第15話 女子高生の正体は…

 (今特別室に入って行ったのは、誰なんだ?)



 数分間迷った末に、黒川は特別室の扉をノックして、中に入って行った。


 部屋の中では、女子高生が驚きの表情で黒川の事を見つめていた。




 「失礼致します。


  驚かせてしまってすみません。

  警視庁捜査一課の黒川と申します。」



 「えっ、刑事さん?


  桜井家の方かと思いました。」

  女子高生は、少しホッとした表情を浮かべた。



 「という事は、桜井会長のお見舞いに来たのに、あなたは桜井の家の方では無いのでしょうか?」

  黒川が聞いた。



 「はい。


  私の名は、四葉よつは さくらと言います。



  両親が結婚して母の姓になった時から、桜井家とは疎遠になっていたそうです。

  ですから私は、父方の親戚とは会った事が一度もないんですよ。



  だから刑事さんが入って来た時、もしかしてお見舞いが鉢合わせをしてしまったのかと緊張してしまいました。」 




 「それは、すみませんでした。


  ということは、あなたは光さんの娘さんですね。」

  黒川が聞いた。



 「はい、そうです。父をご存じなのですね。」

  桜さんは、嬉しそうに笑顔で答えた。


 「ええ。でもすみません。


  そうは言っても、今度の土曜日に会う約束をしているのですが、まだお会いした事は一度も無いのです。


  先日、清子さんに仲介をしてもらって、今度お父さんと話をする約束をしたんですよ。」

  黒川が説明した。




 「父が週末に人と会う話は、母から聞いています。


  でも刑事さんと会う約束だったなんて、父に何かあったのですか?」

  桜さんは、少し心配そうな顔をしながら黒川に聞いてきた。




 「そんな心配をするような事ではありません。


  お爺さんの桜井会長についての話とかを光さんに教えてもらいたくて、時間を作ってもらったんです。」





 「お爺さんの話ですか?




  あっ!もしかしてお爺さんが父の経営しているグループホームを、お爺さんのカンパニーに入らないかって誘っているって話の事ですか?」




 「えっ、そんな話があるのですか?


  それは知りませんでした。」

  黒川が驚きながら答えた。




 「あらっ、ごめんなさい。

  もしかしたら全然違う話だったかしら…。


  どうしよう、勝手に話したりして…。




  私も最近母から聞いたばかりなんです。

  両親が結婚してからずっと疎遠になっていたお爺さんから、突然父に連絡があったって。


  もしかしたらこの話がきっかけで、ようやく桜井家の人達と親戚付き合いを始められるかもしれないって母が嬉しそうに話してくれたんです。


  だからつい、その話なのかな?って思ったんです。




  でも今度は、そのお爺さんが倒れちゃったって清子さんから連絡が来たから、驚きました。



  出来れば清子さんと一緒にお見舞いに来たかったんですが、私は普段部活が忙しくて、昼間来る清子さんとは時間を合わせられなかったんですよ。」




 「それなら、ご両親と一緒にお見舞いに来ないのですか?」

  黒川が聞いた。



 「そうですね。


  部活の合間に来なきゃいけない私と、一日のほとんどをグループホームで働いている両親とじゃ、やっぱり清子さん以上に時間が合わないんですよ。



  そもそもこの面会時間に両親は来る事って出来るのかしらね?




  でもきっと、お爺さんの意識が戻ったら、頑張って時間を作るんでしょうね。


  二人ともよく言うんですよ。


  『予定という物は、自分が頑張れば結構どうにかなる物だ』って。」




  自分達家族が忙しい話を、楽しそうに話している桜さんの様子を見ながら、


 「ご両親も桜さんも、充実した毎日を忙しく過ごしているようですね。」

  と黒川も笑顔で答えた。

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