3話 虐待の復讐を果たすセンエース。


 3話 虐待の復讐を果たすセンエース。


 センの言葉に震えていたのは父だけではなく、母も。

 だから、


「せ、セン……私は、あなたを、ここまで育ててあげたのよ! あなた、いつも言っていたわよね! 元気に産んでくれてありがとうって! ね!」


「そう言って、親孝行しようとした俺に、お前は何をした?」


 そう言ってギラっとにらみつける。


「ひっ」


 センの威圧感は尋常ではなかった。

 とてもレベル1とは思えない脅威のオーラ。


「1億年もあれば、この怒りも風化するだろうと思っていたが、まったく、そんなことはなかったぜ」


 ゲートに入る前の記憶は保管され、

 ゲートを出た直後にインストールされるので、

 中で何億年たとうが、入る前の感情や想いを失うことはない。


 ただ、その前提がなかったとしても、

 センは、『この怒りを忘れることはなかっただろう』と認識している。


「実の親に愛されないだけでも相当なものだが、その上、俺は、理不尽な理由で殺されそうになった――その痛みが、てめぇらに分かるか?」


 怒りで『センのオーラ』がどんどん濃度を増していく。


 『理解できない力』を『際限なく増幅させていくセン』に恐怖を覚えるクズ夫婦。

 その膨大な恐怖心から、

 父であるバースディは、


「う、うわぁあああっ!」


 両手に『すべての魔力』を込めて、『センの顔面』に叩き込もうとした。

 頭蓋骨を砕き、脳を吹っ飛ばそうとしたのだ。

 レベル1が相手ならば、確実にオーバーキルの一撃。


 しかし、センは、

 そんなバースディの拳を、まるで太極拳のような、円運動の流れで受け流し、


「死ねよ、クソ野郎」


 ギュルンッ!

 と、『豪快な円運動の連鎖』で、

 父の体を地面へとたたきつける。



「ぐっはぁあああああああっっ!」



 白目をむいて吐血するバースディ。


 続けて、センは、母を睨みつけ、

 ゆっくりと、近づいていく。


「ひっ! ひぃいっ! よるな、化け物! 雷撃ランク9!!」


 そう言いながら、雷の魔法を放ってきた。

 『ランク9』は、『レベル150』程度の魔法使いが使う魔法。

 カルマ家に属する者は、みな、存在値が高い。


 ――ちなみに『一般人のレベル』は30~100ぐらい。

 『100』を超えていると、かなり強い方に分類される。

 世界最強である皇帝のレベルが『500』前後。


 そんな中、センの『存在値(総合評価)』は、というと、

 およそ――『17万』。






「雷撃ランク25」






 センは、あえて、『同じ魔法』を、『超高次ランク』で、かつ、『相殺する程度の威力』にとどめつつ放つ。


 バチバチとした雷撃が、互いの間にある空間でぶつかりあい、そして消えた。


「ら、ランク25ぉおおおお?! はぁああああ?!」


 世界最強の『皇帝』でも『ランク20前後の魔法』が限度。

 ランク25の魔法などありえない領域。


「れ、レベル1で……なんで……そんな……」


「俺が、ナイトメアソウルゲートで磨いてきたのは、オーラのコントロールだけじゃねぇ。マナコントロールも必死になって磨いてきた。極限まで循環率を高めれば、俺の微妙な魔力でも高位の魔法を放つことは可能なんだよ」


「す、す、すごいわ、セン……あ、あなたは、自慢の子よ……だ、だから、ね……そんな怖い顔しないで……かわいい顔が台無しだわ」


 必死になってすり寄ろうとしてくる母に対し、

 センは、限界まで冷めた声で、


「てめぇは最低の親だ。恥でしかない。生きている価値がない。ここで死ね」


「ひ、ひぃいい!」


 センの威圧感に心折れた母は、

 センに背中を向けて逃げ出そうとした。


 その背中にセンは、


「雷光弾ランク25」


 雷を纏ったマグナム弾のような魔法を放った。

 その強烈な火力は、


「ひぎぃっ!」


 一撃で、母の腹部に風穴をあけた。


「ぁ……あ……っ――」


 バタリと倒れこみ、失神してしまった母に、

 センは、


「じゃあな、クソババァ。双牙雷術ランク――」


 トドメを刺そうとしたのだが、




「……」




 力なく倒れて、血を流す母の姿を見て、




「……」




 数秒だけ考えてから、






「……ちっ」






 一度、舌打ちすると、


「大治癒ランク12」


 父と母、どちらにも、回復魔法をかける。

 二人の傷は、一瞬で癒えてしまった。


 実のところ、センは、『魔法が得意ではない』のだが、

 1億年も修行したので、世界最高峰の魔法も使い放題。

 もはや、『何でもありの完全生物』と言えた。


 けれど、『完全』なのは『能力』だけで、

 『心』の方は、1億年かけても不完全なまま。

 命は、永遠に、完成したりしない。



「……くそったれがぁ……」



 『傷だけは治ったが、気絶しているままの二人』を尻目に、

 センは、歯ぎしりしながら、

 自分の心と向き合う。

 『こいつらを、どうしたいのか?』

 という自分自身の問いかけに対し、

 センは答えを出すことが出来ない。


 だから、センは、

 まるで、問題から目をそらすように、



「…………ふぅ……」



 深いタメ息をつきながら、

 近くの椅子に腰をかける。


 両親二人が倒れている部屋で、

 独り、天上を見上げて物思いにふけるセン。



「一億年……しんどかったなぁ……長かったなぁ……」



 ボソボソと、


「よく耐えたな、俺……すげぇな……」


 一度、自画自賛してから、

 倒れている両親に目を向けて、


「……俺を虐待しつくしたこと。そして殺そうとしたこと。俺は、永遠に許しはしない」


 そう言いながら、親指を噛んで血を出すと、

 その血で、机に、


『お前らの生殺与奪(せいさつよだつ)の権利は俺が持つ。俺が殺したいと思った時が、お前らの死ぬときだ』


 そういう『血文字の脅しメッセージ』を残すと、


「一生、俺の影におびえて生きろ。それが、お前らカス夫婦に与える罰だ」


 そう言い捨てて、

 センは、生まれ育って家をあとにした。


 ――何も持たずに、外に飛び出したセン。

 彼が生まれた『大帝国』は、この世界において最大最強の大国。

 つまりは、この世界のほぼすべてが集まっている、強者にとっては最高の箱庭。




「俺はもう、完全に自由だ。これからは、大いに、自分の人生を楽しもう。やりたかったことを全部やってやるんだ。最初に叶える夢は決まっている。世界一の美女と結婚して、死ぬほどイチャイチャしてやるんだ! 無敵でバラ色の完璧な人生を、死ぬ気で謳歌(おうか)する!!」




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