人類の逆襲を告げる光

 無事再会を果たしたシンとマナカ。

 シンと共に行動していたネネ。そしてマナカと共に行動していた佐野葉月。

 視聴覚室には今、四名もの人間が集まっている。


 ネネの提案により、この地獄を生き抜く為の作戦会議を行う事にした、が……その前に、何故マナカとハヅキは視聴覚室こんな所にいたのか、それを尋ねる事にした。


「え、えーっとね! 体育の時間、シンくんが保健室に運ばれたでしょ? それから先生が来て授業が始まったんだけど、私心配で心配で、大丈夫かな大丈夫かなってなってて、心配で心配でね。そんな時にハヅキちゃんが心配なら見に行く? って言ってくれてね。でも授業を途中で抜け出すのはちょっと……って思ったんだけど、凄い光がピカっとしたじゃん! あれで皆ざわざわしてね。授業中断したから、ハヅキちゃんが『今よ』って言ってくれて一緒に体育館から抜け出して保健室に向かったの。

 そしたらね? 三階がガシャーンってなって、私とハヅキちゃんもキャーっ!! ってなっちゃって、何事だーってなって、うわーってなっちゃって、キャーキャー言ってる内に……視聴覚室ここに居たの」


 ネネとハヅキは苦笑いを浮かべる。

 途中までは何とか理解出来る説明だったが、後半はもうめちゃくちゃだった。

 しかし、マナカが一生懸命説明してくれていただけに、『分かりにくい』と伝えるのが悪い気がしたネネとハヅキ。

 二人がマナカを傷付けないようにどうやってフォローしようかと考えていたその時――


「マナカ……真面目に説明してくれるか? 後半、何が言いたいのかさっぱり分からなかったんだが……」

「ガーンっ!!」

「いや本当に……これっぽちも……」

「うわーん! 奇跡の再会を果たした彼氏に再会早々酷い事を言われたよー! うえーん!」

「猫崎! あんたに人の心はないの!? 最低っ!」

「えぇ……佐野、そこまで言う?」


「皆静かにっ! 化け物に察知されたらどうするの」


 ネネのその一括に、しゅんとなりつつ静まる三人。

 声のトーンを落とし、マナカが改めて説明を始めようとするが、ハヅキにそれを制止させられる。


「もうマナカは大丈夫。よく頑張ったわ。偉い偉い、私は聞いてて誇らしかったわ。後は私に任せて」

「子供扱いされてるっ!? や、やだもん! 私が説明したい!」

「マナカ……」

「何よハヅキちゃん」

「察してよ。私達は話を手っ取り早く進めたいの、マナカの説明だと話が一向に進まない……ちょっと黙っててくれる?」

「あれ!? 私ひょっとして邪魔!?」

「…………そうとも言うわね」

「うわーん!」

「佐野……お前もなかなかに酷くねぇか?」


「静かに!!」


 またしてもネネの一括で静まり返る。

 このままでは埒が明かない。ネネは、説明する者を指名する事にした。


「ハヅキさん。説明してくれる?」


 そんな訳で、マナカから放たれる恨めしそうな視線を一身に浴びながら、ハヅキが説明を始める。


「前半はマナカの説明の通りよ。あの謎の光の後、授業が中断したのを見計らって、私とマナカは体育館を抜け出した。そして校舎内……猫崎とそれに付き添っていた子安さんのいる保健室に向かっていたの。その最中、三階へあの化け物が飛び込んだの」

「あの化け物が飛び込んで来た所を見たのか?」

「ええ、見たわ。パッと見は猫だけど、大きかった。恐らく全長百五十センチくらいはあったと思う……そして尻尾が二つに別れていたのも印象的だった。何より、あの地上から学校の三階へ軽々と到達する程のジャンプ力……この目で見た時は、信じられなかったわ。後から考えたら、あの化け物と鉢合わせなかったのは運が良かったと思う……もし鉢合わせていたら、そう考えたらゾッとする」


