13話 1億年かけて磨き上げた高み。
13話 1億年かけて磨き上げた高み。
静かに武を構えなおすセンを尻目に、
アダムは、
「くっ」
――すっころばされた屈辱をかみしめつつ立ちあがり、
最小限の動きで戦闘態勢に戻る。
『幸い』なのかどうかは知らんけども、ダメージはない。
動ける。
動こうと思えば、今すぐにでも。
しかし、
「……」
アダムは、土ボコリを払いもせずに、苦い顔でセンを見る。
(何が起きた? 私は、どうやって転ばされた)
冷や汗があふれる。
心がグニャグニャしている。
(わからない。何も……)
不可解がすぎて、動けなくなったアダム。
そんな彼女にセンは言う。
「……不安になるなよ、アダム。お前は、ちゃんと強い。愚直に積み重ねてきたのが分かる。気が遠くなるほど繰り返した。その結晶こそが、結局、一番、美しい」
「……」
「さあ、やろう、アダム。何度も言うが、心配するな。お前は強い。お前が積み重ねてきた研鑽は、充分、俺に届く。だから、全力で」
――俺に負けるがいい――
★
数手だけ、アダムはセンに抗った。
しかし、すぐに心が折れてしまった。
センを知ろうと、心を込めて、
彼の武と向き合ってみると、
(……じ、次元が違う……っ)
アダムはバカじゃない。
むしろ、知性の方でも、世界上位に入る器。
だから、
アダムは、真摯な態度で、
「……は……果て無き武を有する御方……あなたも……ソウルゲートを……使ったのですね?」
彼女は理解した。
『自分だけが選ばれた』と思っていたが、そうではなかったと気づく。
センは、ニっと笑って、
「ああ。よくわかったな」
「教えていただきたい……あなたは……あなた様は……いったい、どれだけの時間、あの中で過ごされたのですか?」
「あててみろよ。何年だと思う?」
「……『私を遥かに置き去りにした武』を誇る御方……もしや『気が狂うような永(なが)き』を積んだのでは? たとえば、そう……100万年とか……」
アダムは、『さすがにそれはないだろう』と思いながらも、
『もしかしたら』と思い、『極端な数字』を出してみた。
そのぐらい、センは飛びぬけていた。
(現実的なところでいうと、10万……いや、これだけの高みに至るには、20万は必要……)
などと、『センが重ねてきた数字』を想像している彼女に、
センは言う。
「残念、その100倍だ」
「……ひゃく……は? ……百倍? え、なんの?」
理解が追い付かないという表情。
そんな彼女に、センは真実を告げる。
「100万の100倍。つまり、1億年だ」
「……」
「1億年かけて磨き上げてきた高み……その目に、しかと焼き付けろ」
そう言いながら、
胸の前で両手を合わせた。
祈っているのではない。
ただ、心を整えているだけ。
「――半神化――」
そう宣言すると、
センの背中に後光が宿った。
まるで、吟詠(ぎんえい)する流星群。
絶唱(ぜっしょう)のような天変地異。
景勝(けいしょう)のクラシック。
清澄(せいちょう)な魂魄の輝きが、
アダムの心を溺れさせる。
「―――――――っっ?!!」
まるで、すべてを包み込むような閃光。
じっとりと重たくて、どこか鮮やかな命の光。
「あ……ぁああ……」
理解できない輝きを前にして、
気づけば、アダムは、涙を流していた。
自分を遥かに凌駕(りょうが)した光を前にして、
心が平伏(へいふく)する。
もはや、戦意も不安もかき消えた。
「……し、真なる……『高み』に辿り着いた御方……」
心だけではなく、体も、魂も、すべてが、
センの足元にひれ伏す。
「どうか、わたくしめを……」
礼をもって、神前に伏せる。
「あなた様を飾る宝石の一つにしていただきたい」
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