二章 聖域の『魔物達』①
チチチ、と鳥のさえずりが聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、木の葉の間から優しい
周囲を
「とても綺麗なところね」
どうやら私は、
聖域の奥へと向かっている
そういえば、
でも、ここは聖女のみが入ることのできる聖域のはずだ。追っ手が近くにいる様子はないが、聖域が伝説通りの場所でないのなら、
けもの道を見つけたので、それに沿って歩いて行くと、何やら建物が見えてきた。
「あれは……住居?」
木だけで造った山小屋のような建物で、ボロボロだが
「
勝手に
「
どう見ても洗濯物を干しているように見えるのだが、布のサイズも形もバラバラだ。
複数人が生活していることは確かだと思うが、どういう人達だろう。絶対にあの美形集団のものではないことは確かだ。
洗濯物を
ここの住人が帰って来たのだろうか。顔を向けるとそこにいたのは──。
「バウ!」
私とほぼ同じ
「ひっ……!」
短い悲鳴を
後ずさり、
「?」
なぜかまったく襲ってくる気配がない。
コボルトをよく見てみると、顔は怖いが凶暴な感じはしなかった。むしろ、私にどう接すればいいのか
そういえば、コボルトが
ここで暮らしているのはこの子? どう見てもコボルトにしか見えないが、魔物にはない理性があるようなので、話しかけてみた。
「あの……もしかして、あなたが私を助けてくれたの?」
「! バウバウ! バーウ────ッ!」
私の問いかけにコボルトは何度も頭を縦に
「ふふっ。ありがとう!」
「バフゥッ!?」
笑いかけるとコボルトは
尻尾もピタリと止まっていたが、すぐに動き出し「バオオオオン!」と遠吠えをした。
「え? な、何?」
「バウ! バウバウバウ!」
なんだかテンションが高い。尻尾の揺れも激しさを増した。可愛いなと眺めていると、コボルトが私の背後に視線を向けた。つられてそちらに目を向けると──。
「ギギギッ」
「え……? こ、今度はゴブリン!?」
私の背後には、小さな子どもくらいの背丈のゴブリンが立っていた。赤黒い
「バウバウ! バウバウバウバウ! バーウ!」
「ギ。ギギッギギギギィ、ギィギギィ」
魔物同士で会話をしている? とても不思議な光景だ。
「バオーン! バウッ、バウバウバウウウバウッ」
「ギ? ギギッ……ギギッ……」
話が止まると、ゴブリンは心細そうな目を私に向けた。このゴブリンも襲ってくるような気配は全くないが、魔物とどうコミュニケーションを取ればいいのだろう。
戸惑っていると、ゴブリンは私に向かってとても
サリスウィードの古い礼の仕方だと聞いたことがある。魔物なのにとても
思わず私もすぐに頭を下げ、感謝を伝えた。
「あの、急にこちらにお
「!」
ゴブリンが目を見開いて驚いている。そんなに驚かせるようなことを言っただろうか? と首を
ゴブリンの
「…………ギッ」
「バウ、バーウッ!」
ゴブリンの背中を、コボルトがバシバシと
「あ、そうだ!」
二
「あの、あなた達に服をプレゼントしてもいい?」
コボルトもゴブリンも、体に布を巻いているのを見ると、服に興味があるのだろう。
「バウ!?」
「ギッ!?」
二匹は驚いた様子を見せたが、
「いいのね? じゃあ、
私は『ポケット』という、なんでも無限に収納できる
聖女が使える聖魔法とは、
元の世界に帰る、という魔法は作ることができなかったので、何でもできるというわけではないが、生活を便利にするための魔法は大体作ることができた。
ポケットには旅に必要だったものや、気になって買ったものなど、手当たり
ゴブリンは子ども服、コボルトは古代ローマ人が着ていたような、体に巻き付ける感じの服だと着やすいだろうか。とにかく、いっぱい出して選んで
私はポケットからいくつか服を取り出し、二匹の前に並べた。
「バウ!?」
「ギギギッ」
何もないところから
