第2話 冒険者ギルド
ベテラン冒険者が猫人族のアーニャに突っかかる。
「いいね、っていうのは私を応援したいって気持ちのこと。昔、勇者がヴァンパイアロードを倒したときに使った大技があるでしょ。『皆の力を貸してくれ』ってやつ。あれと一緒なの」
「あぁ、やっと理解できたぜ。吸い取られた魔力は時間が経てば回復するんだな。泥棒猫ってイメージが先行してたから勘違いしちまった。紛らわしい格好しやがって」
「この服は猫人族の伝統的な戦闘服なの! 盗賊の服と一緒にしないでよ!」
「悪かったよ」
「ふん」
その直後、何故かアーニャが俺に詰め寄ってきた。
彼女は気持ちのよい笑みを浮かべた。
とんがった歯がチャーミングだな。
「私のマジックテイカーがすごいジョブだってこと分かったよね。ちなみにキミのジョブはなんなの? あ、それと名前も」
「俺はレックス。ジョブはドラゴンライダーだ」
「わあ、個性的なジョブだね! 私からキミにいいね上げちゃう! うん、グッドだよ!」
「……こっちにも馬鹿がいやがる」
ベテラン冒険者は俺を見て大きなため息を吐いた。
「私、みんなに変わってるって言われるけど、キミも相当だね。仲間だ!」
「俺、何か変なことをしているのか? ドラゴンライダーは最高にクールだろ。ドラゴンの背に跨れば世界中どこにだって行けるんだ」
「お前は馬鹿か。ドラゴンの巣が何処にあるかもちろん知ってるだろ。人間じゃ絶対にたどり着けない山の頂上だ。捕まえに行く途中で凍え死ぬだろ。つまりお前のジョブはクソほども使えないってことだ。悪いことは言わん。冒険者だけはやめておけ」
「困難な道だということは最初から理解している。それでも俺は叶えたいんだ。命を賭して夢を追い求める……、冒険者ってそういうもんだろ」
するとベテラン冒険者は目をぱちくりさせた。
「……ああ、そうだった。冒険者ってそうだったな。オレが間違ってた。お前はもう、オレなんかよりも立派な冒険者だよ」
腕をぶつけあって、和解。
「お前ら今の聞いてたよな!! 夢に酔ってなんぼの冒険者!! 今日は旅立ちの日だ!! 新たな仲間を盛大に歓迎しようじゃねえか。今日の酒は全部オレのおごりだ!!」
「「「うぉおおおおおおおおおっ」」」
店内が騒がしくなった。
豪勢な食事でお腹が膨れたあとカウンターで冒険者登録を行った。
「レックス。パーティー名は何にする?」
「俺はドラゴンウィングが良いんだけど、アーニャは?」
「私は何でも良いし、ドラゴンウィングで決定ね」
「分かった」
ギルドの受付嬢に書類を提出した。
「それでは冒険者登録試験の説明をします。試験の内容はダンジョンから小魔石を10個取ってくるだけです。何かご質問はありますか?」
冒険者になるためには試験に合格しないと駄目なのか。
もう仲間って雰囲気だったのに。
「小魔石10個って、パーティーを組んだ場合はどうなりますか?」
「一人につき10個です」
「じゃあ、20個必要なんだな」
「私はもう冒険者登録済ませてあるから計算に入れなくて平気だよ」
アーニャは俺にギルドカードを見せびらかした。
下から二番目のFランク冒険者だ。
冒険者ランクは下から数えてG・F・E・D・C・B・A・Sとなっている。
**********
アーニャ・バーグラー
種族:猫人族
年齢:14歳
ジョブ:マジックテイカー
資格:短剣術一級
索敵一級
罠解除一級
Fランク冒険者
♡3
**********
ギルドカードの左下にはハートマークがあり2という数字が書かれていた。
「実は4年前から冒険者やってたんだ。分からないことがあれば何でも聞いてね」
「このハートマークの横にある数字は?」
「いいねの数だよ。私を応援してくれている人数。お母さんとお父さんと……私」
「あー……」
「その、あー、ってなに!? 4年前から活動しててこのざまって思ってる!? レックスは分かってないよ!! いいねを貰うのってすごく大変なんだよ!!」
「なんかすまん」
