第5話
あのデートの日から一ヶ月が経った。
俺はというと、あの日からどうもおかしい。
由衣への連絡が最近はどうも気分が乗らない。由衣から連絡が来ても、前は確かに嬉しかったのに、今では少し面倒に思ってしまう自分がいた。
それが由衣にも伝わったのか、浮気でもしてるんじゃないかと疑われる始末だ。こんな俺に興味を持つ女子なんているはずないのに。
(でも、心配されるってことは、まだちゃんと好かれてるってことなのかな……)
それが嬉しいのかさえ、今の自分には分からなかった。
その日は、同じクラスの
暁人は高校に入って知り合った奴だが、俺と違い賑やかで友達も多いタイプだった。しかし、何故か俺を気に入ってくれて、こうやって遊びに誘ってくれることも多かった。俺も暁人といると、居心地が良く、楽しかった。
だが、その日は結局直前でキャンセルとなった。委員会があったことを暁人がすっかり忘れていたらしい。ゲーセンには来週行くことになった。
俺はいつもと同じ時間に学校を出た。
帰りのバスの中で、由衣のことを思い出す。
(そういえば、一昨日に今日の予定を聞かれたな。暁人と出掛けるって話したけど、由衣は放課後空いてるんだろうか……)
連絡してみようかとスマホを取り出す……が、俺はじっと我慢を見つめた後、何もすることなくポケットにしまった。
(急に誘ったところで由衣も困るだろう。ノープランで誘ってもまた由衣をイライラさせるかもしれないし、大体また部室に入り浸ってるんだろう。楽しいとこ、邪魔しちゃ悪いよな)
由衣は放課後はほぼ毎日、部室で過ごしているらしい。とりとめもなくみんなで雑談したり、遊んだりするのが楽しいのだと以前話していた。
家に着いて、玄関を開けると、靴が二足置いてあった。
雄大の靴と黒いローファー。ローファーは綺麗に揃えられていた。
(また彼女連れ込んでんのか……
この靴……莉緒ちゃんのかな?)
あの日の出来事が思い出されて、顔が火照る。
でも、今、莉緒ちゃんは雄大と……俺は慌てて下品な妄想を打ち消した。
「ったく……俺は……」
声が漏れ聞こえたら気まずいので、俺は自分の部屋には行かず、リビングの扉を開けた。スマホゲームをして時間でも潰そうとソファに寝そべるが、充電が切れそうだったことを思い出す。
二階から特に怪しい音は聞こえない。
「……はぁ。仕方ない。充電器とイヤホンだけ取りに行くか」
重い身体を起こして、出来るだけ気配を感じ取られないようにゆっくりと階段を登る。
微かな話し声は聞こえるが、そう声は大きくない。俺は自分の部屋から充電器とイヤホンを回収し、また階段を降りようと一歩踏み出した時、確かに声が聞こえた。
「……雄大くん……」と。
(ん? ……連れ込んでるのは莉緒ちゃんじゃないのか? 莉緒ちゃんは雄大って呼び捨てにしてたはずだし……。それになんだかこの声……)
駄目だとは思ったが、俺の足は動かなかった。その場に立ち尽くし、耳を澄ませる。
「もう雄大くんったらぁ……またぁ?」
「だって、先輩との相性良すぎるんですもん。いくらやっても足りない。先輩も、でしょ?」
「そうだけど……なんか悪いことしてるみたい……」
「兄貴に?」
「うん。一応、翔吾くんの彼女だし?」
「ふっ……兄貴もほんとかわいそー。こんなエロい身体、好き勝手できないなんて」
「んっ。……だってぇ、翔吾くんとそんなの考えられないもん」
「なのに、未だに付き合ってるのは、俺とヤる時の背徳感がたまらないからでしょ? くくっ……先輩ったら、悪い女」
「そんな言い方、ひどーい! 雄大くんだって『兄貴の女を寝取ってると思うと興奮するー』とか言ってたくせに」
「うん、こういうシチュって燃えるよねー。ほら、先輩だって……」
「んっ……」
その場にこれ以上いられなかった。
俺は階段を駆け降りて、急いで外に出た。
どうしたらいいかわからなくて、ただただ走る。
確かに思い返してみれば、玄関にあったローファーに見覚えがあった。あれは由衣のだ。
……昨日、わざわざ俺に予定があることを確認したのも雄大と会うためだったんだろう。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
今にも吐きそうだ。
俺に笑いかけていた由衣が雄大に抱かれてたなんて……。いつから……?
由衣だとわかった瞬間、部屋に怒鳴り込むこともできた。けど、俺は二人が重なり合っているのを見るのが怖くて……逃げてきてしまった。
(……俺はどこまで情けないんだ)
その時ーー
どんっ!!
曲がり角を曲がった俺は人にぶつかり、尻餅をついた。相手の人も俺に弾かれてしまったようで、「いてて……」と言っている。ぶつかったのは女の子らしかった。
前を見ずに勢いよく飛び出した俺が悪い……。だが、顔はいつの間にか涙で濡れ、とてもじゃないが上げることは出来なかった。下を向いたまま立ち上がり、「すみません」と一言だけつぶやき、急いでその場を去ろうと、その子の横を通り過ぎようとした。
しかし……俺の腕はその子に掴まれた。
「もしかして……おにーさん……?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、俺の目の前には莉緒ちゃんがいた。
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