「どれがいいか選んで?」
「「…………」」
「うん? どうしたの?」
アイコンタクトでもとっているのだろうか。私の声は耳に入っていない様子だ。
「バウバウバウ!!」
「ギギ? ギギギ、ギギギ?」
「え? な、何!?」
しばらく様子を見ていたら、二
「えっと……『あなたは、おいのりができますか?』かな?」
「バーウ!」
「ギーギ!」
思いきり首を横に振られてしまった。不正解のようだが、さっぱり分からない。
「……あれ?」
何を言っているのか解読するため、二匹をジーッと見ていたら気がついた。
「あなた達……
「「!」」
コボルトとゴブリンが、目を見開いた。
「悪いもののようだから、
「「!!!!」」
今度は二匹の頭の上に、たくさんのビックリマークが見えた気がした。でも、驚いたというより「ですよね!」という感じだ。
もしかして、さっきは私に「あなたは聖女?」と
この聖域に入ることができるのは聖女だけだと知っている? そもそも、
「バ、バーウ……?」
「本当に解呪できるの? って、聞いているのかな? 大丈夫よ、任せて! 呪いを解いてみせるから、ちょっと体を見せてくれる? 動かないでね」
私がそう言うと、二匹がビシッと直立した。
「ふふっ、そんなに
「これは……かなり
コボルトの体の中は、真っ黒な
「バウ」
「ギ」
二匹は「平気だ」と言っているように見えるが、つらい思いをしてきたはずだ。
「どうしてこれほどの呪いを受けることになったの?」
「バウッ!」
「ギィ!」
「……うん。聞いておいて申し訳ない。全然分からないよ!」
複雑な事情がありそうだが、なんだか
この二匹にとって、呪いは
「とにかく、解呪を試みてみるわね。うーん、全体的に
まだ解呪しやすいと感じたコボルトの正面に立ち、両手を出した。
「呪いを解くから、私の手を
「バ、バウッ。バウ?」
コボルトが自分を指差し、ゴブリンに何か聞いている。
「呪いを解いて貰うのは自分からでいいのか?」と確認しているようだ。
コボルトの質問に、ゴブリンは快く
「待っていてね。あなたの呪いも
「ギ、ギギッ……」
微笑みかけると、ゴブリンは照れくさそうに顔を
「バウッ」
おずおずと差し出されたコボルトの手を握る。あ、肉球だ!
プニプニしているのかと思いきや、硬いけれど、これはこれで
「バッ、バウー!」
「あ、ごめんね」
コボルトが
「始めるわね。これだけ
「バウ!」
コボルトの体が白の光に包まれていく──。
「うーん……思っていたより根深いわね……」
これほどの呪いだと、精神まで
でも、コボルトは
とはいえ、今は平気でもいつまで続くか分からない。
コボルトの体の内側を、真っ黒に染めているこの呪い──私が消してみせる!
(白く……白く……黒を白に染めるように……)
魔力を注ぎ、呪いを
言葉を封じる程度の呪いなら、すでに解けているはずだが、この呪いはまだ残っている。
魔力を注ぎ込み、どんどん浄化を進めていくが、一向に消える気配がない。
ゴブリンよりも軽いと思ったのに……こんなにつらいなんて!
でも、私は聖樹を浄化した聖女だ。必ず解いてみせる!
ダイアナの顔がフッと
「……呪いよ、消えて!」
魔力を注ぎ込むと、コボルトに張り付いていた呪いが
よし…………いける! ここからはもう気合いで乗り切る!
「消え去れっ!!」
魔力を
「……解呪、できたっ!」
ギリギリだったが、何とかなったようだ。聖樹を浄化するのと同じくらい大変だった!
「はあ……はあ……どう? なにか変わっ………………た?」
それに硬い毛で
「お、おれ……に、にんげ……ん、もどっ……」
「??」
繋いだ手の先にいるのは、茶色の
それに、目の前の人の
「人間に……人間に
「きゃああああっ!! 顔のイイ変態だああああっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます