2 山之内貝は、己の境遇を呪った。
フリーターの山之内 貝は、此れ迄様々なアルバイトをしてきた。
例えばコンビニ例えば家電販売店、例えば、飲食店、例えば、塾講師、例えば、映画館の受付、その数とバリエーションは豊富だが、彼は其の孰れもが無意味な労働で、アルバイトの様な単調で量産型の人工知能でも出来るようなこんな事で、御金を稼がなくては何も買えない自分も、その貧困状態にも嫌気が差していた。
無能な上司に、使えない部下、店舗の店長は大抵下品で汚らしいし、経営方針もクソだ。
さっさと目標の金額が貯まったらこんなフリーターの出来損ない生活からおさらばだ。
不愉快な職場だ。
パワーハラスメントの温床だ。
バイト何て社会的弱者のすることだ無駄な徒労なんだ。
骨折り損なんだ。
其れなのに、こんな低賃金を充てにして、いないと資金不足で何も出来ないこの状態は、不幸以外の何物でもないだろう。
兎に角、意味の解らん仕事のアルバイトはするなという事だ。
御金が或る人間はバイト何てするな、勉強して名門大学に進学して、就職するか、起業して、社長にでもなるのがいい、時間は有限だし、給与も少なく、人使いの荒いアルバイトは極力避けるべきだ、親がいて金があるのならば、親に金を貰えばいい、親は働いていて、社員でそれ相応の収入を得て経済力もあるのだから、学生や浪人生は親に金を貰っても悪くないし罰は当たらない、寧ろ自分の子供に資金の援助も出来ない親の方がおかしいし、そんなやつは親失格だ。
家電売り場には大したものは於いていない、潰れてしまえばいいのに、こんな店。
このように、御金の重要性と、労働の無価値性が分かった処で、実にこの現実の、現実世界の、ゴミ糞さが分かるぞといった処だ。
求人募集で求人をよく掲載している企業や店舗は基本的にブラックである。ブラック企業、何て死にたくなる仕事なんだろうか、どうして働かなくてはならないのか。
僕には家族もありません。
僕にはお金がありません、わかりますか?収入がありません。
何も買えません出来ません。
分かりますか?。
詰んでいるんです。
僕は詰みです。
不採用の嵐です。
詰みなんですよ。
僕は詰んでいるんです。
どの企業も僕を必要としません、親も僕を捨てました、捨て猫、捨て犬、捨て人間デス。全くに遺憾ですが、其れが現実にあった話なのですから。
詰めが甘いのだ。
考えが及んでいない、大雑把で、稚拙で子供じみていて、其れはもう経営者失格である。そんな人間が一大企業の社長だなんて、僕は、そんな奴の会社の或る売れていない店舗の立地条件の悪い店舗の、不揃いな社員とアルバイト達と仕事を共にしているのが苦痛でしかなかった。
苦しい。
こんな、仕事辞めたい。
僕は、我慢した。
目標の金額が溜まるまでは僕は、何も出来ない。
そう、不便な儘だ。
我慢して稼いで、稼いで、さっさと半年後にはもう違う、別の事を自分が主体の事をしているんだ。此れは、仕方なくやっているだけだ、知り合いにあって笑われようとも、どう思われようが、我慢すれば金は手に入る、その金を使って僕は事業を始めるんだ。
半年なんだ。
地獄は半年で終わる。
終わらせる
山之内 貝は呪った。
自分の境遇を呪った。己の貧乏を呪った。
呪って、殺した。その黒い貝の魂は化け物で或る 呪ヶ禰津 踏禍というもう一つの人格を作り出した。踏禍は、無意識下の内に貝と入れ替わり、襲撃事件を目論んでいた。
この社会の変革と破滅を企んでいた。
その翌日彼の職場は爆発し跡形もなく消え去った、彼が地獄送りの旅に出かけさせたのだろう。従業員も店長も副店長も消し炭となり、消えてしまったようだ。
「僕に逆らった奴が悪いんだ。苛めてやる、苦しめてやる、僕を苦しめる人間は抹殺してやるんだ。」
彼に関わった人間は、この呪ヶ禰津 踏禍により悉く執拗に後姿無くなるまで完全にけされた。
彼のもう一人の人格は貯めこんでいる悪の感情を体現した魔物のような存在で、ストレスの捌け口を徹底的に殺し、殺し、殺し、痛めつけた。
僕に甥っ子や姪っ子が出来た時は驚いたし、なんだかその子たちが、とても愛らしく思われたのを覚えている。
妹と或る男性との間の子の女の子も男の子も、そのいずれも、可愛く、思わず抱っこをしてしまったものだ。其れは不思議な感覚でもあった。
「ねえねえ。お兄さんは、子供を作らないの。もう結婚の時期よ。」
と妹はそんな事は決して言わなかった。
言われそうな気もするが、妹が僕に逆らった事も反抗した事も一度だって無いのである。お兄ちゃんをまるで信用しているようで、僕はそんな健気な妹を見ていると死にたくなったものだ。
「僕は御前を尊敬するよ、親も孫が見れて喜んでいるだろうさ、僕は知らないけどさ、子供を作って結婚することだけが人生ではないし、偉い事でもないのさ、確かに親が喜ぶのはそういったことだろうがね。」
と皮肉と嫌味を含んだ物言いをしますと、僕は周囲の人間から煙たがられるのでありました。
「残念なお兄ちゃんでね。とっても頭がいいのよ。だから合理的で連れないの。」
と不満そうに、僕の方を見て、深く沈み込んだ様子で、甥っ子と、姪っ子を連れて、彼女の嫁ぎ先の男の家へ出て行ってしまいました。
どんな男かは知らないが、彼が僕の最愛の妹、キャサリン・カロリーナの花婿であった、彼女の夫のベンジャミン・ボトルムントなのです。
彼はエリートの出で有名な一大財閥の子息にして優秀な成績で数々の経営の資格を持ち、さらに多くの事業を成功させてきた実績もあるまさに財界のプリンスのような方とご結婚なさっていた、阿保で戯けの父親とは打って変わった、まさに良夫で、ゴミのようなかつての家庭の父親の憎き姿が消えて、葬式にさえ出るのも面倒になったくらいだ。
実の父親と言っても、あまりに小物で、ゴミのような人だったので、あの居ても居なくてもいいゴミには死んでもらって清々としたものである。曾祖母も曽祖父も、もはやボケが進行しておりいつ死んでもおかしくはない状況であった、其れでも、曾孫をみると、大層その曾孫を可愛がって、頭を撫でてやったり、なにか、プレゼントをしたり、とにかく、曾孫によくしようと、努めているようにおもわれた。
それでも、きっとこの子供たちは、忘れてしまうのだろう。
ひいお婆さんの事もひいお爺さんの事も。
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