序章 舞台に立つ者こそ真なる聖女

 聖女による聖樹のじようを見ようと、王都の広場にはたくさんの人が押し寄せていた。

 私は達に連行され、関係者のために確保されているルートを進んでいる。本来はていちように守られながらこの道を歩いていたはずなのに、どうしてこうなったのだろう。

 広場中央に造られた舞台の上には、きんぱつむらさきひとみの男性がいた。体格が良く、身なりも良い彼はこの国の第二王子、アーロン様だ。

 そして、そのとなり──本来私がいるはずの場所にははかなげで美しい女性、ダイアナがいた。

 ダイアナは聖樹をえると、いのるように両手を組んだ。

(待って! それは私の役目よ!)

 この王都での浄化を成功させると、七つある聖樹の浄化がすべて終わる。それをもって正式に聖女と認められることになる。

 三年にわたる旅をして、聖樹の浄化を行ってきたのは私だ。私は五つの聖樹を浄化した。

 一方、ダイアナが浄化の旅に加わったのは半年前──。一度だけ一番小さな聖樹の浄化をしたにすぎない。

 最も大きい王都の聖樹を任せるのは不安だし、ここは私のために用意された舞台だったはずだ。私はけ出したが……間に合わない!

 それでも必死に舞台に近づこうとする私を騎士達が止めた。

「コハネ様、聖女様の浄化が始まっています! じやをしてはいけません!」

「私が聖女よ! この王都での最終浄化は、本来私の役目よ!」

「何をいまさら……。ダイアナ様に押し付けておいて、ずかしいとは思わないのですか!」

「…………? ダイアナに押し付けた?」

 騎士の反論を聞いて混乱した。その間にも浄化は進み、白い光が聖樹を包み始めた。

 民衆からは「わあ!」とかんせいが上がる。

「聖樹が白く光っている! れい……せきだ……」

 見守っている人々がげんそう的な光景にせられている。

 私もその光景を見ていた。でも……。

「…………?」

 だれも気が付いていないが、ダイアナの浄化にはかんがある。浄化はできているが、私の浄化とはどこかちがう……。

「王都のみなさま、ご安心ください! 無事、聖樹は浄化されました!」

 声を拡散するほうのアイテムにより、ダイアナの声が広場にひびいた。違和感の正体が分からないまま、ダイアナの浄化は終わってしまった。

 はくしゆと共に割れるような大歓声がき上がる中、続けてアーロン様の宣言が広がった。

「聖女ダイアナによって、七つある聖樹のすべてが浄化された! 魔物のしゆうげきおびえる日々は終わったのだ! サリスウィードは平和を取りもどした!」

 浄化のすべてがダイアナの功績であるような言葉を聞いて、私はがくぜんとした。

 アーロン様は私のこんやく者だ。三年に亘った浄化の旅を共にし、誰よりも私を支えてくれた人だ。一番近くで私の努力を見て来た人だ。それなのに……!

 たった半年前に仲間になったダイアナの方を本物の聖女だと認めるの? 問いかけるようにアーロン様を見つめていると目が合った。か冷たい目で私を見ている。

「……どうしてそんな目で私を見るの?」

 まどっているうちに、目をそらされてしまった。

「あなたは聖女失格です」

 そばにいる騎士が、私に向けてつぶやいた。その声に反応して周囲を見ると、私を囲む騎士達はみんなアーロン様のように冷たい目で私を見ていた。

 私は何も悪いことをしていない。どうしてこんな目にっているのか分からない。

「……いったい何が起こっているの?」

 ダイアナをたたえる歓声の中、私はぼうぜんと立ちくすしかなかった。

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