第24話 黒川の熱い心

 「あっ、すみません、黒川さん…。」

 姫子の問いに、業務課長が申し訳なさそうな顔をしながら黒川に言った。



 「いえ、大丈夫です。

  私の方こそ、世間をお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした。



  純情さん、私の捜査方法の悪さが先日放送されたのですよ。」

 黒川が答えた。



 「しかし、あんな報道をされるような方では無かった。


  今日お会いして、私はそう思いました。」

 業務課長は強く言った。



 「どうもありがとうございます。


  私の捜査には、確かに非がありました。

  ですが、それは事件の為に、必要だと信じていたのです…。



  でもきっと、今更何を言っても手遅れですよ。



  一方的に画面から伝える、断言して述べる説得力ある話術。

  そして実際の影響力。



  私は、『報道の力』という恐ろしさを、初めて実感しました。




  あれよあれよという間に決まりましたよ。


  捜査に関わらないよう銀行に行くように言われ、そして捜査一課からも、そのうち正式に外されるそうです…。





  いやぁ、本当に驚きましたよ。」

 明るく話す様にしていたが、黒川は本当に悔しそうに言っていた。




 「黒川さん、その捜査のミスが悔しいのですか?」

 姫子がたずねた。


 「いいえ。


  自分が失敗する事は、悔しくありません。

  そんな事、日常茶飯事ですから。



  もっと大切な事があったんですよ。



  自分は、悪い事をしている人物の特定に失敗して、その所為せいで恐らく事件として立証する事を、難しくしてしまったんです。




  『悪い奴を捕まえて、事件を解決したい。


   そして叶うなら、事件になる前に未然に防ぎたい。』



  自分が刑事になりたかった理由ですよ。




  自分は、それが出来る部署で、毎日がむしゃらに働いていました…。


  それがどうです。あの件に関わる事すら、難しい状況になってしまった…。」

 黒川が答えた。




 「黒川さん、素敵です。」

 姫子がにこやかに答えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る