12

「……ふぅ……危うく死ぬ所だった」

「へ?」


 散々泣きわめいた挙句、晴れた瞼のままそんな事を言ったシンに驚き、重低音の「へ?」が不意に出てしまったネネ。

 シンは薄く笑って続ける。


「マナカやキュウジが死んでしまったのは悲しいよ……凄く悲しい。今でも、生きていてくれたらって思う……だけど、いつまでもそんな気持ちを引き摺っていちゃいけないよな……なぁ子安さん、知ってるか?」

「何を?」

「オレの親友と恋人は、凄く良い奴らだったんだ」

「……そうね」

「だからこそ、オレは二人と仲良くなったんだ。深く知りたいと思ったんだ」

「……うん」

「でさ、オレ思ったんだ。もし二人が死んでいたとしたら、おそらく二人の魂はこことここにいる」

「ん?」


 シンは自分の両肩付近を左右それぞれ指差した。

 何が言いたいのか分からないネネは首を傾げるが、そんなことを意に返さずシンは続ける。


「って、考えたらさ、きっと二人は……オレが生き残る事を願ってくれていると思うんだ」

「…………」

「だから俺は生き残るよ。二人の思いを叶える為にも……二人の分まで――生きる」

「…………ぷっ! アハハハハハ! あなたって本当におかしな人ね! おっかしぃ……アハハハ!」

「おいおい……人の一大決心を笑うなよ……大爆笑じゃねぇか……」

「ごめんごめん……でも……アハハハ!」


 笑いを堪えられないネネ。

 ヒーヒーヒーヒー、息も絶え絶えのまま彼女は言う。


「急にネガティブな事言う癖に、ポジティブな時はとことんポジティブなんだから。プフフ! あなた本当に同一人物なの?」

「当たり前だろ……人を二重人格みたいに言うな」

「ハハ、ごめんごめん」

「ったく……」


 シンは真剣な目をしてネネを見つめ、続ける。


「オレは本気だよ。本気で――この地獄を生き残るつもりだ」

「……そっか」

「そしてそれは――君も一緒に、だ」

「え?」


 そんな事を言いながら、シンはネネの向かって手を伸ばした。

 キョトンとするネネ。


「誓いの握手だ」

「へ? へ?」

「オレ達二人揃って――この地獄を生き抜こう!」

「二人……揃って……」

「きっとキュウジとマナカも、それを望んでいる筈だから」


 ネネは知っている。

 シンは冗談でこんな事を言う人間ではないと。彼は本気で、そんな絵空事を言っているのだと、ネネは知っている。

 不思議だなと、ネネは思う。


 シンがそう言うと、本当にそうなのだと思ってしまえる安心感がある。


「本当に……面白い人ね」


 ネネは彼の手を、強く握り返した。


「分かったわ。一緒に、この地獄を生き残りましょう」

「ああ!」

「そうと決まれば、先ずは敵を知る事から始めましょう」

「え?」

「校庭の遺体を見て、少し違和感を感じたの」

「違和感?」

「それを確かめましょう」

「確かめるたって……どうやって?」


 ネネは握った手を離し、上を指差す。


「上だ」

「上田? 上田ってD組のか?」

「誰よそれ……違うわよ。私が言いたいのは、三階って事」

「三階? 三階に行くって事か? でも、三階には……」

「分かってる。恐らく三年生の遺体が沢山ある筈よね……でも、行く」

「だからこそ?」

「言ったでしょ? 違和感を覚えたって。その違和感を解消出来る事で……その化け物が――


 が、分かるかもしれない」


 人間を襲う理由……化け物が、何故人間をこれ程までに襲うのか? その事について、ネネは気になっている様子だ。

 シンとしては、それを知った所でどうするんだ? と、思考が追いつかないが。自分よりも頭の良いネネの言葉だ。彼女がそうしたいと言うのなら、止める理由はない。

 生き残る為には――些細な情報すらも、重要な手掛かりになり得る可能性がある。

 二人は、三階に行く事を決めた。


「行きましょう」

「ああ!」


 惨劇が繰り広げられた――三階へ。

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