10
「ごめんなさい……少し気分が落ちてた。こんなんじゃ駄目よね。切り替えないと」
そう言って涙を拭うネネ。
こういった状況だからこそ、平常心でいなくてはいけないという事を、彼女は知っているのだ。
シンとしては謝られたが、自分自身がその切り替えを出来ていない為、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
彼は改めて気持ちを落としてしまう。
ネネは持っている者で。
自分は……持っていない者であると。
そう……自分を卑下してしまう。
しかし、この状況でそんなちっぽけな自分自身の不安を話すのは間違っている。という判断が出来ないほど、シンは子供じみた思考回路はしていない。
「とりあえず……体育館が心配だ」
話を前に進める事にした。
ネネが頷く。
「そうね……さっき外から聞こえた物音が心配だもの」
二人はもう一度、外を覗き様子を見る事を決意する。
彼らのクラスメイトであり……親友のキュウジや彼女であるマナカが居るであろう体育館の様子を、伺う為に。
「子安さんはもう見なくていいよ……オレが確認するから」
「そう? ……それはありがたいわ」
ネネとしても、気持ちを切り替えた所で、もう一度あの死体の山を見る勇気は無かったのだろう……素直にお礼を述べた。
シンは覚悟を決め、再び窓から顔を出す。
先程は校庭の遺体の山に目を取られ、確認出来なかったが、今度は体育館の方へ目を向ける。
そこには――半壊した体育館。そしてその隙間から見えたのは、あの――化け物の姿だった。
ドクンッ! 心臓が跳ねたのが分かった。
小刻みに高鳴る心臓の音が聞こえる。
冷や汗と、嫌な妄想が止まらない。
クラスメイト達や――親友のキュウジ、そして最愛の恋人であるマナカがいると思われる場所に……奴がいる。
一目散に走り出そうとするシン。
ネネはそんな彼に抱き着き、止める。
「い、いきなりどうしたのよ?」
「化け物がいた――」
「え?」
「体育館に、あの化け物が……助けに……助けに行かないと!」
「駄目よ! 今から行ってももう間に合わないわよ! ただの自殺行為になるだけよ!」
「でも――あそこにはキュウジが! マナカが!!」
「それでも駄目!」
「離してくれ子安さん!」
「きゃっ!」
身体にしがみつくネネを、力づくで振り払うシン。
彼はもう、周りが何も見えなくなっていた。
尻もちを着いたネネの手元には、砕けたコンクリート。
その大きさは、拳サイズだった。
ネネは咄嗟にそのコンクリートを右手で握り締める。そして、走り出しているシンの手を左手で掴み動きを止めた。
「だから離せって――」
「ごめんなさい、シンくん」
ネネは振り返ったシンの頭目掛けて、握り締めていたコンクリートを振り下ろした。
シンの頭部に、ゴツンという鈍い音が鳴り響く。
そのままシンは気を失い、倒れ込んだ。
倒れ込んだシンの前で、恐る恐るネネは握り締めていたコンクリートの欠片から手を離す。
ガコンッと音を立てて……。
ネネは震える右手を左手で押えながら、小さく声を落とした。
「ごめんなさい……こうするしかなかったの……親友や、マナカを助けたいって動く気持ちは分かるわ……凄く分かる……けれど私は……私は……それでも……それでも――」
ネネは目に大粒の涙を溜めながら、小さくこう続けた……。
「あなたに――生きていて欲しいの」
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