第19話 新たなる黒川

 (おいおい、まだ言う事があるのか…。

  はぁ、参った…。

  今日は長い一日になりそうだ…。)



  まだ銀行の営業時刻前だと言うのに、既に黒川は疲れ始めていた。





 「お客様の様子を常に観察していただくのが、黒川さんの業務になります。


  特にATMを利用して振込をされるご老人のお客様が来行らいこうされましたら、振込詐欺にご注意いただくよう、お声掛けをお願い致します。



  それから、お客様からご質問がございましたら、横におります私が、全てお答え致します。


  もしも私が他のお客様と接客中だった場合には、お客様にはお待ち頂くようお願いして下さい。




  銀行業務に関する回答に間違いがあってはいけませんので、ご協力よろしくお願い致します。」

  支店の窓口業務を担当する業務課長から黒川に対して、営業開始前の指示が出ている所だった。






  そもそもで黒川は、銀行に到着してすぐに、この業務課長から服装の問題点を指摘されていた。


  「銀行員の服装は、アイロンで折り目のきちんと付いた白ワイシャツに、三つ揃えが基本の服装です。


   ネクタイはきっちり上まで締めていただき、スーツもシワがあってはいけません。




   幸い黒川さんは、私と体形が似ているようです。

   今日は、私の予備のスーツが一揃えロッカーにありますので、それを着て営業場に出ていただきます。


   明日以降は、今言った注意を守った服装で出勤して下さい。」





  (立っている姿勢・話し方・間違いがあってはならない業務、後は何に注意しながら立っているんだったかな…。)



   この一時間で教えてもらった注意事項の多さに、困惑を隠せない黒川だった。





   そして黒川と業務課長は、銀行の営業開始のシャッターが開く前に、入り口で姿勢を正して立っていた。


  「黒川さん、シャッターが上がったら、来店されるお客様に笑顔で『おはようございます。ご来店ありがとうございます。』って一緒に挨拶しましょう。」

  隣で業務課長が小声で教えてくれた。




  こうして黒川銀行員の一日が、始まったのである。



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