2話 1億年の旅を経たレベル1。


 2話 1億年の旅を経たレベル1。


 バースディ・カルマは、違和感を覚えた。


 今、まさに、自分の息子の首をねじ切ろうとした、


 ……その時、






「――さわんな、カス」






 『非力なはずの息子(レベル1)』が、

 自分の腕をひねりあげたのだ。


「いだだだだああっ!!」


 あまりの激痛から手を離すバースディ。


「な、なんだ?! なんだ、その力! 魔法か?! いや、お前の『カスみたいな魔力』でそんなこと――」


 解き放たれた息子――『センエース』は、

 ゴキゴキっと首の関節をならしながら、

 冷たい目で、父を見て、


「オーラを完璧にコントロールできるようになれば、レベル1でも、ステータスを底上げして、あんたの腕をねじ切るぐらいは造作もない」


 そう言いながら、

 全身のオーラと魔力を美しく増幅させていく。


 1、オーラを体内で増幅させる技能、

 2、増幅させたオーラを体表にとどめる技能、

 3、体表にとどめたオーラをさらに圧縮して純度を高める技能、

 4、純度の高いオーラを爆発させる技能、

 5、爆発させたオーラを『芸術的なエンジン』のように『複数の動力』へと変換する技能。


 ――1つ1つが神業。

 どれか一つを『最低限レベルでマスターする』だけでも10万年はかかる。

 完璧に会得しようとすれば1000万年かけても届かない。


 『武の真髄』は、果てしなく深い。


「あんたが言う通り、100年必死に修行しても、あんたの足元にも及ばなかった。俺は、確かに無能だった」


 1000年修行しても、まだ届かなかった。

 父は確かに有能で、センは間違いなく無能だった。


「だが、1万年ほど、ひたすら修行したら、だんだんと、『武(ぶ)の極(きわ)み』が見えてきた。そして、100万年が経過した時、俺は、真理を悟った。その時点で、すでに俺は『皇帝』を超えていた。……『命が完成した』と思った」


 『センが練り上げたオーラ』は神々しかった。

 人の身でたどり着ける領域ではなかった。


「1000万年が経過した時、俺は、自分が『悟り』だと思っていたものが、『ただの虚像でしかなかった』と気づいた。俺は何も悟ってなどいなかった」


 センの前に開いたナイトメアソウルゲート。

 そのゲートの効果は単純。

 ――『現実とは隔離された世界で、1億年間、修行が出来る』というもの。

 中で1億年を過ごしても、外での時間経過は、知覚できないレベルの一瞬。


 バースディが、センをくびりころそうとした『その一瞬の間』に、

 センは、隔離された世界で、1億年間、ひたすらに自分を磨き上げてきた。


 センは、確かに、『レベル1の無能』だが、

 『誰よりも必死に努力ができる』という器はあった。


「俺は何も悟ってなどいない。命は永遠に完成したりしない。だが、俺は『俺自身と調和する術』を身に着けることに成功した。俺は弱いが……少しだけ自由になれた」


「ワケの分からんコトをゴチャゴチャとぉおおお!」


 そう言いながら、実の父であるバースディは、

 『亜空間倉庫(アイテムボックス)』から剣を抜いて、

 実の息子に切りかかった。


 その剣を、センは、

 指1本だけで受け止めた。


「は、ぁああっ?! れ、レベル1の雑魚に、なんで、そんなマネができる?!!」


 困惑している父に、センは、


「バースディ・カルマ。レベル300……『存在値』にして『350』。あんたの数字は確かに偉大だ。けど、あんたは、その数字をまったく使いこなせていない」


 そう言いながら、『バースディの剣を止めている指先』にオーラを集中させて、


「物質は脆弱だ。高次戦闘においては、コアマテリアルを十分に磨き上げて、神器化させない限り、そこらの『木の枝』と変わらない。振り回しても折れるだけ」


 クンッと、少しだけ指に力を込めた。

 それだけで、バースディの剣は、豆腐みたいに、グシャリとバラバラになった。


「はぁあああああ?!」


 あまりに異常な状況に、口を大きく開けて絶叫するしかないバースディ。


 そんな父に、センは、


「しかし……よくも、まあ、血を分けた子供に、あれだけの虐待ができたものだな。……自分でいうのもなんだが、俺の場合は『根性が異常だった』から、どうにか耐えられていただけで、もし俺が『普通のヤツ』だったら、とっくの昔に病んで自殺していたか、普通に衰弱死していただろう」


 怒りのこもったその言葉を受けて、

 バースディは、


「……か、か、カルマ家に生まれた者は、みな、同じ鍛錬を積むのだ! 私もそうだった! 父からは厳しい訓練を受けた!」


 いまだ『何が起こったのか』は理解できていないが、

 自分の息子に『とんでもない異常』が起きたことだけは理解できたようで、


「弱者は死ぬしかない。それが、カルマ家の掟。……だ、だが、お前は弱者ではない。何が起こったか皆目見当もつかないが、お前は強くなった……ああ、認める。見事な強さだ。それだけの強さがあれば、カルマ家の当主にふさわしい。私の跡をつぐことを許そう」


 などと、『センの怒り』におびえながら、

 センを懐柔しようとするバースディ。


 そんな彼のことを、センは、


「はは」


 鼻で笑って、


「カルマ家の掟には従うよ」


 ボソっとそう言った。

 その言葉を聞いて、

 バースディは、パっと顔を明るくしたが、




「命を狙われたら許すな。暗部(あんぶ)に生きる者はナメられたら終わり――だったよな」




 そんな、センの言葉を受けて、

 明るくなりかけた顔が、サーっと青くなる。


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