第18話 黒川と青野 2

 「黒川さん、たった一人で上役全員を相手に、納得できる釈明をするなんて、そんな事無理に決まっているじゃないですか。


 そんな理不尽で一方的な会議が開かれたなんて…。」

 青野は、言いかけながら最後は言葉を失っていた。



 「そう言うな、青野。


  ありがとうな、どんな時でもお前は俺の味方になってくれて。




  理不尽か…。


  確かに言われてみるとそんな状況だったのかもしれないな。



  でもな青野、今になってみると、俺はあの時上役連中が言う通り、冷静さを失っていたんだと思う。


  だからあんな記者の挑発にまんまと乗って、警察手帳を出してしまったんだと思う。


  あんな報道関係者が病院内にいたという状況が分かった時点で、もっと冷静に対処しなければいけなかったんだと思う…。」




 「青野さん、渋いっす。


  今一瞬、惚れちゃうかと思いました。」

  青野が、黒川の言葉に感動しながら、ちょっとふざけていた。


 「おぅ!

  俺は昔から、男連中やおばさま連中にはよく惚れられるんだよ。


  なぜか俺様の魅力は、若い女性には伝わらないんだよ…。」

  黒川も調子よく返事を返した。





 「若い女性…。


  それも飛び切りの美人から、俺の仕事を称賛された記憶は、初対面の時の姫子さんだけかもしれないな。」



 「さすが姫子さん。

  見る目がありますよ。


  …って、姫子さんと初めて会ったのは、さっきこの事件だって話していたから、僕が中学三年の時ですよね。



  じゃあ今から十年前なら姫子さんって五十歳位じゃないんですか?


  それで若いって黒川さん言います?」

  生真面目きまじめな青野が思わず聞き返してしまう黒川の発言だった。



 「五十歳。


  そうか…、そう言われれば確かにあの時の姫子さんは、そんな年齢だったんだな。






  いやぁ、とてもそんな風には思えなかったな。


  やっぱり姫子さんは、知識だけじゃなく、見た目も浮世ばなれした女性ひとなんだな。」

  黒川が当時の姫子の事を思い出しているのか、遠くを見るような顔をしながら言った。





 「黒川さん、黒川さぁん。


  今、遠くに行ってますよぉ。


 

  早く戻って来て、続きを聞かせて下さい。」

  青野が黒川に話の再開を促した。



 「おぉ青野、すまん、すまん。

  懐かしい話をすると、つい物思いにもふけりやすいな。」


  黒川が再び青野に向かって話を始めた。


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