5
令和三年十月一日――十四時三分。
保健室にて、シンが目を覚ます。
「ここは……?」
「保健室よ」
目を覚まし天井を見上げていたシンの視界に映ったのは、先程的確な指示を出していたネネだった。
ネネは言う。
「覚えてない? あなた顔面にバスケットボールが直撃して、そのまま気絶したのよ。余程、当たり所が悪かったのね。大丈夫?」
「ああ、そっか。そういえばそうだったな……いてて……」
シンは顔を押える。まだ痛みはあるようだった。
痛がるシンを心配して近付くネネ。
「ああ、心配いらない。ちょっとジンジンするだけだか、ら……」
シンが心配させまいと、顔を上げると。
シンとネネ……二人の顔の距離は息がかかるほどの距離で……。
ハッと正気に戻ったネネは、「ご、ごめんなさい」と頬を赤く染め、距離を取った。
シンも照れ臭そうに「こちらこそ……」と返答する。
「ずっと、着いていてくれたのか? ありがとう」
「いえ、学級委員として当然の責務よ。お礼を言われるような事がじゃないわ」
「え? 子安さん学級委員長だったの?」
「殴るわよ?」
そう、ネネは学級委員長だったのだ。
だからこその先程の指示。手際の良さ。誰もが認める学級委員長である。
シンは苦笑いで訂正する。
「冗談だよ。知ってる知ってる」
「まったく……マナカは、こんな人のどこに惚れたのかしら?」
鼻で大きく息を吐き、ドスンと椅子に座るネネ。
対するシンは苦笑いで答える。
「さぁ? 俺も分からない。どこに惚れたんだろうな? こんな情けない奴の」
「え?」
ネネが顔を上げると、そこには曇った表情のシンの姿があった。シンは言う。
「マナカを庇っても、気絶しちまうし。情けねぇよな……本当なら格好良く、バスケットボールをキャッチして助けてやりたかったもんだが……反対に恥ずかしい姿を見せちまった。キュウジとかなら、それが出来たんだろうけど……」
「キュウジって……愛内くん?」
「そ、愛内球児。オレの親友だ」
「何でそこで愛内くんの名前が出るのよ」
「え?」
「さっきのは冗談よ。あなたは充分、マナカが惚れちゃうくらい魅力的だと思うわよ」
「マジ?」
「マジ」
キョトンとするシン。意外な返答だった為、呆然と目をぱちぱちとさせている。
方やネネは、恥ずかしい事を言ったのにも関わらず、済ました表情で窓の外を見ていた。絵に描いたようなポーカーフェイスである。
「そっか……冗談でも、そう言ってくれたら、嬉しいよ」
「冗談じゃないわよ。本当にそう思っているわ。もしあなたが、マナカと恋人関係じゃなかったら……」
そう言いながら、ネネは意図的に顔を近付ける。
そしてこの時からカウントダウンが始まった。
五、四、三……。
「ちょ! 子安さん? 何を……」
二……。
「あなたを……私のものに――」
一……。
「出来ていたのに……」
零。
ネネのその発言の瞬間――
目を開けていられないほどの光が、保健室内を――
いや、学校中を――
いや、街中を――
いや、県内全土を――
いや、四国全体を――
いや、関西全土を――
いや――日本全土を、包み込んだ。
現時刻、十四時九分。
これより二分四十七秒後――
シン達にとっての何気ない日常の日々が終わり――
シン達にとっての――地獄が始まる。
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