2人でホラーゲーム1 (7月29日)
ピピピッピピピッ
目覚ましの音が部屋で鳴り響く。
「うぅ、なんで休みなのに目覚ましかけたんだ?」
ピピピッピピピッ
「あーうるせえ」
布団から右手をだしてアラーム音を止める。
そのまま目覚まし時計を顔の近くまで持ってきて、
今の時間を確認すると6時半だった。
「まだ7時にもなってないじゃんかよ…」
ミーンミンミン ミーンミンミン
窓の外では、今日も元気にセミが鳴いている。
「今日も盛ってんな…」
セミは長い間土の中で暮らし、地上に出てきたら早くて1週間で死んでしまう。
彼らがこんなにもうるさく鳴くのは、オスがメスに自分の存在をアピールしているかららしい。
やっと地上に出たと思ったら、後1週間しか生きられないし、早くパートナーを見つけて子孫を残さないといけないって、どんだけセミ生ってハードモードなんだ。
そりゃなくわ。2つの意味で。
窓の外でうるさく鳴いてるセミ達には、しっかりとパートナーを見つけて、子孫を残して欲しい。
「さて、二度寝するか…」
セミと違って、俺にはまだまだ時間があるので、もう一度夢の世界へ飛び立つことにする。
……うーむ、本当にそうだろうか?
睡眠時間を考えると、案外人生って短いのかもしれない…
例えば、1日8時間睡眠を取ると考えると、75歳まで生きると仮定しても実は50年しか活動時間はない。
俺は今年で16歳だから、もう既に活動期間を10年使ってしまっている。
つまり、俺には残り約40年しか活動出来る時間はないという事だ。
そう考えると、うかうか二度寝なんてしていられない気がしてきた…。
「しゃーない…」
ぱっと体を起こし、布団をのけてベットから起き上がる。
「起きよう!」
リビングへ行くと、父さんがソファに座ってコーヒーを飲みながら、テレビのニュースを見ていた。
母さんは台所で朝ごはんを作っている。
父さんはニュース、母さんは料理に集中しているからか、2人とも俺が起きてきた事に気付いてない。
「おはよう」
俺がテレビの音に負けないように、少し大きなこえで挨拶すると、父さんはコーヒーカップを持ったまま、少し驚いた顔で俺の方を向いた。
「おっ、休みなのに早起きとは感心じゃないか」
「まあね」
そういや、夏休みに入ってから父さんと朝に会ったのは今日が初めてだ。
いつも朝早くから仕事に行き、俺の養育費を稼いでくれる父さんには感謝の気持ちで一杯である。
口に出しては言わないけどな。
「あら、おはよう。
アンタも朝ご飯食べる?」
母さんがフライ返しを右手に持ちながら尋ねてきた。
「うん」
「なら、もう少しでベーコンエッグが焼けるから
アンタはみんなの分のご飯ついでくれない?
私は少なめでお願いね」
「はいよ。父さんはどのくらい?」
「俺は普通で」
「了解」
父さん用、母さん用、自分用のそれぞれの茶碗を食器棚からとりだし、それぞれの要望通りにご飯をついでいく。
俺の家は皿とか箸はべつに誰の物とか区別していないのだが、茶碗だけはそれぞれ専用の物がある。
3個とも俺が小学生の頃、遠足で陶芸教室へ行った時に作ったものだ。
茶碗の底の部分にそれぞれの名前が掘ってあり、
気がついたらいつの間にか、自分の名前が書かれた茶碗しか使わないという暗黙のルールが我が家に出来てしまった。
市販で売っている茶碗に比べて、でこぼこしているし持ちにくいけど3人とも何故か気にいってしまい、もう5年くらい使っている。
俺の家では、ダイニングテーブルで食事をする事にしている。
このテーブルは長方形の4人掛けで、父さんの右側に俺、正面に母さんが座る。
今日の朝食は、昨日の残りものの肉じゃがと、ベーコンエッグ、なめこの味噌汁だ。
肉じゃがはテーブルの真ん中に深皿で用意されていて、それ以外はそれぞれ個別に用意してある。
「「頂きます」」
俺と父さんの声が被った。
「はい、召し上がれ」
やっぱりまずは、味噌汁から。
ズズッ
うん、なめこがいい感じにネバネバしてて美味い。
俺が味噌汁に舌鼓を打っていると、母さんが肉じゃがを取りわけながら尋ねてきた。
「ところで孝明、アンタ休みなのによく早起きしたわね」
「昨日の夜、間違えて目覚ましのスイッチをオンにして寝たみたいなんだよ。
夏休みだしもう少し寝てても良かったんだけどな」
「いいよなー、学生は夏休みがあって」
父さんがため息を吐くように言った。
「父さんだって、学生の頃は休んでただろ?」
「そりゃそうだが…やっぱり羨ましいと思ってしまうな。
いや、この気持ちは憎しみ…?」
「そこまで⁈」
「ハハハ、まあ、夏休みのように長い休みがあるのは、学生のうちだけだからな。
今のうちに思いっきり休んでおくんだぞ!」
「もちろんだ!」
「はあ、まったく、親子揃って何言ってんだか」
母さんがため息をつきながら言った。
はて、何故だろう?
