ネネが語り始める。


「校庭の遺体、三階の遺体を見てみて共通していた点は、いずれも遺体の損傷が激しいという点だ。これは二人とも分かるな?」


 そうシンとマナカに問い掛ける。


「ああ、そりゃアレを見たら分かるよ」

「うん……うぷっ……思い出すと気分が悪くなる……」


 二人の返答を聞き、ネネが続ける。


「マナカ……申し訳ないが話を続けさせてもらうぞ。私……そして恐らくハヅキが気になったのは、そのだ。そうだな? ハヅキ」

「ええ、そうね。どの遺体も……で絶命した者が殆どのようだったわ」

「二人とも……ここがポイントだ」


 そうは言われるが、シンとマナカは首を捻る。『何がポイントなんだ?』と。

 ネネがその疑問に対する答えを述べる。


「遺体に形跡がないんだよ…………という形跡が……」


 ここで、シンとマナカがハッとする。言われてみればそうだ……と。


「今回のようなケース程ではないが、動物が人間を襲うケースというのも、これ迄にも当然あった。獣害ってやつだな。有名なのは熊だ」

「熊?」

「他にもライオンや鮫、鰐などなど、人を襲い死亡させるという事件は世界に山程ある……が、今回のケースと違う点は、それらの獣害事件として人が襲われる理由にが影響している事が殆どなのだ。被害を受けた人間が、その後――早い話が、たまたま美味しそうな肉を見つけたから……あるいは、他に食べる物がないから……といった理由で動物達は人間を殺害し、。しかし――」


 ネネは続ける。


「今回現れた化け物――奴らは、ように見えるのだ。つまり、――という事だ」


 そのネネの解説に対して、シンが反応を見せる。


「……じゃあ何で、あの化け物は何で人間を襲っているんだ? 食べる気がないなら――食欲がないなら、襲う理由がないじゃないか」

「そこがポイントなのよ……猫崎」


 ハヅキが口を開く。


「何故あの化け物が、食欲がないのにも関わらず人を襲うのか? それは、となるわ」

「……どういう事? ハヅキちゃん……」

「例えばマナカ……あなた、ご飯を沢山食べたらどうなる?」

「ゲップが出る!」

「満腹になるわよね。つまり――あの化け物が食欲を元に人間を襲っていたなら限度があった筈なのよ――が……しかし今回現れた化け物には……もしこれがその通りなら……マナカ、今人間がどれ程絶望的な状況に置かれているのか分かる?」

「……化け物達は……手を止める事なく、私達人間を殺害する為に動く……って事、かな」

「正解よ」


 シンとマナカがようやく、その危険性に気付いたようだ。

 ネネが言う。


「その化け物が食欲以外で人を襲う理由として考えられるケースとしては……まず一つ目、縄張り目的――でも、私の見立てではこれは違う。自分がこれから縄張りにしようって場所を、からな。

 二つ目は、愉快犯説――これは化け物が、人間を殺す事を楽しんでいるから殺害しているという、非常に不愉快な可能性だ。この場合、要するに人間は化け物共の遊びの延長で殺されたという事になる。この場合ならタイムリミットはある……遊びに飽きたら殺害は終わるというな……しかし、これでは亡くなった者達が浮かばれない……出来れば違っていて欲しいものだが……」

「それは違うんじゃないかな?」


 マナカが、ネネのこの二つ目のケースに異議を唱えた。ネネは『どうしてそう思う』と問う。


「鳴き声だよ……あの大きく泣き叫ぶような鳴き声は――人間を襲っている事を楽しんでいるような声じゃなかったから……」

「ふむ……なるほどな。言われてみれば、そうかもしれない……となると……やはり、か……」

「三つ目の、ケース?」

「ああ……そしてこれが恐らく……考え得る限り――私達人間にとって、最悪のケースだ」


 最悪のケース――その言葉に、三人は息を飲む。

 ネネが神妙な面持ちで語る。

 彼女が考え得る限り、人類にとって最悪なケースとは――


「あの化け物が人間を――





 、殺害しているケースだ」

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