一章 奪われた場所 奪い取った場所③
無事、王都を抜け出すことができた私は、暗い森の中を進んでいた。足が痛いけれど、気にしてはいられない。追っ手が来るまでに聖域に入らなければ……。
「この世界のためにがんばったのに、こんな目にあうなんて!」
歩きながら考えたが、私はダイアナに
ダイアナとはそれなりに仲良くしていたし、同じ役目を持つ者として友情を感じていた。
でも、それは私だけだったようだ。
「確かこの辺りのはずだわ」
私が目指している聖域は、王都や聖樹からそう
『遠い昔、
伝説にある『魔獣』は
「あ、あれは……。見つけた!」
壁というより、森の一帯を包んでいる
聖女のみ入ることができると言われているが、実際のところは分からない。思い切って「えいっ」と
どうやら結界の話は本当のようだ。追っ手が入って来られないなら安心だが、念のためなるべく聖域の奥に行き、生活できそうなところを探したい。
「…………あっ!」
しばらく進んでいると、
「うっ……。はあ……もう無理……」
痛みと
でも、地面に顔をつけたままなのは
「……アーロン様の
目を閉じると、今日の出来事が
「こんな世界、
怒りは増していくのに、意識が遠のいていく──。
「グオッ?」
…………え? 今、確実に魔物の声が聞こえた。聖域に魔物がいるなんて予想外だ。
飛び起きようとしたが、
かろうじて動かすことができたまぶたを開けると、そこには……。
「…………!?」
魔物の姿はなかったが……魔物以上に
私を囲むように立ち、見下ろしているのは白銀の
茶色の
赤色の髪に
もしかして死に神だろうか? これだけ美形だと
残念なのは……。
「バウバウバウ!」
「ギギギギッ」
「プ! プッ、ピッ!」
「ヒュルーンヒュウー」
「グルルルルッ」
イケメン達の声が、
そもそも、何を言っているか全く分からないし、魔物のような声だ。
(声までイケメンであって欲しかった──)
そんなことを考えながら、私は意識を手放した。
● ● ●
第二王子の私室──。
つい最近まで、アーロン様の
でも今、アーロン様と共に
『聖女ダイアナ』
そう呼ばれるようになった私が、この場所を勝ち取ったのだ。
「報告に上がりました」
部屋にやって来た騎士が、アーロン様の隣に座る私をチラリと見た。私の前で話していいのか
さあ、聞かせて? 私にすべてを
「コハネ・アマカワは聖域に
聖域!
今の私は『心優しく
私は身寄りがなく、教会が運営する
必死に生きてきたのだから、これからはちやほやされても許されるはず!
コハネは、元の世界でも食べ物にも困らず、教育を
「コハネは聖域に入ったか……。やはり、聖女であることは
「アーロン様……」
やはりコハネをそばに置こう、などと言われては困る。アーロン様の
「心配するな。ダイアナはコハネを
「そうなれるよう、努力いたします」
そんな私にアーロン様は満足したようで大きく
「聖域は森が広がるばかりで何もない。そのうち、別の場所に移ろうとするはずだ。聖域の周囲を
「承知しました」
アーロン様に礼をし、騎士は退出した。
「コハネ様が
アーロン様にはもっと私に入れ込んで、協力して貰わないといけない。
思い通りに動かすため、色々と話を
「恨まれるようなことをしたのか?」
扉の方から声が聞こえた。
「兄上!?」
アーロン様が声を
「あ、兄上……お身体の具合が悪いのでは!? 動いて
メレディス様は病弱で、ベッドから起き上がることもできないと聞いていた。
だから私もお目にかかったのは初めてだ。金の髪に
お姿から
「…………」
「…………っ!」
この方に取り入るのは不可能だ、と直感で
「やあ。アーロン。この通り、私は元気だよ」
「そ、そうですか……」
「おや? 喜んでくれないのかい? 私が元気だと困ることでもあるのかな?」
「い、いえ、そのようなことは……」
……私は困る。現国王は聖樹の
今はメレディス様が王太子だけれど、病弱で王にはなれないだろうと聞いていた。
だから、浄化の旅を成功させたアーロン様の
「兄上はどのようなご用件でこちらにお越しになったのですか?」
「用があるのは私ではないのだよ。
「セイン?」
アーロン様の視線を受けたセインが私を見た。
「あの……私に何か?」
「コハネは本当に
「それは……セイン様は私を疑っているということですか?」
目に
「俺は自分の目で見たことしか信じないんだ」
セインには効かないようだ。メレディス様にも効いている様子がない。どうして?
「コハネの聖
「え?」
セインの言葉に、私は驚いた。そんな
「生活をするための魔法は使えたが、火や水を少し出していたぐらいではないか。ユニークな魔法なんて、使っているところを見たことないぞ!」
アーロン様が声を上げる。
「
「そ、それは……」
私の味方をしようとしてくれたアーロン様だったが、コハネの聖魔法について思い当たることがあったようだ。
「ダイアナ、君は浄化しかできないのか? 浄化をしても全く
メレディス様も興味深そうに私を見つめている。まずい、なんとか言い
「ダイアナもいずれ使えるようになる。まだ聖女として目覚めたばかりではないか」
アーロン様が私を
「きっとそうです!」
この場を切り抜けさえすれば、誰かの力をまた複製すればいい。私には『能力複製』の固有魔法があるのだから。
魔法は大きく分けて三つ。学べば使うことができるようになる『
聖魔法は浄化だけではない。聖女が使う魔法は、たとえ火を
そう思っていたところに、部屋の扉をノックする音が
メレディス様とセインは退出する様子を見せないので、四人で報告を聞く。
「アーロン様。リノ村が魔物に
「リノ村だと!?」
アーロン様が声を荒らげ、私も思わず目を見開く。リノ村は私が初めて浄化した場所だ。
「ダイアナ、君が浄化した小さな聖樹の近くだ」
「浄化してすぐなのに、魔物が出るなんておかしいね」
セインとメレディス様の言葉に
『能力複製』は、欲しい能力のことを考えながら
あの女が聖女として旅を始めてすぐのころに、
「では、私達は失礼するよ。これから
私が混乱している間にセインとメレディス様は退出していった。
「ダイアナ……どうなっているのだ?」
「私にも分かりません。…………あ」
どう切り抜けるか考えていた私は、最良の答えを思いついた。
「もしかしたら、コハネ様が何か企んでいるのかも……」
「……なるほど。コハネの能力があれば、ダイアナがした浄化の
「アーロン様! 私、
「大丈夫だ、ダイアナ。オレが必ず君を守る」
単純なアーロン様のことはだまし続けることができそうだけれど、メレディス様とセインにも、これ以上疑われないようになんとかしなければいけない。
聖女ではない私は聖域に入ることができない。だから、なんとかコハネを聖域からおびき出して、再び能力を複製しよう。
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