12話 破格のグリムアーツ。


 12話 破格のグリムアーツ。


 センの宣言を受けて、アダムは、困惑しつつ、


「……そこのクソガキ。いったい、何をした? いったいどうやって私の異次元砲を……」


 混乱のあまり、『表面上の自分』を保てなくなっているのはアダムも同じ。

 そんなアダムに、センは、


「アダム。お前は天才だが、まだまだ、『武の真髄』には届いていない。俺も、まだまだ完全理解に達しているわけではないが、少なくとも、お前よりは高い場所にいる。というわけで……」


 センは、前提を、並べて、揃えてから、


「お前の才能に敬意を表し、特別講師を担ってやる。惨敗(ざんぱい)を経て、俺の高みを知れ。――さあ、くるがいい」


 言いながら、センは、『静かな武』を構えた。

 『荒々しいアダムの武』とは対極にある構え。



(何の変哲もない構え……存在値は……『20』程度……間違いなく雑魚。ただのガキ……)



 アダムは、『セブンスアイ』という、『プロパティアイの下位互換』となる『看破系の魔法』を会得している。

 だが、センは『フェイクオーラ』という、看破系の魔法に対する阻害魔法を常時展開しているため、彼女は、センの本当の力を知ることができない。


 ――アダムは、


「いまいち、よくわからんが……今は、ガキの相手をしている余裕はない。私の異次元砲をどうしたかについては、シューリを殺してから、ゆっくりと聞かせてもらうことにする」


 そう言いながら、グッっと、丹田(たんでん)と両足に力を込めた。


 その直後、風が吹いた。

 疾風。


 アダムは、身を低くして飛び出す。

 それは、人の目では追えない迅雷。

 武器はエルボー。


 それは、ただの肘じゃない。

 グリムアーツ『雷禅(らいぜん)/緋色(ひいろ)』


 グリムアーツとは、究めれば『武術』を、つまりは『肉体』を、戦略級兵器に変えられる技術。

 グリムアーツは、魔法と違い、会得するのに膨大な時間がかかり、会得してからも絶え間ない研鑽が求められる、非常にワガママでダダッコな能力。

 だが、極めてしまえば、魔力の消費を必要とする魔法と違い、なんのリスクもなく使用できる頼れる必殺技となる。


(とらえたっ……死ね、シューリ)


 ――空気を裂くようなステップを踏むアダム。

 腕を固定し、肘を固め、重心低く、高速で、シューリの懐に踏み込み――




「――え?」




 すっころんだ。

 気付けば、ステンと仰向けで倒れこんでいた。


 認識が追い付かない。

 しかし、聞こえる。


「すごいな、アダム。たった6万年で、グリムアーツをそこまで磨き上げたのか。俺も、一応、『閃拳』というグリムアーツをマスターしているんだが、6万年程度の段階だと、屁みたいなもんだったぞ」


 そこで、センは、かるく首をかしげて、


「んー、なんというか、ここまでくると、お前が凄いってだけじゃなく、俺が酷いって話でもあるような気がしてきた……いや、まあ、俺は酷いんだけどな。根性だけは自信があるが、根本的には『レベル1で、才能のない無能』だから」


 などと己の『無能ぶり』を冷静に客観視してから、


「俺がカスすぎて、ちょっと話がズレたが、お前がとんでもない天才なのは紛れもない事実。そして、お前の限界はそこじゃない。お前はもっと輝ける」


 また、静かな武を構えなおすセン。


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