「許して欲しいなら、このハートマークに指を押し当てて」
「分かった」
10秒ほどハートボタンを押すと3の数字から4に変わった。
体が少しだるくなった。
「わあっ、やったー。家族以外からいいねが貰えた!! レックスありがとう。大好き!!」
力強いハグ。
こんなに喜んでもらえると俺まで嬉しくなってくる。
お前のこと、アルマジロトカゲの次くらいには好きだな。
すると♡4から♡5になった。
「えええっ!? うそっ、増えた!? いいねって一人につき一回きりのはずなのに!?」
「家族の愛情が振り切ってて増えなかったってことなんじゃないか?」
「レックスはいま、私のことちょっと好きになったってこと?」
「まあ、男には色々あるんだ」
「そうなんだ」
周りの視線を感じてアーニャから距離を置く。
「ところでダンジョンってなんだ? そんなもの何処にあるんだ?」
「え? 知らないの?」
「俺はドラゴン以外に興味が無いから」
「そっか。……しょうがない、ここは先輩冒険者の私が分かりやすく教えてあげましょう。ダンジョンはお城の下にある地下室のこと。そこは魔物の巣になっていて、今は駆け出し冒険者や兵士の訓練場として使われているんだよ」
ヴァンパイアロードが世界を支配していた血みどろの時代。
食料として連れ去ってきた人間と、地下に住む魔物を戦わせる賭け事が流行っていた。
ヴァンパイアロードが討伐されたあと魔物の巣の出口に蓋をして、その上にブルギア城を建てた。
魔物の体内には魔石が生成されるので、魔石の養殖事業でブルギア王国は大きくなった。
「へえ」
「学校の授業で習ってるはずだけど」
「頭に入ってなかったな。感謝のしるしにもう一回いいねしておくか」
力強くサムズアップ〝b〟すると、アーニャのギルドカードがまた反応した。
てろりん。
「っ!? だからなんで増えるの!? 嬉しいけども」
「また一つ好きが更新されたってことだな」
「……っ、そんな面と向かって言われるとさすがに照れるよ」
彼女は両手をわきわきさせて威嚇のポーズをした。
そんなに俺の胸をもみたいのか。
「陽が暮れる前に冒険者登録を済ませたいから早速ダンジョンに行こうか」
「うん」
ギルドを出てお城に向かう。
「レックス。ドラゴンライダーの特殊能力ってどんなの?」
ジョブにはそれぞれ特殊能力がある。
剣士の場合は、剣が刃こぼれしにくくなったりする。
盾使いの場合は、腕の骨が丈夫になったりする。
「指笛でドラゴンを呼んだり、逆鱗に触れても殺されなかったり、背中に跨っても振り落とされなかったり、ドラゴンと仲良くすることに特化しているな。今のところ戦闘で使えるものは何もない」
「うわ~。やっぱりそうなんだ……。じゃあ、能力が進化することに期待するしかないね」
「そうだな」
お城の周辺を警備している衛兵に仮のギルドカードを見せてダンジョンに入った。
「これがダンジョンか」
お城の下にこんなものがあったとは……。
「今日は記念すべき初ダンジョンだから私は手助けしないけど。本当に危ないときは助けるから肩肘張らずにやっていこ」
「分かった」
ヴァンパイアロードの肉片から生まれたホロウゴブリンが襲い掛かってきた。
ホロウゴブリンを一刀両断する。
黒い煙になって消滅して小魔石を3つ落とした。
「灯りのないところにたまに湧いて出てくるホロウモンスターってここから生まれていたんだな」
ホロウモンスター。
魔物っぽい何か。
学校の課外授業で何度かホロウモンスターの討伐に参加させられたことはあったが、出現場所がお城の真下だとは知らなかった。
昔の人はよくこんな危険な場所で生活する気になったな。
ヴァンパイアロードがいた時代はもっと殺伐としていたってことだろう。
平和な時代に転生できた俺は幸せ者だ。
「次来るよ。気を引き締めて」
「ああ」
ホロウスライムやホロウゴブリンを素早く屠って小魔石を集めた。
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