11話 ダレカタスケテ。
11話 ダレカタスケテ。
「その『凄まじい才能』に敬意を表し……私の『全力の全力』をもって、殺してやる」
そう言いながら、アダムは全身のオーラと魔力を練り上げていく。
アダムの体の周りで、圧縮されたオーラが、バチバチと音をたててはじける。
「死ね、シューリ。――異次元砲――」
ためにためたオーラを込めて、
凶悪なエネルギービームの魔法を放つアダム。
コスモゾーンの法則がなければ、この星ごと消滅させてしまえるほどの高次エネルギー。
そのエネルギーが自動的にコンパクト化されて、シューリの肉体のみを吹っ飛ばそうと躍動する。
当たれば、さすがのシューリ様もただでは済まない一撃。
そのことはシューリ自身も分かっていた。
だから、彼女は、この一瞬の中で、長い走馬灯を見たのだ。
死に際でスローモーションになるのは、『創作上のおとぎ話』などではなく、生理的な、ただの現実。
圧縮された時間の中で、シューリは、
(――あ、死んだ)
と、現実を受け入れながら、
(……最初から死ぬ予定だったから、死ぬこと自体は別にいいけど……『抵抗できないまま殺される』ってのは、かなりダサいなぁ……ん?)
と、そこで、シューリは、自分の瞳が『涙を流している』ということに気づいた。
(まさか、泣いている? この私が? バカバカしい……ダサすぎる。最後ぐらい、胸を張って死ね)
圧縮された時間の中。
『コンマ数秒の奥の方』で、『思考』が『爆速の回転率』をみせる。
(死ぬ。しっている。生まれる前から。みんなそう。全員そう。私だけじゃない。何も特別じゃない。私が死ねば世界が救われる。どうでもいい。そんなこと。私は、私のプライドに殉(じゅん)ずるだけ。――なに、これ言い訳? ああ、ダサい。吐き気がする。そうじゃない。どうしたい? 分からない。自分の感情。どうしたかった? 何がしたかった? わからない。私は、どうしたかった? カッコつけるなよ。カッコなんかつけていない。ダサいのはイヤなだけ。それは本音。けど、それだけじゃない本音もある。言語化できない。本当に? どうしたい? 私が言いたいこと。別に。特に。何も――)
ついに、圧縮された時間にも限界がくる。
異次元砲が、シューリを蒸発させようとした、
――その時、
ようやく、シューリは、自分の本音を理解する。
(――ダレカタスケテ――)
最後の最後まで言えなかった言葉。
最後の最後まで口には出さなかった想い。
自分自身の奥の奥、
『鍵のかかった部屋』のさらに奥にある『心の金庫』にしまってあった感情論。
その想いを――
『彼』は受け止める。
「……ヒーロー見参……」
異次元砲がシューリを奪いとろうとした、
その『極限の一瞬』を、
――『ヒーロー』が奪い取っていった。
自らの体で、アダムの異次元砲を受け止めたヒーロー、
そんなヒーローの背中を見て、
シューリは、
「……ぇ…………な、なに……してるんでちゅか? というか、え、なんで……え、どうして……アダムの異次元砲を……え、防いだんでちゅか? そんなアホな……」
反射で赤ちゃん言葉を使ってしまったが、
正直、脳の方は『いっぱいいっぱい』になっていて、
『表面上のキャラ』をシッカリと保つことが出来ていない。
困惑しているシューリに、センは、
「言っただろう。俺の存在値は『17万』相当だって。存在値1200のアダムは確かに脅威だが、俺の前では『そこらのアリ』と大差ない。踏みつぶせば終わりだ。まあ、とはいえ、アダムを踏みつぶす気は毛頭ないけどな。あいつは本物だ。狂気の努力を積んだ天才美少女。嫌いじゃないね」
などと言いつつ、センは、首をゆっくりと回して、
アダムをにらみつける。
「さて、と……ここからは俺の時間だ。お前らの、『バッドエンドをリアルだと思い込む』――その勘違いを殺してやる」
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