9
外から聞こえた爆音。
それを聞いた事で、シンとネネは何かに取り憑かれたように動けなくなっていた身体が少しばかり開放される。
僅かながら正気を取り戻した。
化け物が、三階から天井をぶち抜いて一階に降りて来てから、一分程経過したが階段側に姿を見せる気配はない。
恐らく、一階に避難した生徒や先生達を追い掛けている所なのだろう。
助けに行きたいのも山々なのだが、二人が助けに行った所で何も出来ない。二人にはただただ、追い掛けられている者達が無事逃げ切れる事を祈る事しか出来ない。
そして、シンとネネとしても、化け物が彷徨いている可能性のある一階へこのまま下りるのは、ある種自殺行為と言って差し支えない行為である。
「猫崎……」
「ああ……今の音って……」
「その化け物がこちらへ来る気配はないし、暫く上に上がる事はないと思う……二階から様子を見てみましょう」
「……そうだな」
二人は先程の、外から聞こえた爆音が気になる様子だ。
念の為、足音を立てないよう慎重に階段を上る。
二階に到着し二人は驚愕した。
廊下の真ん中部分が無くなっている。
抉り取られたかのように、化け物が天井をぶち抜いた形跡が残っている。
「何だよこれ……」
「何なのよ……一体……」
化け物の強大な力を目の当たりにして、またしても身体中から力が抜ける。
冷や汗が止まらない。
しかし現状、その化け物は離れた所にいる。その安心感が故に、シンとネネはそれぞれ自分の頬を叩き気合いを入れ直す事で、恐怖から脱却する事が出来た。
シンは、万が一にも外に居るかもしれない化け物と目が合う事がないよう、慎重に、ゆっくりと窓から目を覗かせる。
そして、外の世界を見て再びシンは絶句した。
「猫崎……どう? 化け物、いる? ねぇ、猫崎ってば…………もうっ……」
ネネが語り掛けても、シンからの返答がない為、彼女も続いて確認を行う事にした。
恐る恐る、ネネも顔を覗かせる。
「え……何よ……これ……?」
ネネは外の景色を見て、顔を青くしながら声を落とす。それに対してようやくシンが反応を見せた。
「地獄絵図……だろ……?」
シンがそう述べる理由――
学校敷地内のあちらこちらで化け物が暴れ回った形跡があり。至る所に、無惨な姿に変わり果てた生徒達が血溜まりの中で伏していた。
その遺体の殆どが原型を留めておらず、血溜まりに浮かぶ制服の生地を見て、遺体がようやく元々人であったという判別が可能となっている状態である。
当然……その様な遺体の山を見て、ただの高校生であったシンとネネが平気な筈がなく……。
「おえぇっ」
ネネは廊下の端まで駆け、嘔吐した。
シンがこれ迄無言だったのは、それを我慢していたのだ。出そうになる胃液を、必死に飲み込んでいたのだった。
「大丈夫か? 子安さん」
「言ってよね! グロいのがあるんだったら!」
「喋ってたら俺が吐いてたよ。それはそれでグロくない?」
「……でも、そっちの方が良かった……」
ネネの目から涙が零れ落ちる。
「血溜まりの中の人達……さっき迄普通に生活していたのに……普通に学校に来て、普通に授業受けてただけなのに……何で……何でこんな事になったのよ……こんなの……辛過ぎるよ……」
あの気の強そうでポーカーフェイスなネネが、必死に声を押し殺し、号泣している。
その震える小さな背中を目の前にして……シンは何も、言葉が出なかった。
彼もまた、その小さく震える背中を見て、最悪なケースを連想してしまい、肩を震わせている。
彼が願うのは、親友や両親、クラスメイト達の無事。
そして何より――
最愛の恋人――マナカの無事を、何より祈っていた。
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