第23話 『後でお話します』とは…
男性は警察署に連行され、女性は自宅へと帰って行った。
そしてこれらの騒動が終わった時には、窓口業務が終了する午後三時を過ぎていた。
「純情さん、窓口業務が終了した時刻になっていますが、ご用件はお済みでしたか?」
業務課長が心配しながら声を掛けた。
「ご心配、どうもありがとうございます。
急ぎの用事ではありませんでしたので、また改めて参ります。」
姫子が笑顔で答えた。
黒川には、彼女に聞きたい事があった。
だが、初対面の美しい女性に、自分から気軽に話し掛けられるような性格ではなかった。
ジレンマに陥っていた彼は、思わず右手で頭をガシガシと掻いていた。
その様子を見ていた姫子が、
「そうそう、黒川さん。
先程『後でお話します』と申し上げた事、まだ幾つかお話していませんでしたね。
今から話しても宜しいでしょうか?」
そう言いながら、姫子は数歩黒川の方に近づいてきた。
「ええ、ありがとうございます。
自分も伺いたいと思っていた所なんです。」
黒川がすぐに答えた。
「黒川さんがお巡りさんだと気が付いたのは、あなたが男性に声を掛けに行くと私に話して、業務課長に指示を出していた時です。
次に会議室に皆さんが集まる事は、単純に、業務課長さんと先程の女性が一緒に奥の方へ移動されたのを見たから分かったのです。
そして、私が会議室に同行したのは、黒川さんに事件の詳細を話す時間が無かったからです。
すみませんでした。
取引を止めて頂くお願いだけの予定でしたので、ちゃんと説明を致しませんでした。
最初は、黒川さんが熱心に声掛けをしている姿を見ていたので、お願いすればきっと女性の取引を止めて下さる銀行員さんだと思っていたんです。
ですが、私の話を聞いた直後には、黒川さんはもう警察の顔になっていました。
周囲の状況を確認して、業務課長の所に向かうと、指示を出していました。
その姿は、今まで銀行業務をしていた時の上司と部下というお二人の関係ではありませんでした。
私が黒川さんの本当の職業に最初から気が付いていれば、違う対応が出来ましたのに…。
すみませんでした。」
姫子はペコリと頭を下げていた。
「それは、純情さんの責任ではないですね。
黒川さんの仕事ぶりは本当に真面目な銀行員の研修中の姿に見えましたから。」
業務課長が笑顔で話しに加わって来た。
「私も、こんなに熱心な方だとは思っていませんでした。
女子行員が先日の報道の事を私に教えてくれたのですが、それで少し間違った先入観を持ってしまっていたようです。
黒川さん、すみませんでした。」
今度は、業務課長が謝ってきた。
「な、な、なんですか二人とも。
止めて下さい。
そんなどちらも謝らないで下さい。」
黒川は、両手をバタバタと振りながら慌てて言った。
「すみません、その『先日の報道』というのは?」
姫子が不思議そうな顔をしながら、業務課長にたずねた。
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