2人でホラーゲーム 3

突然だが、俺と柑菜は小さい頃からの幼馴染だ。

親が友達同士で小さいころからどっちかの家で遊んでいた。

おままごとやかくれんぼ、積み木など2人で色々な遊びをしたが、中でも戦隊ヒーローごっこをやる事が1番多かったと思う。

もちろん俺がレッドで柑菜がピンクだ。

敵に捕らわれたピンクをレッドが颯爽と助けるっていうシチュエーションで、何べんも繰り返し遊んだ。

子供らしくヒーローに憧れていたのもあるが、1番は、助けたお礼として柑菜がほっぺにキスをしてくれるからだ。

頬に当たる柔らかな感触と俺がこの子を守ったんだっていう高揚感がたまらなく好きだった。

…今思うとスケベなガキだったな。

母さんと菫さんは、キスをされて喜ぶ俺をどういう目で見ていたんだろう…


小学生になっても、仲の良い幼馴染という関係は変わらなかった。

しかし、小学校高学年の頃柑菜に好きな人が出来た。

仲の良い友達が教えてもらったらしい。まあ、名前までは教えてもらえなかったようだが。

柑菜は小さい頃から可愛くて、誰にでも優しかったのでクラスの男子に人気があった。

席替えの時なんか、まさに学園◯国の歌詞通りの状態だった。

そんなクラスのマドンナに好きな人が出来たんだ。クラスはちょっとした騒ぎになった。

たちまち、男子よって柑菜の好きな人探しが始まり、

1番最初に疑われたのは柑菜の幼馴染である俺だ。

俺も少し…いやかなり期待していた。

だってそうだろう?

柑菜の隣にいたのはいつも俺だったんだから。


しかし、柑菜は否定したらしい。

その事を教えてくれたのは、イケメンな上に運動神経抜群の山下だった。

山下は、まあまあモテる奴で俺が知る限りコイツの事を好きな女子は3人以上いたと思う。

俺は山下の攻撃的な性格が嫌いだったので、あまり絡んだ事はなかったけどな。

断じて僻みとかじゃないぞ?

山下はニヤニヤしながら「小田さんの好きな人、お前じゃないってよ」と言ってきた。

それを聞いて、もちろん俺は強がったさ。

ショックで回らない頭をフル回転して、

「俺と柑菜はもう兄妹みたいなもんだからな。兄として妹の恋を応援するさ」なんて心にもないことも言った。

仕方ないじゃないか…

それしか柑菜と一緒にいる方法は思いつかなかったんだよ。


好きな人ができたからだろうか?

この頃から、柑菜は俺の呼び方を「たかちゃん」から「たかあき」に変えた。

柑菜との距離が離れたようで少し寂しかったからよく覚えている。

まあ、呼び方が変わっただけで接し方はいつも通りだったけどな。

その事に心の底から安心した。


結局、柑菜は誰にも告白しなかったし告白されても誰とも付き合わなかった。

なので、柑菜の好きな人が誰だったのか今でも分からない。

もしかしたら、今もそいつの事が好きなのかもしれないな…。



今、俺と柑菜は俺の部屋で宿題をしている。

部屋の真ん中に折りたたみ式の小さなテーブルを置いて、俺がテレビ側、柑菜はドア側に、2人で対面する形で座り、テーブルの上には2冊の数学の問題集が広げられている。

「うーむ…」

俺たちが通っている高校は、一応進学校なのでそれなりに宿題が出ている。

しかも、難しい問題がかなり多く出されており、1人じゃ終わるのにどれだけ時間がかかるか分かったもんじゃない。

ほんと、柑菜と一緒に宿題が出来て、色んな意味でラッキーだった。

「柑菜、ここなんだけど」

「ああ、それはね…」

こういう風に分からないところは教えてくれるし。

柑菜の説明はわかりやすいのでとても助かる。

「柑菜って教えるの上手いよな」

「そうかな?」

「将来教師にでもなれば?」

「うーん、先生ってさ、子供たちの輪の外にいて、一歩離れた位置から見守らないといけないでしょ?

