9話 アダムは人の話を聞かない。


 9話 アダムは人の話を聞かない。


「この世界がどうなろうが知ったこっちゃない。けど、世界が滅びるってことは、あたしも死ぬってことだから。それは許容できない」


「ほむほむ……ちなみに、その情報をどこで入手したんでちゅか? もしかして、あんたも、『オイちゃんが死なないと世界が滅びる』というのを、生まれる前から知っていたパターンでちゅかね?」


「……その言い方から察するに、どうやら、あんたも同じみたいだな」


「オイちゃんが死なないと、存在値1兆の化け物が暴れて、世界が滅びる。この情報なら、生まれる前から知っていまちたよ」


「知っているなら話がはやい。別に、あんたに怨みはないが、私はまだ死にたくないから、殺させてもらう」


「心配しなくても、オイちゃんは、自殺しまちゅよ。今、お風呂に入っているのも、その準備をしているんでちゅ。できるだけ完璧な状態で死のうと思いまちてねぇ。ま、最後の意地ってヤツでちゅよ」


「……あんたの言葉を信用するほどメルヘンな性格はしていない。もしかしたら、本当に自殺する気なのかもしれないが、あんたが死ぬのを待つよりも、この手で殺す方が確実」   


 そう言いながら、アダムは、艶(あで)やかに『武(ぶ)』を構えた。

 その『鋭い目つき』にふさわしい、荒々しさと強靭さ。

 『武道』と真っ向から向き合ってきたのが一目でわかるキレッキレのオーラ。


 それを見たシューリは、ニタニタした『半笑いの表情』を変えずに、


「他人の都合で殺されて死ぬとか、そんなダサい死に方は許容できまちぇんね。もし、オイちゃんを殺そうとするなら、返り討ちにさせてもらいまちゅよ。あんたを殺してから自殺させてもらいまちゅ」


「貴様が私を殺すのは絶対に不可能。この世に、私より強い人間は存在しない」


「……奇遇でちゅねぇ。オイちゃんも、全く同じことを思っていまちた」


 そう言いながら、シューリは、風呂から上がり、パチンと指をならした。

 すると、彼女の全身が、『布面積が少ない十二単(じゅうにひとえ)』のような『奇抜すぎる闘衣』に包まれる。


 シューリが戦闘態勢に入ったということを理解したアダムは、

 荒々しい表情で、彼女を睨みつけ、


「シューリ・スピリット・アース・ソルウィング。今から、完膚なきまでに、あんたを殺す。私のことを恨んでもいいが、それは、とんだ筋違いだと言っておく。『生贄として死ぬ運命』を刻まれて生まれた……そんな、自分の不運を呪え!」


 そう言い捨てながら、

 アダムは、シューリに殴りかかった。

 ありえないほどの豪速。

 人類の限界を置き去りにした速度。


 そのありえないスピードに対し、シューリは、つい、心の中で、



(――っっ?! な、なに、この速度……このアダムとかいう女、何者?! ……どうなってんの……っ?!)



 『素の驚愕』をあらわにしてしまう。


 シューリの『赤ちゃん言葉』は、『周囲の全員を赤子扱いしている』という意志を示す『ただのキャラ付け』でしかない。


 ――赤ちゃん言葉とは、赤ちゃん自身が使う言葉ではない。

 基本的には『赤ちゃんに対して使う言葉』である。


 『赤ちゃん言葉の仮面』を脱ぎ捨てた本来のシューリは、

 非常にクレバーで、合理的で、達観した、

 シニカル極まりないリアリスト。


(まさか、この女……ほんとうに私を超えている? バカな……私はカンストしているんだぞ……私に勝てる者などいるわけがない……っ)


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