季節の香り

善田 

2人で宿題 (7月28日)

「今日という日を俺は、生涯忘れないだろう!」

俺は今日やっと、ネットで難攻不落と言われたゲームを攻略も見ずにクリアした。

「難しかった!しかし俺はやりきったのだ。

本当によく頑張ったな、俺」

そういう風に部屋でこれまでの苦労を思いだして感動に浸っていると、

「孝明ー?起きてるんなら早く朝ごはん食べちゃいなさーい」という母さんの声が聞こえてきた。

「わかったよ!すぐ行くから」

まったく人が達成感に浸っている時に!

俺はゲームの電源を消して、二階の自分の部屋から一階のリビングへ階段を降りる。

リビングに着くと、

「まったく、朝からさわいで!

アンタまた夜通しゲームしてたんじゃないでしょうね⁈」という母さんの怒った声に迎えられた。

「そ、そんなわけないじゃん」

「夏休みだからって怠けてると、学校始まった時に朝起きれなくなるわよ!」

「へいへい」

(朝から母さんのお小言なんて聞きたくねえなぁ)

「桜さんの言う通りでありんす。

反省するでありんすよ孝明」

「またお前うちで朝飯食ってんのか、

しかもなんだその口調」

「だってお桜さんのご飯美味しいんでありんす。

わっち、今日からこういう口調で話すでありんすよ。

可愛いでしょ?

じゃなかった、可愛いでありんす?」

「お前の家、ここからまあまあ遠いのによくもまあ…

あとお前のその口調もともと花魁さんの口調だからな」

「花魁さんって?」

「俺もよく知らねえけど、キャバクラみたいなもんじゃね?」

「へーそうなんだ」

「おい、口調戻ってるぞ」

「あ、そうなんでありんす」

「2人とも馬鹿やってないで早く食べちゃいなさい」

「「はーい」」

食卓には、ご飯、味噌汁、焼き鮭にきんぴらゴボウというthe日本の朝ごはんというラインナップが並んでいる。

余談だが俺はいつも朝ごはんの最初は味噌汁を飲むと決めている。

「頂きます。あれ?

母さん、味噌汁の出汁変えた?」

「あごだしにしてみたのよ。

アンタよく気づいたわね」

「まあね」

「私も気づいてたよ!」

「おいっ、口調戻ってるぞ」

「なんか面倒くさくなったからもういいや」

「いい加減なやつ…」

「あっもうこんな時間!

私は会社に行くから。

孝明、お風呂掃除と洗濯物のとりこみよろしく」

「あいよ」

「孝明だけじゃ心配だからアタシも手伝うよっ!」

「柑菜ちゃんがいるなら安心だわ。

孝明の事よろしくね?」

そう言うと、母さんは颯爽と仕事へ出かけて行った。

「じゃあ、何して遊ぼっか?」

「おいっ!

今飯食ってんだろっ!

飯食い終わったらとりあえず俺は寝る!」

「えー!

せっかく遊びに来たのに」

「そもそも高校生になったのに彼氏でもない男の家に遊びに来んな!」

「いいじゃん、別に」

「お前友達多いじゃん!

そいつらと遊びに行けばいいじゃん!

ジャン・ヴァルジャン!」

「だって…孝明といたほうが楽しいし、

孝明と一緒に居るとね?なんだか温かい気持ちになれるの…」

そう言うと、柑菜は俺を上目遣いに見上げてきた。

心なしか瞳が潤んでいる気がする。

コイツ、内面はともかく外見は超絶美少女なんだよな。

「柑菜…お前…」

「あとね、私が好き勝手やっても怒らないし、

もし怒ってもすぐ忘れてくれるし」

「それが本音か!」

あぶねえ、うっかり告白しそうだった。

「えへへ」

「はあ、とりあえずご飯も食べ終わったし、皿洗うか」

「うん」

2人で並んで流し台に立ち、俺が皿や茶碗をスポンジでゴシゴシ洗い、汚れを落とせたと思ったら、それを柑菜に渡す。

柑菜は、受け取った皿を水ですすいで綺麗にしてくれる。

「ふふっ、なんだか私達夫婦みたいだね?」

「馬鹿言ってねえで、ほれ、次」

「はーい」

全国の夫婦仲が冷め切ってしまった旦那さん、今日から使ったお皿は奥さんと2人で洗いましょう。

そうすればきっと2人のわだかまりも洗い流せるはずです。

なんて頭の中で馬鹿な事を考えていると、皿洗いはすぐに終わった。


「じゃあ皿も洗ったし俺は寝る」

「歯磨きしないの?」

「そうだな、してから寝るとしよう」

洗面所へ向かいゴシゴシと歯を磨く。

最近アイスクリームを食べると歯がキーンとして痛いんだけど、

これは虫歯じゃないよね?

