令和三年十月一日――十四時三分。

 保健室にて、シンが目を覚ます。


「ここは……?」

「保健室よ」


 目を覚まし天井を見上げていたシンの視界に映ったのは、先程的確な指示を出していたネネだった。

 ネネは言う。


「覚えてない? あなた顔面にバスケットボールが直撃して、そのまま気絶したのよ。余程、当たり所が悪かったのね。大丈夫?」

「ああ、そっか。そういえばそうだったな……いてて……」


 シンは顔を押える。まだ痛みはあるようだった。

 痛がるシンを心配して近付くネネ。


「ああ、心配いらない。ちょっとジンジンするだけだか、ら……」


 シンが心配させまいと、顔を上げると。

 シンとネネ……二人の顔の距離は息がかかるほどの距離で……。

 ハッと正気に戻ったネネは、「ご、ごめんなさい」と頬を赤く染め、距離を取った。

 シンも照れ臭そうに「こちらこそ……」と返答する。


「ずっと、着いていてくれたのか? ありがとう」

「いえ、学級委員として当然の責務よ。お礼を言われるような事がじゃないわ」

「え? 子安さん学級委員長だったの?」

「殴るわよ?」


 そう、ネネは学級委員長だったのだ。

 だからこその先程の指示。手際の良さ。誰もが認める学級委員長である。

 シンは苦笑いで訂正する。


「冗談だよ。知ってる知ってる」

「まったく……マナカは、こんな人のどこに惚れたのかしら?」


 鼻で大きく息を吐き、ドスンと椅子に座るネネ。

 対するシンは苦笑いで答える。


「さぁ? 俺も分からない。どこに惚れたんだろうな? こんな情けない奴の」

「え?」


 ネネが顔を上げると、そこには曇った表情のシンの姿があった。シンは言う。


「マナカを庇っても、気絶しちまうし。情けねぇよな……本当なら格好良く、バスケットボールをキャッチして助けてやりたかったもんだが……反対に恥ずかしい姿を見せちまった。キュウジとかなら、それが出来たんだろうけど……」

「キュウジって……愛内くん?」

「そ、愛内球児。オレの親友だ」

「何でそこで愛内くんの名前が出るのよ」

「え?」

「さっきのは冗談よ。あなたは充分、マナカが惚れちゃうくらい魅力的だと思うわよ」

「マジ?」

「マジ」


 キョトンとするシン。意外な返答だった為、呆然と目をぱちぱちとさせている。

 方やネネは、恥ずかしい事を言ったのにも関わらず、済ました表情で窓の外を見ていた。絵に描いたようなポーカーフェイスである。


「そっか……冗談でも、そう言ってくれたら、嬉しいよ」

「冗談じゃないわよ。本当にそう思っているわ。もしあなたが、マナカと恋人関係じゃなかったら……」


 そう言いながら、ネネは意図的に顔を近付ける。

 そしてこの時からカウントダウンが始まった。

 五、四、三……。


「ちょ! 子安さん? 何を……」


 二……。


「あなたを……私のものに――」


 一……。


「出来ていたのに……」


 零。


 ネネのその発言の瞬間――


 目を開けていられないほどの光が、保健室内を――

 いや、学校中を――

 いや、街中を――

 いや、県内全土を――

 いや、四国全体を――

 いや、関西全土を――


 いや――日本全土を、包み込んだ。


 現時刻、十四時九分。

 これより二分四十七秒後――

 シン達にとっての何気ない日常の日々が終わり――


 シン達にとっての――地獄が始まる。

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