第3話 新しい友だち、心通わせ
2時間目が終わり短い休み時間になると待ってましたといわんばかりに転校生、
まず始めにイケメン同級生の鈴木
次に男子を押しのけるように音楽好きの木村
私はというと先ほどの自己紹介が気になって遠巻きに詩芙音ちゃんを観察していた。
「
「人気で話し掛けられないから後でゆっくりはなそうかな、と思って」
「そうだよねー。
たくさんの人に囲まれながら楽しそうに話す詩芙音ちゃんの視線は相変わらず虚ろなところがあったが、ハッキリした声と豊かな笑顔は健康そうな印象を受けた。
「ねぇ栞ちゃん、さっき詩芙音ちゃんの自己紹介、途中でおかしくなかった?」
「ん?気にならなかったけど。流行に敏感な子なんだな〜って思った」
「いや、そこじゃなくてね……」
栞ちゃんは気付いていない様子だったし、私の聞き間違えかもしれないので自己紹介の違和感は忘れてしまおうと思った。
気付くとチャイムが鳴り3時間目の始まりを告げていた。
3時間目の退屈な算数の授業……
寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ、寝ちゃダメだ、寝ちゃ、ダメだ……
ふと隣の詩芙音ちゃんの席を向くと横顔には虚ろな目元に長いまつ毛が見えた。栞ちゃんを『陽』の美少女に例えると詩芙音は『陰』の雰囲気の美少女で二人は違うベクトルなんだと思った。
あっという間に給食の時間。
給食当番だった私は同じ当番で意地悪男子グループの中心人物、
「透!ボサッとしてないで給食の
「あ?云われなくても分かってんだよ、『男女』!」
「私は女なんだから『女男』だよ、バカ!」
「ああ?ワケ分かんねーよ、クソ!」
ブツブツ云ってる透の手を掴んで配膳車が到着する専用エレベータの出入口まで引っ張っていく。給食の時間は限られていて短時間で配膳と食事、片付けを行わなければ昼休みが減ってしまう!文句云うやつは力づくで引っ張っていくしかないのだ。
「くっ、分かったから離せよ、『女男』!!」
「分かったなら態度で示しなよ!」
私の手を強く振り
今日の給食は中華あんかけのかた焼きそば。透と二人で配膳車を教室まで運ぶと配膳用に横一列に並べたテーブルの上に給食の入ったあんの入った
給食を受け取るには先ず手前に積まれた皿を取り牛乳パックと空のお皿を取り前に進む。私はお皿に麺を盛り付け、透があんをかける。最後はデザートのプリンを取って席に戻る。
転校生の詩芙音ちゃんが手間取るかと思っていたけど周りの子たちに助けられて給食を受け取っていた。詩芙音ちゃんが馴染んでいるみたいで安心した。そろそろ話かけるきっかけでもあれば良いのだけど……
「あ、あのぉ〜、
「ん?詩芙音ちゃんどうしたの??」
当然、まだ名前を覚えていないので私の名札を見て話しかける詩芙音ちゃん。
「わ、私その……
少食だから麺を少なめにして欲しいかな……」
「うん、分かったよ!詩芙音ちゃん」
「ありがとう、えっと……」
「私、智優!鈴偶智優だよ、ヨロシクね!」
「こー見えて女だから、間違えるなよな。『女男』だってさ、ぷぷっ」
「ぐっ!」
茶化す透の足を力を入れてゆっくりと踏み付けると
一瞬、何が起きたのか分からず驚いていた詩芙音ちゃんだったが、透の悪態に続く苦悶の表情で察したらしく吹き出して笑っていた。初めて会うちょっとだけミステリアスな雰囲気の女の子で自分と違う感じがしたけど、笑っている顔は同じ6年生の女の子の表情だった。
虚ろに見える目は性格を反映したものではなく彼女の表情の特徴なのかもしれない。
流れ作業で6年2組の35人分と先生の給食を配り終えたところで「いただきます」だ。
全員が給食を食べ終わると昼休みとなる。つまり誰かが遅いと連帯責任で昼休みが減ってしまう。自分の食べれる分量を考えて給食を盛り付けてもらうことが大事で、欲張って時間内で食べきれない量を受けた人がいるとヒンシュクを買ってしまう。
先ほどのやり取りから詩芙音ちゃんの分量が大丈夫だったか確認していると普通に、むしろ他の人よりも早いくらいのペースで食べ終わっていて安心した。
給食を食べ終え、お昼休みに大暴れし、5時間目の授業が終わると夕会。皆んなと過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎていく……
みんなが下校するなか、私は栞ちゃんと一緒に帰るために彼女の委員会のおしごとが終わるまで校庭で鉄棒をして待っていることにした。
しばらくすると……
「おーい、鈴偶!」
職員室の窓が開き二宮先生に声を掛けられた。
「まだ帰らないのか〜?」
「はーい、神埼さんの委員会のしごとが終わるの待っているんですー」
「ちょっと頼まれてくれるか〜?」
「???」
何のことかと思い、職員室に近づくと二宮先生の近くに詩芙音ちゃんの姿が見えた。
「野伊間さんに学校のことを説明していたら一人になっちゃったんだよ。初登校で不安かもしれないから一緒に帰ってくれないか?」
「あ、いいですよ!じゃあ神埼さんと合流したら一緒に」
「よろしく頼むよ。学校の周り、ときどき変な人が出るみたいだからな。もしもの時は鈴偶が大声を上げて……」
「私が大声の役ってことですね」
私のキャラと先生の中の私のイメージが合っていて思わず笑ってしまった。二宮先生は失言だったと苦笑いしていたが。
「私も大きな声出せますよ!」
「あー。ははは。
野伊間さん、『もしも』の時なんて早々無いと思うけどね」
二宮先生と分かれ、詩芙音ちゃんの手を取り、職員室の出口に向かった。詩芙音ちゃんの手は細く折れてしまいそうだったけど握り返す力は強かった。見た目の印象よりも丈夫なのかもしれないと思った。
二人、校庭に出てから校舎を指して学校の説明をしていた。たぶん繰り返し聞いたことかもしれないけど、詩芙音ちゃんはリズミカルに相づちを打ちながら私の説明に聞き入っていた。
「鈴偶さん、急に帰ることになってゴメンだよ……」
「ううん、友だちになりたかったから大歓迎!」
説明の途中、用務員の佐藤さんが掃き掃除しているのが見えたので
少し怖くなったので挨拶の返事を待たずに学校の説明を続けた。しばらくして校舎から出てくる栞ちゃんの姿が見えて三人一緒になった。
「智優ちゃん、ごめーん!委員会、長引いちゃったよ〜。あれ?野伊間さん?」
「二宮先生に頼まれて一緒に帰ることになったの。詩芙音ちゃん、神埼栞ちゃんだよ」
「まだ話してなかったよね?分からないことだらけだけどヨロシクね!」
「うん、こちらこそ!」
三人で校門をくぐった時、後ろではホウキで掃く音が聞こえたが、やはり挨拶の返事はなかった。
日が落ちかけ始めた空には
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