私はたぶん、子供たちの輪の中に入って一緒に遊んじゃうよ」

うん、それはすっごく想像できた。

「だから私は先生にはなれないかな。

でも、子供の事は好きだから、子供達の為になる仕事が出来たらいいなっては思うよ」

「まあ、そのくらいがいいのかもな」

教師って職業は大変だって、よくテレビのニュースやsnsなどで耳にする。

生徒の立場から見ても大変だって分かるしな。

出勤時間は早いし、部活を受け持っていたら土日もない。

普段の授業に加えて、反抗する生徒の指導やイジメ問題、モンスターペアレントへの対応など他にも俺が知らない雑事も沢山あるんだろう。

本当、あの人達いつ休んでいるんだ?…

「孝明は将来どうするか決めてるの?」

「まだなーんも考えてない。

一応大学は行くだろうけど」

「どこの大学目指すか決めた?」

「いや、まったく。柑菜は?」

「私は決めてるよ」

「どこ?」

俺の質問に、柑菜は人差し指を唇に当てて言った。

「秘密」

「なんでだよ」

「なんででも。

ほら、喋ってないで宿題しよ」

「教えるくらいいいじゃんかよー」

「だーめ」

それから少しだけ粘ったが、柑菜は頑なに志望校を教えてくれなかった。

志望校くらい教えてくれてもいいと思うんだが…。

仕方ない…宿題やるかね。


外で鳴いているセミの鳴き声をbgmに、黙々と問題を解いていると、あっという間に課題を始めて3時間以上経っていた。

「ちょっと休憩しようぜ」

「そうだね。うっ、足が痺れちゃった…」

そう言うと柑菜は少しふらつきながら、ゆっくりと立ち上がった。

「お前ずっと正座だったもんな、足崩せばよかったのに」

「うう…」

柑菜はぎこちない足取りで俺の後ろを周り、ベットの足元まで移動すると、そのままばっとベットへ飛び込んだ。

「うーん、気持ちいい」

はしたないヤツめ…。

今日の柑菜は丈の短いワンピースを着ているので、ベットに寝ると白い脚が丸見えだ。

うーむ、コイツ、本当綺麗な脚してんな…。

はっ!やべえ。

「俺のベットで寝るな!」

「えー、いいじゃん、減るものじゃないし」

「昨日寝汗かいたから、臭いが気になるんだよ!」

柑菜に臭いと思われたら死にたくなる!

俺の抗議を聞くと、柑菜はクンクンとシーツの臭いを嗅ぎ始めた。

「うーん、そんなに臭くないよ?」

「そ、そんなにってことは、少しは臭いのか⁈」

「私からはなんとも…」

「正直に言ってくれよっ、

男って実はそういうのめちゃくちゃ気にするんだよ!」

「うーん、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うけどなー」

そう言うと、柑菜はいきなり枕に顔を埋めた。

すーっすーっと音が聞こえる。

こ、こいつ、俺の枕の匂いを嗅いでるのか⁈

俺が驚愕して何も言えずにいると、

柑菜は匂いを嗅ぎ終えて、おもむろに顔を俺の方へ向けてきた。

な、なんだか瞳がトロンとしている気がする。

「お、お前、…なんで…」

「だって、匂いを嗅ぐなら枕が1番でしょ?」

「それにしたって…臭くなかったか?」

「フローラルって感じはしないけど、なんだかすっごく安心する匂いだったよ」

「お、おう。そう言われるとなんか照れるな」

「外が吹雪のなか、うちで炬燵に入って蜜柑を食べてる時くらい安心するよ」

「めちゃくちゃ安心してんじゃん!」

「うん、そうだよ。

だからこれからも、このベット使わせてね?」

そうお願いする柑菜の口調には、普段の快活さとは正反対の、色気というか、妖艶さのようなものが混じっている気がした。

…率直に言ってエロい。

「お、おう」

「やった」

俺が承諾すると、柑菜はいつも通りの快活な笑顔に戻り、再び枕に顔を埋めた。

「匂いは嗅ぐなっ!」

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