ただの知覚過敏ってやつだよね?

なんて考えながら入念に磨く!

「よし、スッキリ」

洗面台の鏡に向かってニィーとする。

うん、白い!

「ふかふかのベットが俺を待ってるぜ」

ルンルンと部屋までスキップで移動する。

この朝っぱらから寝るってのがいいんだよなぁ

ガチャッ

扉を開けると、すでに俺のベットで柑菜が寝ていた。

「お前なんで俺のベットで寝てんだ!」

「うーん、むにゃむにゃ」

「寝つきが良すぎる!」

どうにかして起こそうと、肩を揺すっても全然起きない。

「はぁ、しょーがない、床で寝るか」

うう、床がかたいよぉ


「ふわぁ〜よく寝た」

「おはよう」

「孝明のベット寝やすいね!」

「そりゃ、良かった。

ってなんでだよ!

なんでお前が俺のベットで寝てたんだ!

お前がベット使っちゃったから、俺床で寝たんだぞ!」

「ありゃ〜」

「ありゃ〜じゃねえ!

お前床で寝たことあるか?

起きた時すっげえ体痛いんだぞ!」

「いや〜、孝明の部屋に入ったら、

なんかフラフラ〜ってベットに吸い寄せられちゃって。

そんなに言うなら起こしてくれればよかったのに」

「起こしたよ!お前全然起きないのな!」

「私昨日8時間しか寝てないから」

「充分寝てるじゃんか!逆に寝すぎだよ!」

「ほら、そんなにプンプンしないの。

もうお昼過ぎだし、お昼ご飯食べよ?

私が作るよ。何食べたい?」

ふむ、女子の手料理か。

悪くないな。

うーん、何にしよう。

せっかく作ってくれるんだから少しは手の込んだ物を作って貰いたい。

定番は肉じゃがか?

でも、昼に肉じゃがは重いかもしれないな。

なら、なんだ

何を頼めばいい

考えろ、考えるんだ、俺!

「って、居ないし!」

すぐさま階段を降り、リビングへ駆け込む。すると、柑菜はすでに素麺を湯がいていた。

「素麺じゃん!」

「桜さんが昼ご飯は素麺湯がいて食べてねって」

「なら何で聞いた⁈」

「いつか…結婚したら作ってあげたいから」

「か、柑菜…」

「まあ、冗談だけど」

「ですよねー」

「ほら、もうすぐ茹で上がるから、薬味とか用意して?」

「はい…」


素麺が美味しく茹で上がりました!

茹で上がった素麺を氷水が入った透明の容器に投入し、麺つゆとそれぞれの好きな薬味をおわんに入れたら準備完了!

ちなみに俺は、ネギと山葵を入れた。

ネギって凄いよなぁ、なんに入れても合う。

万能ネギとはよく言ったもんだ。

「「頂きます」」

スズーッ

2人同時に素麺をすする。

まさかこれが…シンクロ…?

「美味しいね」

「そうだな」

「これからの予定は?」

「とりあえず、夕方まで宿題だな」

「じゃあ、私が教えてあげる」

「お前、その性格で頭いいからずるいよなぁ」

「褒めてる?」

「貶してる」

「むーっ」

そういうと柑菜は頬をぷくーっと膨らませた。

「夏に食べる素麺って何でこんなに美味いんだろうなー」

「暑いから冷たい物が美味しく感じられるんだよ」

「でもこの部屋クーラー効いてて、すごく快適だぜ?」

「たしかに!

じゃあ何でだろう?」

「何でだろうなー」

ズズーッ

「そういえば20日からペルセウス座流星群見れるようになったらしいよ」

「へー」

「8月13日にピーク迎えるんだって!」

「そうなん?」

「智花とか加藤くんとか誘ってみんなで見ようよ!」

「知ってるか?

未成年は夜出歩いちゃダメなんだぜ?」

「そんな遅くならないようにすれば良いでしょ?

なんかみんなで星を見るって青春じゃん!」

「まぁ、気が向いたらな」

夜に星見るって何それすっげえ青春っぽいんですけど!

しかも女子と一緒って!

