第26話 ペア誕生

 黒川は、悩んでいた。


 (純情さんの洞察力には、確かに惹かれる物がある…。


  先程解決してくれた事件。

  電話で話す女性一人の会話から、双方の内容を推測し、更に犯人の居場所を見事に特定していた…。


  しかし…)



 「純情さん、すみません。


  部外者の方にお話する事は、禁止されていますし、第一今はまだ勤務時間中です。そもそもで捜査の話は、とても短時間でお話出来るような内容ではありませんので。」

 黒川が迷いながらも、すぐに決断する事が出来ずに、そう答えた。




 「そうですね、そろそろ私達は仕事に戻らなければなりません。」

 業務課長も答えた。



 「黒川さんの仰る通りでしたね。

  確かにTPOもわきまえず、大変失礼なお伺いを致しました。


  すみませんでした。」

 姫子がペコリと頭を下げて、言った。



 「いえ、そんな…。


  自分の事を心配して頂き、ありがとうございました。


  純情さんのお優しい心遣い、とても感謝しております。」

 黒川が心からの礼を伝えた。




  姫子が帰宅し、二人は業務へと戻って行った。





  翌日、姫子が再び来店した。



  姫子は、黒川の前を軽く一礼して通り過ぎ、ソファに座り窓口の順番を待っていた。



  黒川は、その姿を見ていた。



 (純情さん、今日の銀行での用事を済ませてしまったら、こんな風に会うような機会も無いだろう…。



  一般人の中にも捜査協力をお願いしている人は、いる。



  そのような人として、自分は彼女に正式に依頼をしてもいいのだろうか…。)




  黒川の視線に気が付いたのだろうか?


  姫子が黒川の方を振り向いた。


  二人の視線が合った。


  姫子は、黒川に柔らかな笑顔で会釈をした。




  その表情を見た瞬間、黒川の心は決まった。


  黒川は、姫子の方へ歩いて行くと、


 「純情さん、昨日のお話をまだお願いする事は出来ますでしょうか?


  もし話を聞いて頂けるのなら、後でお時間を頂きたいのですか?」

 黒川は、姫子に声を掛けた。



 「はい、大丈夫です。


  今日きっと、そう言って頂けると思っていました。」

 姫子は答えた。


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