第7話 心を溶かす言葉
芳しいカカオの香りが漂うダークチョコレート。
美味しそうだと思って口に入れると一気に苦味が広がる。
俺は先生の心を溶かしたい。
甘い言葉でじっくり練って、顔もほころぶほど甘いチョコレートに変わるように。
「…あ、待ってください」
「何?」
先生に両手で目の前にバッテンをされて、キスをやんわりと止められた。
俺は素直に従い、先生の話に耳をすませた。
過去に何があったのかを聞くと、先生は最初こそ言いづらそうにしていたが、ぽつりぽつりとひとつずつ話してくれた。
「日本だと背格好が少し違うせいでしょうか。
よく知りもしない相手から好きだ、と言われることが多かった気がします。
家にまで来られることもあったので中学からは全寮制の男子校に入りました。
けど解決どころか寝食共にしていると、複数人でベッドに入ってこられるなんてこともありました。
抵抗して騒ぎになると、私が誘惑したと全員から責められて、保護者から厳重注意という罰を受けました」
「両親は先生を信じてくれなかった?」
先生は寂しそうに笑った。
「そのときの保護者は母方の祖父で、もめる時間があるなら勉学に励むようにと言われました。
両親は私が7歳の時に交通事故で他界したんです。
祖父はアメリカ人の父の事を嫌っていて、僕のことも可愛いとは思えなかったみたいです。
身寄りがなくなるまで会ったこともありませんでした」
俺は先生を抱き寄せた。
先生はためらいながら声を絞り出した。
「嫌、じゃないですか?
その、最初の時もすんなり入って驚いたでしょう」
あばずれ呼ばわりされて拒絶もできなくなった先生は、ついには肉体関係をもってしまったことも打ち明けてくれた。
その時、身体は痛くても罵倒されなかった。
一度寝れば事は早く終息するのだと思ってしまった先生は、心を守ることに徹したのだ。
「そんなことない。
俺を受け入れてくれて嬉しいよ」
俺は力一杯先生を抱きしめた。
そして、俺はできる限り優しく先生の顔を包み込んで、キスをした。
先生は睫毛を震わせながら瞼を閉じて、今度は抵抗しなかった。
俺は先生の顔を覗きこんで言った。
「先生、俺に何でも言ってほしい。
そして、セックスの時に素直に感じ
てほしい」
先生の瞳が困惑でゆらゆらと揺れている。
「先生の鳴き声が聞きたい。
好きだよ、先生」
俺は先生のトレーナーの裾から右手を差し入れた。
最初のセックスで先生が反応したところを指でスルスルと刺激してみる。
「っ」
先生の色っぽい吐息を聞きながら左手で先生の下半身を露にしていく。
「もっと聞きたい」
俺は左手で先生をユルユルとこすりあげた。
「……あ」
先生が悦んでいるかを確かめながら左手の動きを速めていく。
「っん、タケルくん……」
「何?
何でも言って」
先生は、おずおずと両手で俺の証を握りしめた。
「……一緒がいい」
上目遣いで求められて俺は一瞬で我慢の限界を越えた。
先生にベッドの上で大きく足を開かせると、先生の入り口にピタリと先端を擦り付けた。
「いくよ」
「はい…」
性急にならないように気をつけながらズン、と押し込む。
先生の入り口は緩やかなのに中に入った途端強く吸い付かれて、危うくもっていかれそうになる。
慌てて腰を引くと、先生からため息が洩れた。
先生の心に少しでも近づきたい。
先生は、もう一度信じようと思う相手に俺を選んでくれたんだから。
今日はできる限り永く繋がっていたい。
なのに、先生の深みに分け入っていくと欲望が猛々しく沸き上がってくる。
先生に自分を受け入れてもらいたい。
結果として、果てては再び探り始めるという動きを続けることになる。
先生も俺を受け入れながら、自身も幾度となくシーツを濡らしていた。
俺たちは恋人としての初めてのセックスをいつまでも味わっていた。
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