なり合わせていた。


住宅街の角から少年を凝視する俺は、傍からみればただの不審者だ。

通報されない事を切に願いながら、俺は少年を観察する。

少年は今からどこに行くのだろうか。

親近感が全く湧かない無愛想な少年の行き先を予想するのは、思った以上に困難だった。

自宅に帰る所か?


予想を張り巡らせながら、慎重に少年について行く。

歩く事も飽きてきたぐらいの頃に少年は止まった。

止まった場所は目的地としてはあまり相応しくないと思う、道の中央。

ここが目的地なのだろうか。と思いながら俺は少年を背中を見守る。

すると、少年は唐突に声をあげた。


「お前さっきから何ついて来てんだよ。」


少年は、こちらを見ていないのにも関わらず俺が追尾している事に気付いていたようだ。


「え、なんでバレた?」


「カーブミラーでバレバレ」


少年は道路の脇にあるカーブミラーを指さした。カーブミラーの中に映り込んだ俺と目が合う。


「カーブミラー…それは盲点だった」


俺は自分の手の甘さに反省をするように頭に手をやりながら、少年の元に向かった。


「『盲点だった』じゃねぇよ。何で俺についてきた?」

ポッケに手を突っ込んでいる少年は、睨むような鋭い目つきで俺を見る。


「君の事がどうしても気になっちゃって」


俺はへらへらと笑いながら少年に近づく。


「へらへら笑うなよ、気持ち悪い。そして安易に近づくな」


少年の性格には思った以上の棘があった。

俺は、全然効いていないふりをして少年に聞く。


「君、電柱が倒れるって分かってたでしょ?じゃないと急に他人の腕なんて掴まないじゃんか」


「…」


「なんでこの話になった途端黙るんだよ」


少年は、面倒くさと言わんばかりの態度を取りながら口を開く。


「お前に教えることは何もねぇよ」


そう言って少年は、また俺から逃げるように、歩き出した。

俺が少年についていこうと、重心を前に持っていこうとした時に少年は言う。


「今度はついてくんなよ。次ついてきたら、警察に言いつけてやる」


「げっ」


俺の動きはぴったりと止まった。

いくら少年が気になっていたとしても、流石に警察のお世話になることは

普通にごめんだ。

俺に背を向けて少年はつかつかと歩いていく。

俺は『警察に通報する』という脅し文句に1歩も動けなくなってしまった。

故に、少年を追えない。

そのまま少年は住宅街の角に消えていった。


「ちっ、行っちまったか」


俺は悔しさのままに顔を引きつらせる。

警察は反則だと思った。


俺から見るに、少年は何か焦っているかのように感じた。

何故、焦っていたのだろうか?

考えても答えは出そうにもなく、俺は小石を蹴った。


「警察のお世話になるのは嫌だし、今日は引くとするか」


色々と考えた結果、「今日は」引く事にした。

俺は少年の事を知るまで諦めないつもりでいる。

俺が出来なかった『救えないはずの命』を救う事を平然とやってのけた少年の事を知るまでは―。

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