第21話 黒川の決断
黒川は、すばやく周囲の状況を確認した。
窓口は午前中と異なり、この時間はかなり落ち着いた状況となっていた。
呼び出し番号の確認は出来ていないが、恐らく女性が呼ばれるまでの時間は、そう長くはかからないだろう…。
そして業務課長は、既に説明を終えて、自分の定位置へと戻っていた。
黒川は、決断した。
「分かりました、急ぎましょう。
ただし私は外に行き、あの男性に声を掛けてきます。
あちらの窓口の順番を待つ女性には、今からウチの別なスタッフに声を掛けてもらうように手配をします。
このように変更してもよろしいですか?」
黒川は、先程の要望との変更点を、手短に確認していた。
その時一瞬驚いた顔をした彼女は、次にフッと微笑んだ。
「ええ、大丈夫です。よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。それでは、一旦失礼します。」
黒川はそう答えると同時に、業務課長の方へ静かに歩いて行った。
「すみません、ちょっとお話を聞かせて下さい。」
黒川は、外にいる男性が銀行の中の様子を伺っているその背後から、声を掛けた。
男性は、黒川の方を振り返った。
彼の視線は、黒川に手を置かれた肩を見た後、黒川の顔の方へと動いていった。
そして彼は、黒川の顔の近くにかざされていた『警察手帳』を見て、思わずギョッとしていた。
次の瞬間、男性は逃げ出そうとしたのだが、黒川が肩を持つ手にグッと力を入れたので、その場から動くことが出来なかった。
「おや、もしかしてどちらかに行かれる所ですか?
それなら、あなたがずっと見つめていた銀行の会議室まで、今から私と一緒に行きませんか。」
男性の肩を持つ手に力を入れたまま、黒川は笑顔で男を誘った。
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