 ハヅキはそう言いながら、顔を青くする。

 確かに、それは有り得た可能性だ。

 もしそうなっていた場合、あの化け物が三階へと飛び込む前に二人は無惨に殺されていた事だろう。

 そうならなかった事に、シンは心底ホッとした。


「怖かっただろマナカ……そんな化け物を目にして……」

「え? 私は見てないよ? 音は聞こえてきたけど……ハヅキちゃんは見てたんだ。目敏いね!」

「………………」


 ハヅキは続ける。


「三階の様子が気になりつつ、私とマナカは保健室に向かった。だけど……保健室に足を運ぶも、そこに二人の姿はなかった。だからマズイと思ったわ。何も知らない二人が、野次馬気分で……あの化け物のいる三階へ足を運んだんじゃないかって、思ったから……でもそうじゃなかったみたいね。流石は子安さんと猫崎だわ」

「いや……私は猫崎に救われた。彼が手を引いてくれなかったら、きっと私は今頃……」

「……そうなんだ。良くやったね、猫崎。流石マナカの彼氏やってるだけあるわ」

「ど、どうも……」

「ん? 何か私の彼氏やってる事が『大変な事』扱いされてる気がするんだけど? 気の所為かな?」

「…………話を続けるわ」

「私の疑問は無視なの!?」


 ハヅキが話を続ける。


「それで、私とマナカも意を決して上へ向かう事にしたの。ただ……私はあの化け物が三階に襲来しているのを知っていたから、途中で二階の家庭科室に寄って……包丁を持って行ったの、何も無いよりマシだと思って」

「あ、だから、家庭科室寄ったんだね! 凄いね、ハヅキちゃんは!」

「…………話を続けます」

「あれ? ひょっとして私無視されてる?」

「家庭科室から出て、いざ三階へと思ったのだけれど、その時既に二階の生徒達の避難が始まっていた。大勢が移動していて、中に先生も混じってたから下手に動けなかったの……だから家庭科室に戻り、落ち着くのを待っていたの。で、待っていた時に化け物の強烈な鳴き声と、天井を破っての一階への移動があって……私達は怖くて、動けなくなって……そのまま、家庭科室に身を隠していたの。この時、『助けに行くんだ』って荒れるマナカを抑え込むの、大変だったわ……いやホント……本当に疲れた……一番肝を冷やしたわ……本当に勘弁して欲しかった……マナカったら、本当に本当に……あの時はガチで殺意が芽生えたのを覚えてる」

「……ご、ごめんなさい……ハヅキちゃん……」


 ギラギラした目をしているハヅキに対し、マナカが頭を下げて謝った。全力の謝罪だった。

 コホンっと、咳払いを一回した後ハヅキは続けた。


「そこからは多分、そちらと同じじゃないかしら。時折外の様子を確かめて、外の遺体の山を見て、吐いて……そしてを感じて、隙を見計らい、三階へ上がった。……違う?」


 シンは驚く、ネネも言っていた違和感。それをどうやら、ハヅキも感じていたようだ。

 ネネが頷く。


「その通りだ」


 そして、ここから話題は変わる。切り出したのはネネだった。


「それでは、二人がここにいた説明も終わった事だし、話を進めましょう。恐らくハヅキさんも、その答えを既に見つけていると思うけど」

「……という事は? あなたも?」

「ええ、もちろん」

「流石ね。どこかの脳内お花畑カップルとは違うわ……」


「「どこの誰が脳内お花畑カップルだ!」ですって!?」


 シンとマナカ、二人して仲良くハモった。

 この二人は本当に……仲が良い。


 そんな脳内お花畑カップルにホンワカしつつ……ネネが言う。


「その違和感の答えは――その化け物が、だ。何故奴らは人間をこうまで襲い、殺害するのか……まだ理解出来ていないであろうお二人さん、これは大事な話だ。心して聞いてくれ」

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