絶対行きたい!

でもなんか素直に言えないっ

なぜなら思春期だからっ!


それから昼ごはんを食べ終わり、部屋で2人で宿題をしていると、あっという間に夕方になった。

「ふー疲れたな」

「そうだね。

あ、洗濯物取り込まないと!」

「いや、俺が取り込むからいいよ」

「じゃあ、お風呂掃除してくるね」

「いやいや、それも俺がやっとくから大丈夫だって」

「でも桜さんと約束したし、私も何か手伝うよ」

「うーん、じゃあ宿題写させて?」

「それはダメ」

「なんでだよ」

「それじゃあ、孝明の為にならないよ。

じゃあ、私は洗濯物取り込んでくるから、お風呂掃除よろしくね?」

「おいっ」

俺の静止を聞く前に、柑菜は部屋を出て、階段をスタスタと降りていってしまった。

「あれ?

よく考えたら俺とか父さんのパンツも干してない?」

まずいっ!

幼馴染とはいえ、流石に女子高生に自分のパンツを見せるのは恥ずかしすぎる!

急いで階段を降りて庭に出ると、柑菜は既に洗濯物を取り込み始めていた。

「ちょっと待ったー!」

「何?」

柑菜は洗濯物を持ったまま、いきなり俺が叫んだ事に驚いてキョトンとした顔をしている。

というか、その手に持ってるのって俺のパンツじゃねえか!

「そ、そ、それ俺のパンツ」

「ああ、私は別に気にしないよ?」

「俺が気にすんの!

てかこれ、普通立ち位置逆だろ!」

「うーん、そんなに気にするなら触られたくない物は孝明が取り込んでよ」

「わかった。じゃあまず、俺のパンツを返して下さい」

「はい」

「どうも」

俺はついでに父親のパンツも取り込んでおく。

父さん、あなたの尊厳は親思いの息子によって守られましたよ!

「じゃあ、俺風呂掃除してくるから。

申し訳ないけど後よろしくな」

「気にしないでいいよー」


俺はお風呂場へいき、スポンジで浴槽をゴシゴシ洗う。

うちの風呂はそんなに大きくないからいいけど、スーパー銭湯の掃除とかすげえ大変そうだよなぁ。

湯船を隅々までゴシゴシ洗い、シャワーを使って泡を流せば風呂掃除終了。


濡れた足をタオルで拭いてリビングへ向かうと、柑菜は既に洗濯物の取り込みを終え、有難いことにたたんでくれていた。

鼻歌を歌いながら微笑をうかべ、洗濯物をたたむ柑菜の横顔は、夕日に照らされているのも相まってとても綺麗だった。

正直見惚れた。

「あっ、お風呂掃除お疲れ様」

「お、おう」

「私これたたみ終わったら帰るね」

「そうか、まあ早く帰った方が安心だしな」

「今日はお母さんが帰ってくるの」

「ああ、おじさんの単身赴任先に掃除とかしに行ってたんだっけ?」

「うん、だから駅まで迎えに行くの」

「駅まで送ろうか?」

「まだ明るいし大丈夫だよ」

「そっか」

「よし、終わりっ!

じゃあ帰るね」

「おう。

あれ、荷物部屋に置きっぱなしじゃね?」

「また明日も一緒に宿題しようね」

「お前明日も来る気か⁈」

「じゃあ、また明日ー。

お邪魔しましたー」

「おいっ」

柑菜は、そう言ってそそくさと帰ってしまった。

明日も来るのか…


柑菜が返ったあと、暇だったのでリビングのソファに寝転びながらのんびりテレビを見ていると、玄関がガチャっと開いた音がした。母さんかな?

「ただいまー。

洗濯物取り込んでくれた?」

ビンゴ!

「柑菜が取り込んでくれたー。

風呂掃除は俺がやったー」

「あらそうなの。ふふっ柑菜ちゃん良い子ね。

アンタ絶対逃すんじゃないわよ」

「何言ってんの⁈」

「とりあえず、さっさとご飯作るから」

「今日の夕飯何?」

「肉じゃが」

「あ、そう」


それからしばらくして父さんも帰ってきた。

夕飯を食べ、風呂に入って少しゲームをしたら、少し早いけどもう寝ることにする。

「今日は楽しかったな…」

ベットに入るため布団をめくったら、

ほのかに柑菜の香りがして、

この布団で柑菜が寝てたことを思い出した。

その夜は興奮して、しばらくの間寝付けなかった。

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