最強職でセカンドライフ

焼星うお

第1話 最強職

「寺野所長!! 大変です!!」

「騒がしいぞ。この子がストレスで死んだらどう責任を取るつもりだ。大声を出すな」


 俺は研究所の警報を止めて、恐竜の卵が孵るのを静かに見守った。


 ここはジュラシックパラダイス。

 日本列島の端っこにある無人島を購入して密かに恐竜復活実験を行っていた。


 恐竜を復活させたあとは遺伝子を操作してドラゴンを生ませる。

 子供の頃からの夢。

 それはドラゴンの背に跨って世界を一周することだ。


「そんなことを言っている場合ではありません。ここで行われている非合法な実験が世間に広まってしまいました。もう、映画の撮影なんて言葉では誤魔化せないところまで来ています。急いで身を隠しましょう!!」


「逃げるなら勝手にしろ。今、古代の生命がよみがえる大事なところなんだ。俺がこの場を離れるわけにはいかない」

「所長、時間を稼ぎたいのでマンモスを檻から解き放ってもよろしいですか?」


 殻を突き破って恐竜の赤ちゃんの頭が出てきた。


「いいぞ!! その調子だ。あともう少しだ。頑張れ。俺がお前のお父さんだぞ」

「グオオオオオオオオオオオオオ!!」


 急に視界が暗くなる。

 振り向くとマンモスの大きな足が目に飛び込んできた。 


 ――。

 マンモスに踏み潰された俺は、貧しい家の次男坊――レックス・ブレイタントとして新たな人生を送ることになった。


 それから14年後の1月1日。


 今年14歳になる子供たちが教会に集められた。

 ブルギア王国では14歳を過ぎると大人として扱われる。


「今から成人式を行う。神の御前で宣言したジョブには神の御加護が与えられる。二度とやり直すことはできないからしっかりと今後のことを考えて決めなさい」

「「「はい」」」


「名前を呼ばれた者は前に来なさい。ウィリアム・アーチャー」

「はい」


 竜人族のウィリアムは聖壇の前にひざまずいて希望する職業の名前を告げた。


「オレがなりたい職業はただ一つ、〝勇者〟だ! だから神様、オレに勇者の才能を下さい」


 すると彼の頭上にドス黒い雲が現れて雷が落ちた。


「ぎゃあああああああ」


 神父は少年に駆け寄って彼の手の甲に刻まれた紋章を見た。


「この紋章、キミのジョブは弓使いですね。おめでとうございます」

「竜人族のこのオレの適職が弓使い!? 竜騎士ではなく!?」

「弓使いも素晴らしいジョブですよ」

「イヤだ。勇者っぽくないッ!!」


「ははっ、実に無様だ。勇者とは人族だけがなれるジョブなんだよ。いくら夢を見たところで叶うわけがないのさ」

「ちくしょーっ! もう神なんか信じないぞ」


 黒焦げになったウィリアムは勢いよく教会を飛び出した。


「――次、ヴィンセント・クレバーン。前へ」

「はい」

「キミが希望するジョブはなんだね?」

「ボクは賢者を選択する。これが賢い生き方だ」


 天から光が降り注ぎ、ヴィンセントを照らした。


「はははっ、素晴らしい。神の叡智が流れ込んできている。ああ、今すぐに試したい」


 ヴィンセントは軽やかな足取りで教会をあとにした。

 それから数分後。


「レックス・ブレイタント。前へ」

「はい」


 ついに俺の番が回ってきた。


「キミが希望するジョブは?」

「俺はドラゴンライダーを選択する」


 するとどよめきが起こった。


「キミ!? 正気かね!? ジョブの選択は一生を左右するものだぞ。ドラゴンライダーはドラゴンを持っていなければ何の役にも立たない職業。ロマンを求めてドラゴンライダーを選んだ者たちは皆、悲惨な死を遂げている。まだ時間はある。もう一度、親御さんと相談してきなさい」


「心変わりはしない。俺はドラゴンライダーになると産まれる前から決めていた!!」


 眩しい光が俺の全身を包み込んだ。

 左手の甲が熱くなり、ドラゴンライダーの紋章が浮かび上がった。


 さあ、旅立ちのときだ。

 待っていてくれドラゴンたちよ。何年掛かってでも会いに行くからな。


 教会を出ると父と母と兄が不安そうな顔で近づいてきた。


「レックス。ジョブの選択は上手くいったか!? 聖騎士の紋章は貰えたか?」

「名前がかっこよかったからドラゴンライダーにした」


 お父さんは飛び上がるほどビックリしていた。


「な、なにをやっているんだ!! 最悪だ!! 何故よりにもよってドラゴンライダーなんて使えないジョブを選択したんだ。というかどこでそんな知識を手に入れてきた?」


「学校の図書室でドラゴン図鑑を眺めていたらドラゴンライダーって職業があることを知ったんだ」


「くっ……、私がもっときちんと教えておくべきだった。ドラゴンライダーはサブジョブとして選択するものなんだ。それをお前、メインジョブで選択してしまうとは……。もう終わりだ。どうしよう母さん」


「竜車の運転手になれば一人でも生きていけると思うけど」

「そうだな。それしかなさそうだ」


 なんか色々と考えてくれているみたいだな。


「いつも言ってるけど、俺は冒険者でやっていくから運転手にはならないぞ」

「レックス。やめたほうがいいよ。冒険者はソロでやっていけるほど甘いものじゃないんだ」


 お兄さんも俺を心配してくれる。

 だけど済まん。俺にはどうしても叶えたい夢があるんだ。


「仲間がいれば安心なんだな。じゃあ、パーティーメンバーを探してくる」

「マイナーなジョブで仲間が増えるとは思えないけどな」

「……」


 パーティーメンバーを探して冒険者ギルドに向かった。

 冒険者たちのたまり場に行くと、赤茶色の盗賊猫耳娘に声を掛けられた。


「やっほー、もしかしてキミも冒険者登録に来たの? それなら私とパーティー組まない? 私はアーニャって言うんだ」


「おお、丁度俺もパーティーメンバーを探していたところなんだ」

「わおっ」


「ちょっと待ちな。あんちゃん。悪いことは言わねえ、その女とは関わらないほうがいいぜ」


 冒険者のおじさんが会話に割り込んできた。


「邪魔しないでってば」

「良いかその女はな。マジックテイカーとかいう最悪のジョブなんだよ」

「聞いたことのないジョブだな」


「マジックテイカーは人の魔力を奪って自分の力にかえるんだと。どんな状況でも自分だけが生き残れればいいっていう、最低最悪のジョブだと思わねえか?」

「マジックテイカーはそんなんじゃない。いいねを貰った数だけ私が強くなるジョブなの」


 なるほど。

 そんなジョブもあるのか。


「はぁ? いいねってなんだよ」

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