一章 奪われた場所 奪い取った場所①
前方に
「コハネ、よろしく
アーロン様の
「黒の聖女様……どうか聖樹を……我らをお救いください!」
少し
本来、瘴気を中和する聖樹の近くは安全だ。だから、村はずっと平和だったが、この数年は魔物が現れるようになっていた。
最近では魔物の出現が日常化していたため、怯える日々が続いていたという。
村人達の表情は暗く、
「では、聖樹の浄化を始めます」
私の声が静かに広がった。だが、その直後──。
「魔物だ! 魔物の群れが接近中!」
騎士の声に
リーダーらしき大型の魔物を先頭に、三十
村人達は悲鳴を上げて
何事かと足を止める村人達に、黒衣の男が呼びかけた。
「結界を張った。魔物の
その言葉を聞いて動かなくなった村人達を見ると、男は満足げに頷いて私を見た。
「俺は騎士達と魔物を始末してくる。お前もボーッとしていないで、気にせず進めろ」
……誰に対しても、もう少し
「コハネ、あちらはセインに任せよう。オレはここにいる。安心してくれ」
アーロン様の頼もしい言葉に頷き、私は浄化を始めることにした。
意識を集中し、祈りを
聖女のみが使える聖魔法の浄化を発動すると、聖樹を温かな白い光が包んだ。
幹にも力強さが戻り、聖樹自身が放つ神聖な光も戻って来た。
「おお……」
見守っている村人達が
完全に浄化を終えるまで、それほど時間はかからなかった。
「……浄化が終わりました。もう魔物が村を
私の言葉を聞き、村人達が駆け寄って来た。
「聖女様、ありがとうございます! これで安心して暮らせます……!」
村人達は、みんな
「浄化も問題なく終わったようだな」
魔物の
「今日は転ばずに済んだようでなによりだ」
「もう転びません!」
ニヤリと笑うセインにムッとする。初めて浄化をした時、
セインは、サリスウィードでトップクラスの魔法使いで、浄化の旅を共にする仲間だ。
細身の長身で、長い
「魔法を
私が真顔で黒い背中を見送っていると、騎士達と話をしていたアーロン様が戻って来た。
「コハネ、お
アーロン様の笑顔を見て、今日の儀式も無事終わったと実感してホッとした。
出会った当初は、こんなに安心感を
私は日本で暮らすどこにでもいる
私を召喚したこの国では、『瘴気』という魔物を生み出す負のエネルギーを、『聖樹』と呼ばれる聖木が中和することで平和を保ってきた。
だが、長い月日の中で処理しきれなかった瘴気が聖樹に溜まり、中和機能が低下。
その結果、魔物が村や町にも出現するようになり、人々の暮らしが
聖樹の中にある瘴気を消す『浄化』ができるのは『聖女』だけ。だから、聖女召喚が行われたということだった。
私の両親は、もう十年ほど前に
でも、会いたい友達や
アーロン様やサリスウィードの
そんな私を支えてくれたのがアーロン様だった。
当時の私にとって、アーロン様は
そして、
『どう
そう思うようになり、聖女として使命を果たしていく決意をしたのだ。
ここは日本と
その後、アーロン様の方から婚約を申し込まれたときは
そして、婚約を済ませ、サリスウィードにある七つの聖樹を浄化するための旅に出た。
今は五つ目の聖樹の浄化が終わったところで、残すはあと二つとなった。
「あとはオレに任せて、コハネはゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます。でも、もう少し村の人達の話を聞いてから休もうと思います」
旅を始めた当初の私は、浄化後は心身共に
でも、今は私も様々なことで、人々の力になることができている。今日も疲れているけれど、少しでもみんなの期待に
これまでアーロン様やセインにずっと頼っていたからこそ、二人にもいい加減安心して
「そうか。……村人もオレより、聖女に話を聞いて貰った方が安心するだろう」
「アーロン様?」
「……いや。無理をするなよ。オレは
少し元気がない様子のアーロン様が気になったが、再び私は村人達に囲まれた。
彼らの話を聞き、体の不調を
そして、次の聖樹へ向かうため、移動を開始した数日後──。
「私に聖女が務まるでしょうか」
今まで私とアーロン様だけだった馬車に、新しく聖女と
ダイアナは
そして、異世界人の私とは違い、この世界の人間だ。史実に
国でも浄化の力だと確認が取れたので、私達の旅に加わることになったのだが、サリスウィードの
「国に力を認められているのだ。胸を張れ。何かあればオレを頼るといい」
私が塞ぎ込んでいた時のように、アーロン様がダイアナを
私はまだ体調が
そして目覚めた時には、次の目的地であるリノ村に着いていた。
「コハネ、ここの聖樹の浄化は、ダイアナに任せようと思う。最終となる王都での浄化に向けて、君はゆっくり休んでいてくれ」
この地の聖樹も浄化するつもりだった私は、アーロン様の言葉に
「分かりました。お言葉に甘えて私は休ませて貰いますね」
そう言って二人と別れたのだが……。
「
「君は儀式に集中してくれ。
「
「もちろんだ。
寄り
あとから思えば、この時にもっと深く考えるべきだったのかもしれない。
それからダイアナの浄化は問題なく終わり、私も体を休めることができた。リノ村を出発し、道中に魔物に襲われた人々の手当などをしながら王都に無事
王都の聖樹を浄化する最終浄化の儀式は、聖女がすべての聖樹の浄化を終え、国に平和を取り
この儀式を終えることで、初めて本当の意味で聖女として認められる。
最後の聖樹は王都の外れにあるのだが、儀式は王都の広場で行われる。国民達に見せることで安心感を
一度広場を下見してきたが、最終浄化を見るために、王都外からも人が
でも、浄化をやりとげれば、やっとこの三年の努力が
そして万全の状態で
「ふふっ。……安心して、『すべて』私におまかせくださいね」
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