第4話 最下層
「ところでレックス。ドラゴンって何を食べるの? 食料調達大変じゃない?」
「ドラゴンは何でも食べるぞ。肉や野菜だけじゃなく石や土も食べる」
「えっ!? 石も?」
「この歯を見てくれ」
ルークの口を開いてアーニャに鋭い歯を見せた。
「ひいっ、なにしてるの!? 危ないよ!」
「ドラゴンの前歯は肉を噛み千切れるように鋭くなっている。内側にある歯は草をすりつぶせるように平たい形をしている。そしてこの長い舌で土と石を掘り返して食べるんだ」
「分かったって! だからドラゴンの口の中に手を突っ込むのはやめようねっ!!」
「ルークの骨がもろいのは栄養のバランスが偏っていたせいだな。食費を抑えるために干し草しか食べさせてなかったんだろう」
タンパク質やミネラルが不足していると丈夫な体にはならない。
余っていた小魔石をルークに与えた。
「ドラゴンを購入すると決めた日からずっと餌で悩んでてさ。あちこち探し回ってたんだが中々ぴんと来るものがなかった。だけど今日良いものが見つかった。ダンジョンの土は魔力もたっぷり含んでいるから餌に最適だ。……今のルークじゃ竜車はひかせられないし、一ヶ月くらい体質改善期間を設けても良いか?」
「良いよ! その間にレックスもFランク冒険者になっておこう」
「ランクって一ヶ月程度であがれるものなのか?」
「ダンジョンの最下層に出てくる強い魔物を倒して魔石を納品すればすぐみたいだね。私はソロで活動してたから時間かかったけど。とにかく一緒にやってみようよ」
「そうだな」
ダンジョンの最下層を目指すことになった。
途中でアーニャと別れて帰宅した。
家に戻ると玄関で父のアルバートが待っていた。
「レックス。今朝は強く当たり過ぎた。済まなかった」
「気にしてないよ」
「そうか。ときにレックス……。お前が連れているそのドラゴンはなんだ? どこで拾ってきたんだ? まさか育てたいなんて言い出さないよな?」
「今までの貯金全部崩して手に入れたドラゴンだから大事に育てるよ」
「ぬぁああああああああっ!!」
今日もうちの家族は賑やかだ。
その後、父は土魔法でルークの小屋を作ってくれた。
次の日。
シャベルを持ってお城に行き、衛兵に質問した。
「済みません。ここの土を持ち帰っても良いですか?」
「駄目に決まっているだろう」
「崩落の恐れがあるなら最下層の土を持って帰ります」
「それでも駄目だ。万が一、ホロウモンスターの出現エリアが拡大してしまったらどうする? 国家転覆をはかった大罪人として処罰されても知らんぞ」
「はい」
ダンジョンの土、良い餌になると思ったんだがな。
シャベルを衛兵に預け、小魔石を集めるためにダンジョンに潜った。
「レックス。気持ちを切り替えていこう」
「ああ、まずはジョブの恩恵を確かめることからだな。竜の感覚<ドラゴンセンス>、発動」
すると地下通路内で舞っている砂粒が綺麗に見えた。
隣に目をやるとアーニャの動きがスローになっている。
「何か変化あった?」
声が低くゆっくりになって聞こえづらい。
ドラゴンライダーの常時発動能力、ドラゴンセンス。
手懐けたドラゴンと同程度の視力と聴力を得る能力。
「かなり目が良くなったな。この状態ならじゃんけんで負ける気がしない」
「そうなの? 私、運が良いからじゃんけん強いよ。そんなに自信があるなら5回勝負で負けたほうが昼食おごりってことでいい?」
「良いぞ」
「それじゃあ、いくよー。ワニ・カニ・カメでじゃんけんぽん!」
ワニがパー。カニがチョキ。カメがグーの三すくみだ。
結果。
5勝0敗で俺が勝った。
「すごい。私の動き、全部見えてるんだ」
「まあ、途中で出す手を変えるのはあまり褒められた行為じゃないし、おごりは無しでいいぞ」
「言い出しっぺは私だからちゃんと奢るよ」
「じゃあ、ご厚意に甘えるよ」
じゃんけんをしたお陰でこの超感覚にも慣れてきた。
「だいぶこの速度にも慣れてきたな。そろそろまともに動けそうだ」
「ここから先は少しの油断が命取りになるから集中してね」
「了解」
他の駆け出し冒険者を避けて奥まで進み、緩やかな螺旋階段を下りていく。
地下5階は開けた場所になっていて、先に来ていた冒険者たちは天井に張り付いているコウモリ――ホロウバットを魔法や弓矢で撃ち落していた。
中央にはヴィンセントがいる。
彼は魔物が実体化する瞬間を狙って風魔法で真っ二つにした。魔石の落下地点には7~8歳くらいの子供が三人いて、右に左に移動して落下する魔石をキャッチするのに必死だった。
魔石が割れて周囲に破片が飛び散る。
「はははっ、また落としたぞ! ちゃんと上を見ないといつまで経っても集められないなぁ」
鶏卵サイズの魔石だ。
当たり所が悪ければ失明してしまう。
「もうやめて! 子供たちがかわいそうだよ! なんでこんな悪趣味なことができるの!?」
「おや、懐かしい。落第者のアーニャ・バーグラーじゃないか! 風の噂で聞いたよ。キミ、人から魔力を奪ってるんだってね。良くないなあ、実に良くないよ。自分が生まれつき不幸だからって、人様の足を引っ張るなんて良くないことだよ」
「私は誰からも魔力を奪ってない! それに自分が不幸だなんて思ったことは一度もないよ!」
「キミは相変わらず馬鹿だなぁ。ほら、周りを見てごらん。魔物の怒りを買ってるよ」
「――ッ!?」
他の冒険者を無視してホロウバットの大群がアーニャに押し寄せてきた。
「魔力ゼロのキミに、その数はさばき切れるのかな?」
ホロウバットは一匹だけなら大したことはないが数で攻められたら脅威になる。
というかアーニャは魔法が使いないのか。
そう言えばギルドカードを見せて貰ったとき得意な魔法がなかったな。
魔法の壁で身を守ることができないのはかなりまずい状況と言える。
「アーニャ。耳を塞いでてくれ」
「レックス!? ダメだよ、早く逃げて!!」
彼女の頭にタオルを被せて俺は叫んだ。
「破ッ!!」
竜の咆哮<ドラゴンロアー>
敵味方関係なく怯ませる技だが耳が良いホロウバットは全て気絶した。
「――っ!? 魔法も使わずにあの数のホロウバットを無力化しただと!?」
尻もちをついていたヴィンセントがふらふらと立ち上がる。
「体が痺れて、うまく力が入らない。こ、このボクが気圧された!? そんなバカなッ?」
「アーニャは俺の仲間だ。これ以上、彼女を悪く言うのなら容赦しないぞ」
「ひぃっ!」
ヴィンセントは脇目も降らずに走り去った。
「行ったか」
「……レックス。庇ってくれてありがと」
「あれくらいどうってことない。それよりもアーニャ。耳は大丈夫か? 鼓膜破れてないか?」
「大丈夫だよ」
「それなら良かった」
獣人は耳が四つあるから多用できない技だな。
硬直状態のホロウバットにとどめを刺して魔石を集めた。
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