3
シン達は何事もなくいつも通り授業を受けた。
変わりのない日常を過ごしていた。
こんな日々がこれからも続くのだと思っていた。
時刻は十二時三十分。
三限目の授業終了を告げるチャイムが鳴り、昼休みへと移る。
「シンー、食堂行こうぜー」
授業終了直後にニコニコとシンに話し掛ける男子がいた。
小柄で坊主頭の男子が。
名前は、
シンはキュウジのその申し出に答える。
「良いぞ。行こうか」
「早く行こうぜ。オレの好きな『ササミ揚げ定食』が売り切れちまう」
「また二人前頼むつもりか? その小さな身体のどこにあんだけの量のご飯が収納されるんだよ……」
そう……このキュウジ。小柄な見た目に反して、かなりの大食漢なのである。
シンは、このキュウジと共に昼食を摂る事が多いのだが、何度見てもその食事風景には驚かされている。
二ヒヒッと、笑みを浮かべながらキュウジは言う。
「そりゃあ放課後は練習あるからな。山程食べて力付けとかねぇと。食べるのもトレーニングの一種だ」
「はぁ……やっぱ運動部ってのはすげぇな」
「にひひ、だろ? すげぇだろ?」
「ああ……授業中鼾をかかいて寝る姿さえ見なきゃ、もっと尊敬出来るんだがな」
「ばかやろう。睡眠もトレーニングの一種だ」
「さいですか」
シンはカバンから財布を取り出しポケットに入れて立ち上がる。
そして前の席のマナカへ一言。
「ってな訳で、キュウジと食堂行ってくるから」
マナカが振り向く。
「あ、それなら私達も行く。ハヅキちゃんがお弁当忘れちゃったんだって。だから皆で一緒に食べようよ」
「……オレは別に構わないが……」
シンは同意を求めるべく、キュウジを一瞥する。
対するキュウジはウインクしながらOKのサインを出す。
そしてその顔はニヤついている。
「何をニヤニヤとしているんだ」
「いやー。お熱いなぁと思いまして」
「放っとけ」
シンとマナカはいつも、昼食だけは別々に摂っている。
これは、それぞれの友達に対する配慮の一つだ。
二人はいつも朝一緒に登校し、放課後も一緒に下校する。昼休み以外の休み時間も二人して仲良く話をしている。
その間の二人には、二人だけの空間みたいなものが存在し第三者が割って入るような隙がない。
その為、昼休みだけは友達とそれぞれが交流出来るよう二人は距離を置く事にしているのだ。
シンは主にキュウジと。
マナカは主にハヅキ――
それぞれ昼食を摂る事が多い。
この日のように、四人が集まってご飯を食べる等滅多にない事なのだ。
そんな滅多にない事が今日起きた。
この日に限って――
座っていたマナカ達も腰を上げ、四人揃って食堂へと足を運んだ。
食堂について早々、キュウジは定食用の券を発行する。
頼むのは勿論『ササミ揚げ定食』その三人前。
「三人前!? お前、三食分食うの!?」
「何言ってんだ? 人間は元々朝昼晩の三食だろ? 何当たり前の事言ってんだ?」
「いや……それは多分、三食を朝昼晩に分けてって意味だと思うが……ちゃんと食べ切れるんだろうな」
「もちろん! オレを誰だと思ってんだい」
そんな会話を交わしつつ、それぞれが席に着く。
配置は壁際にシン、マナカカップル。
通路側に、キュウジとハヅキの二人。
それぞれの前には、各自用意した食事が置かれている。
シンの前には購買で買ったカップ焼きそばが。
マナカの前には手作りのお弁当が。
ハヅキの前には購買で買ったサンドウィッチが。
そしてキュウジの前には、『ササミ揚げ定食』三人前が……。
見慣れたシンとは違い見慣れていないマナカとハヅキは、キュウジの前に並んだソレを見て唖然とする。
「うっわぁ……相変わらずすっごい食べるねぇ愛内くん……」
「うへっ……見てるだけで胃もたれしそう……」
唖然というか、ドン引きしていた。
対するキュウジはそんな二人の反応を意に返す事なく、笑ってササミ揚げを口に運んだ。
「胃もたれなんてしねぇよ。ササミって中々にヘルシーなんだぜ」
「そ、そうなんだ……」
マナカが苦笑いでそう返答。
「わ、私達も食べよっか」
「そ、そうだね」
キュウジに続き、女子二人が食事を始めた。
最後にシンも続く。
このように、四人で仲良く会話をしながら昼食を食べたのだった。
そして――
現時刻、十三時九分。
間もなく……その時は訪れる。
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