第3話 竜車
「よし。これで10個集まったな」
「お疲れ!」
冒険者登録に必要な数の小魔石を鞄に詰めて来た道を引き返す。
「後ろで見てたけど剣さばき凄かったよ。その実力なら学校でも話題になってたはずだけど」
「剣術大会には参加してないからな」
「そうなんだ。ファイナリスト並みの実力はあったのにもったいない……」
「俺の装備はこれ一着しかないから傷つけたくなかったんだよ」
「あ、そういうことなんだね」
「竜車を買うために貯金していたんだ。冒険者登録が終わったら竜小屋に行くが、もちろんアーニャもついてくるよな」
「あれを買うの!?」
「当り前だろ。パーティー名はドラゴンウィングなんだからな。ドラゴンがいないと格好がつかないだろ」
「レックスのジョブがドラゴンライダーだからって、竜車はまだちょっと早いと思う」
「いやいや、乗りこなすなら早いほうが良いに決まってる」
「腕を噛み千切られても知らないよ!」
「どんとこいだ」
この血肉が竜の栄養になるのならそれもまた良し。
俺は小躍りしながら冒険者ギルドに入った。
カウンターに小魔石10個を持っていくとすぐにギルドカードが発行された。
**********
レックス・ブレイタント
種族:人族
年齢:14歳
ジョブ:ドラゴンライダー
資格:片手剣術準一級
火炎系魔法一級
Gランク冒険者
♡0
**********
資格は在学中に取得したものだけだ。
地域密着型の冒険者でもないかぎり実力は隠しておいたほうがいい。
「わあっ! 新品のギルドカード、きらきらしてて良いなあ! 私も早く更新したい!」
アーニャが俺のカードに触ると♡0が♡1に増えた。
「カードの状態なんかどうでも良いんだ。早く竜小屋に行こう!」
「もっと喜ぼうよ!」
「そんなことよりもドラゴンだ。急がないと誰かに先を越されてしまう」
「大丈夫だって」
町の外れにある竜小屋に移動した。
ここは未成年の立ち入りが禁止されている場所。
頑丈な石のフェンスが俺の行く手をはばんでいる。
立ち入り許可を貰うため、ドラゴン調教師がいる家の扉を叩く。
「なにか用かな?」
「竜車をひくドラゴンを購入しに来ました」
調教師のおじさんは俺を上から下まで見た。
「未成年にドラゴンを売るのは法律で禁止されているんだ。身分証を確認させてもらうよ」
「はい」
「……ふむ。成人式が終わってすぐこちらに来たのだね」
「俺のジョブはドラゴンライダーだ。ドラゴンと心を通わせる自信がある」
ドラゴンライダーの紋章を見せるとおじさんは後ずさった。
「た、確かにそれはドラゴンライダーの証……。役に立たないジョブで有名だったはず」
「行商人になれば問題ないだろう。身分の高い人たちは自分が周りからどのように見られているかに敏感だ。彼らと取引をするのであれば馬車よりも竜車のほうが派手で好まれる。だからこのジョブにしたんだ」
「そこまで考えての行動だったとは。恐れ入ったよ。この奥への立ち入りを許可しよう」
「ありがとうございます」
アーニャが何か言いたげな目で俺を見る。
「ドラゴンを手懐けるコツは相手が頭を下げるまで決して目をそらさないことだ。ドラゴンを従えるのはとても難しい。だがキミならあるいは……」
「目をそらしちゃ駄目って……。私もやらなきゃいけませんか?」
「いえ、彼に任せておけば大丈夫ですよ。ですので、無理せずこちらで待っていることをお勧めします」
「一人でお留守番なのもつまらないからついていきます」
門をくぐり、念願のドラゴンパークに入った。
生い茂った森の匂いに包まれる。
グギャオオオオ。
この世のものとは思えないおぞましい鳴き声に全身の毛が逆立つ。
長い葉っぱが視界をさえぎって何も見えない。
おいおい、まだこの俺をじらすのか。
「レックスってすごいね。目上の人とも普通に喋ってて、私はあんなに長く喋れないよ」
「あらかじめ考えておいた台詞なんだよ。正直に言ったところで周りを不安にさせるだけだからな」
植物のトンネルをくぐった先は……。
ドラゴンの楽園が待っていた。
左を見ても右を見てもスピル種のドラゴンがいる。
全高約2・5メートル。全長約7.5メートル。
大人二人乗せて運べる大きさ。
「す、すごいぞ! CGじゃないよな。模型なんかじゃないよな!」
なんて素晴らしい光景なんだ。この日を何度夢に見たことか。
「泣いてる」
「もっとよく見たいのに目がかすんでくる」
「このハンカチ使って」
「気が利くな」
涙を拭いてもう一度周りを見る。
スマートな体型の姿勢が良いドラゴンや、足腰が発達した活発そうなドラゴン。皆、個性的で目移りしてしまう。
「全員持ち帰りたい。いやもうこの際、ドラゴンパークごと買い取りたい」
「無理だよ」
「くっ、貴族買いはさすがにできないか」
「はははっ、ここまで気に入ってもらえると嬉しいね。キミ、ここで働かないかい?」
「それも魅力的な提案だ。だけど俺にはまだやりたいことがあるんだ」
世界中のドラゴンと触れ合う。
これは始まりの一歩だ。
「――」
「ん?」
俺の第六感が働いた。
遠くを見ると調子の悪そうなドラゴンを見つけた。
「あのドラゴン。足の骨にヒビが入ってる」
「なんと!? あの子は最近調子を崩していた子なんだ。それを瞬時に見抜くなんて。ドラゴンライダーにはそんな能力があったなんて初耳だよ」
「いや、これは爬虫類の世話をしていたときの経験です」
「足にヒビが入ってるのかわいそう。どうにかしてあげられませんか?」
「治癒魔法を掛けてあげよう。ええとキミたち、私についてきてくれ」
おじさんに頼まれてヒビの位置を教えた。
回復魔法で骨をくっつけた。
「おおっ、元気になったみたいだ。まさか足の骨が折れていたなんてね。気付かずに買い手がついて何か事故が起こったら信用を失ってしまうところだった。教えてくれてありがとう! 謝礼は弾むよ」
治療を終えて元気になったドラゴンが仲間になりたそうに俺を見ている。
回復魔法を掛けたのは俺ではないのに。
こやつ、もしかして賢いのでは。
「このドラゴンを貰います」
「キミ、本気かい? 今さっき、生まれつき体が弱い個体だと判明したばかりだよ」
「つまりは俺が面倒を見てやらないとこいつはここで一人取り残されるってことだ。そんなみじめな思いはさせたくない。こいつには俺が必要なんだ」
本人がみじめと感じなくても、周りがみじめと思えばみじめになる。
それが世の中だ。
「この子を貰ってくれるなら大助かりだ。幸い、先ほどの一件でキミに懐いたようだしね」
「グギャオオオ」
ドラゴンが俺にすり寄ってくる。
このゴリゴリ感がたまらない。
「おーしおしおしおしおし、良い子だなー。お前の名前はルークだ」
「わ、私も触ってみたい……」
「ルーク。彼女が触っても暴れたりしないか?」
賢くてかっこいいルークは自らアーニャに歩み寄った。
「ドラゴンって凄いんだ」
その後、ルークを購入してドラゴンパークを離れた。
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