「そういえば孝明、今日も柑菜ちゃん来るの?」
「ああ、来るって」
「何であんなに可愛い子が、孝明なんかと遊んでくれるんだ?」
父さんが突然、自分の息子に対して酷い事を言ってきた。
「おい父親!」
「そうよね、まさに今世紀最大の謎だわ」
「母さんまで⁈」
「なあ孝明、背後から刃物で刺されてもいいように、今度甲冑買いに行こうな?」
「刺されるか!」
全く、縁起でもない事を言わないでほしい。
「多分もうさされてるわよ?」
母さんまで訳の分からない事を言いはじめた…
俺は生まれてこのかた、誰にも刺された事なんてない。
俺が怪訝な顔で母さんを見ていると、父さんがいきなり、ポンっと手を叩き、
「ああ、後ろ指か!」
と言った。
「正解!」
「よっしゃ」
「アンタら本当に俺の親か⁈」
この両親、大事な息子の事を何だと思っているんだ?
後ろ指なんて指されたこと…あるわ。
あの時は、きつかったなぁ。
柑菜がいなかったら俺はどうなってたことか。
そんな風に過去を思い出していると、
「孝明!こっちを向け」
「な、何だよ?」
父さんがいつになく真剣な表情で俺を見てきた。
「今から言うことをよーく聞いておくんだぞ?
気づいてないかもしれないが、
お前はクラスの男子、いや学校中の男達に恨まれている」
「は?」
「考えてもみろ、あんな可愛い子と仲良くしていて恨まれないわけないだろ。
俺がお前のクラスメイトだったら、間違いなくボコボコにしているぞ?」
「そんな大げさな…」
そういえば、学校で柑菜と一緒にいる時に鋭い視線を感じた事が何回かあったような気がするけど…。
流石に直接手を出してくる事はないだろう…ないよな?
「だから今度の休み甲冑を買いにいくぞ!」
「くどい!」
「ふふっ、ねぇあなた?」
「何だい?母さん」
「私に愛されているあなたも、甲冑を買った方がいいんじゃない?」
察するに、自分のような美人を嫁に貰った父さんも、柑菜と仲良くしている俺みたいに、周りから恨まれていると言いたいのだろう。
「へ?何で?」
父さんには通じなかっようだが…。
仕方ない、ここは出来た息子として父さんのフォローに入るか…。
「父さん、母さんは自分を嫁に貰った父さんが、
周りから嫉妬されていないか心配なんだよ」
「ぷっ、あはははっ。何言ってるんだ。
母さんがそんな自意識過剰な訳ないだろ?
年齢を考えろ、年齢を。
なあ、母さん?」
バキッ
「ぐはっ」
何か聞こえちゃいけない音が、テーブルの下から聞こえてきた気がする。
父さんがぷるぷる震えて、机に顔を突っ伏してるけど、寝不足かな?
「「ご馳走さまでした」」
「お粗末様でした」
「じゃ、じゃあ俺は会社に行ってくるな」
「背中には気をつけてね?ア、ナ、タ」
「ははは、気をつけるよ…」
そう言って、父さんは足を引きずりながら会社へ向かった。
サラリーマンは大変だなあ。
「全く、あの人ったら!
こんなに美人の奥さんがいるのに、柑菜ちゃんを可愛い可愛い言い過ぎよ」
ああ、それにも怒ってたのね。
「そりゃ、柑菜は若いし可愛いからな。
母さんはもういい歳じゃん」
「あ゛?」
「す、すみまひぇん」
すっげえ眼光、こ、殺されるかと思った…。
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