令和三年十月一日

 令和三年十月一日……六時三十分。

 猫崎心ねこざきしんはいつものように起床した。

 カーテンの隙間から伸びる太陽の光の元、目を覚ます。

 いつのように、顔を洗い、歯を磨き、寝癖を整え、朝ご飯として母の作った卵焼きと味噌汁を食べた。

 そして通っている高校――徳島西高校の制服に腕を通す。

 この時、時刻は七時二十五分。

 朝のホームルームは九時からだが、猫崎心――シンはいつも八時三十分には学校に登校していた。真面目な学生である――というのも理由の一つではあるが、もう一つ理由がある。


「シンー。マナカちゃんが迎えに来てくれたわよー」

「はーい」


 母のその言葉に反応したシンはカバンを持ち、鏡で自分の髪型等おかしな所がないか最終チェックを行い、自分の部屋を後にする。

 階段を下り、玄関へ。

 玄関では、母とマナカと呼ばれる女の子が会話を交わしていた。


「いつもいつも用意が遅くてごめんなさいねー」

「いえいえ、そんな」

「うちの息子どん臭くってねー。一体誰に似ちゃったのかしら? きっとお父さんだと思うのだけれど……私も結構ルーズな所あるから、ひょっとして私なのかしら? ね、どっちだと思う?」

「え、えーっと……どちらにせよ、シンくんも、お母さんもお父さんも、そういう所含めて素敵だと思いますよ」


 少し困ったような表情をしながら、マナカは答えた。

 母はその言葉に心底喜びの表情を浮かべながらマナカに抱きついた。


「もぉー、マナカちゃん最高ー! マナカちゃんがシンのお嫁さんなら猫崎家は大歓迎よー! 早く嫁に来なさい! 式はいつ上げるの? プロポーズはどっちから?」

「式はまだ上げてないし、プロポーズはまだしてない。それにオレはまだ十七歳で結婚出来ない。朝からマナカを困らせるような事を言うな」


 シンは、困っているマナカを助ける為そんな声を掛けた。


「あら、シン聞いてたの」


 母は振り返りつつ、マナカから手を離した。シンは答える。


「一から十まで全部聞いてたよ……朝から母親の馬鹿な妄想発言をな……」

「失礼ねぇ、馬鹿な妄想って。母の夢の話と言ってちょうだい」

「はいはい……」


 シンは靴を履き、マナカに声を掛ける。


「待たせたな。行こう、マナカ」

「う、うん。それではお母さん、行ってきます」

「いってらっしゃーい。気を付けてねー」


 玄関の扉が閉まる。

 母がくすっと笑みを浮かべ、呟いた。


「プロポーズはしてない……か。シンったら、そういう言葉の端で本音が漏れる所、本当にお父さんそっくりなんだから」

「ん? 呼んだか?」


 トイレから、パンツ一丁姿の父が出て来た。

 その父の身なりを見て、母はため息をつく。


「別に呼んでないわ。それより、トイレに新聞持って入らないでって何時もいつも言ってるじゃない」

「すまんすまん。これが無いと中々トイレに集中出来なくてな」

「新聞に集中の間違いでしょ? まったく……」


 母は再度ため息をつく。

 そして先程、愛する息子とその彼女が出て行った玄関の扉を見つめながら思った。


 シンも将来……マナカちゃんとこんな感じになっちゃうのかなぁ?


 そんな未来を想像した。

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