第10話:エンシェントドワーフのジェイミー
帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年2月10日・ロディー視点
ロディー15歳
アルフィンの父親、マルクスは2月1日の早朝に火葬してから埋葬した。
西ロマンティア帝国の皇帝家を背負う覚悟などないが、領民の少女を護る事だけは誓って埋葬した。
少女と2人でのんびりとスローライフをしようと思っていたのに……
「ここに他のどこにもない酒があるな!?
よこせ、飲ませろ」
いきなり城門を斧で破壊して入ってきたドワーフ女に脅迫された。
見た事などなかったが、一目でドワーフ女だと理解できた。
見事の髭が生えているが、胸のふくらみと声が男である事を否定している。
俺は酒造りをした事を心底後悔した。
「確かにここには酒がある。
だがここにある酒は全部料理に使う為に造った特殊な酒だ。
お前が望んでいる酒ではないぞ」
今まで貯めるか現状維持をしていた魔力を消費してまで造った料理酒だ。
前世の江戸時代には女性にとても好まれた酒だ。
酒好きの女ドワーフを虜にしてしまう可能性がある。
酒だけを造らせられる一生など絶対に嫌だ!
「ふん、この世にある酒は全て飲む。
逆らうのならこの戦斧にかけて酒を奪うぞ」
ダメだ、戦斧スキルと剣鉈レベルを475にまで上げた俺だから分かる。
この女ドワーフには絶対に勝てない。
ドワーフ族は長命だから、人間よりもレベルアップできるのだろう。
だが物理戦闘で勝てないからと言って簡単に人生を諦めたくはない。
「ドワーフ族は盗賊なのか?!
酒が欲しいのなら正当な対価を払え!
ドワーフなら、この世で初めての酒を造った者に敬意を払うべきだろう」
「ふむ、確かによい酒を造る者なら人間と言えど、評価すべきだな。
よかろう、私が今までに飲んだ事のないほど美味しい酒ならば、その美味さにふさわしい褒美をやろうではないか。
どうやら騎士のようだから、剣ではどうだ?」
「剣もいいが、それよりはこの里で使う道具を造ってもらいたい」
「ああ?!
このエンシェントドワーフのジェイミー様に、野鍛冶のように村の家財道具を造れというのか?!」
「俺は新しくこの地に来た領主だ。
戦うための武具はある程度持参したが、暮らしているための道具が不足している。
俺が本当に欲しいのは、暮らしを豊かにする道具だ。
酒を造ったのも豊かに暮らすためだ。
豊かに暮らすための道具を造れないようなドワーフに飲ませる酒はない!」
「……そこまで言うのならよかろう、お前の望む道具を造ってやる。
ただし、酒が不味かったら、覚悟できているのだろうな」
ピリピリするような殺気を放ってきやがった。
エンシェントドラゴンがドラゴン最強なように、とんでもなく強いドワーフなのだろうが、まったく怖くない。
相手がどこにも出してない酒を探し当てたエンシェントドワーフだからだ。
「美味い!
なんという甘さだ!
イチゴをそのまま飲んだようなフルーティーさではないか!」
予想通り俺の勝ちだな。
どこにも出していない酒を探り出したという事は、香りだけでのこの場所に今までにない酒を探り出したという事だ。
そんな酒がエンシェントドワーフの口に合わない訳がないのだ。
「試飲はここまでだ、約束を守ってもらおうか!」
「待て、待ってくれ、もう少し、いや、全部飲ませてくれ」
「ダメだ、俺が勝負に勝ったのだ。
約束通り生活を豊かにする道具を造ってから帰ってもらおう」
「くっ!
私も誇り高きエンシェントドワーフだ、約束は守る。
だが、約束を守った後は別の話だ。
お前を殺してでもこの酒を飲ませてもらう!」
「俺を殺したら、もう2度とこの酒を飲めなくなるぞ。
それでもいいのなら、この場で殺せばいい」
「くっ、卑怯者が!」
「卑怯者はお前だろう、エンシェントドワーフ」
「……だったら条件を言え、人間。
私にその酒を飲ませる条件を言うのだ、人間!」
条件と言われても困るぞ。
条件を言ってしまって、それを達成されてしまったら。
俺は一生酒造りだけをさせられてしまう。
「だったら俺に忠誠を誓え。
絶対に俺に逆らわず、危害を加えないと誓え。
誓うのなら、ここにある酒を全種類試飲させてやる。
そして今まで飲んだ事のない新しい酒の造り方を教えてやる」
人を脅かして忠誠を誓わせるのは好きじゃない。
だが酒に狂ったドワーフに何時殺されるか分からない一生は絶対にいやだ。
それに先に暴力で脅してきたのは女ドワーフの方だ。
『目には目を歯には歯を』で俺が脅しても許されるだろう。
「なに、本当か!
本当に今まで飲んだ事のない新しい酒の造り方を教えてくれるのか?!」
「ああ、本当だ。
だが、そのためにはお前にも色々と働いてもらわなければならない。
酒を造るための原料から作らなければいけないからな」
「くっ、確かに美味い酒を造るにはそれなりの時間がかかる。
それなりのエールを造るのにも40日はかかるからな。
だが原材料から作らなくてもいいのではないか?
原材料がないというのなら、この戦斧にかけて私が集めて来てやる」
「あのなあ、よく考えろよ、バカドワーフ。
美味いエールを作りたいのに、まずい麦で作れるわけがないだろう。
本当にうまいエールが飲みたいのなら、美味い麦から育てるしかない。
それが嫌なら一生不味いエールを飲み続ければいい」
「くっ、わかった、わかったよ。
大麦を育てるところから手伝わせてもらう。
だがそれも美味い酒を試飲してからだ。
忠誠を誓うのもそれからだぞ、わかっているな!?」
「ああ、わかっているぞ、先ずはこいつから飲んでみろ」
俺は陸稲を魔力で促成栽培させてから造った清酒を飲ませてやった。
最終目標が味醂だから、蒸留して焼酎も造らなければいけなかった。
里にある道具をかき集めてムリヤリ蒸留したが、少量しか造れなかった。
そんな貴重な味醂を脅迫してきた女ドワーフの飲ませられるモノか!
「美味い!
それに数万年生きて来て初めて飲んだ酒だぞ!
もっと飲ませろ!」
「バカヤロウ、何度同じ事を言わす気だ!?
また約束を破って、俺を殺すとでも言うのか?
ここで全部飲んだら、次の酒ができるまでもう飲めないのだぞ?
本当にそれでもいいのか!?」
「くっ、くそ、クソ、糞、くっそぉオオオオオ。
わかった、わかったがもうちょっとだけ、もうちょっとだけ飲ませてくれ。
頼む、この通りだ、お願いだ、もうちょっとだけ飲ませてくれ!」
「この酒は、これから2年3年かけて熟成させるのだ。
チーズのように長い期間熟成させると、もっと美味しい酒になる。
試しにこれを飲んでみろ」
俺は魔力でムリヤリ熟成させた清酒をコップに少しだけ入れて勧めてやった。
大きな日本酒用の仕込み樽が発明されるまでは甕で日本酒を造っていた。
木製ではなかったので、2年3年かけて熟成させる事もよく行われていた。
沖縄の泡盛のように、清酒も熟成期間が長いほど高価に販売されていたのだ。
「くっわぁあアアアア!
これがさっきと同じ酒なのか?
さっきの酒よりも美味しくなっているではないか!」
「甕に入れて時間をかけて熟成すれば美味しくなるのだ。
大量に造って直ぐ飲む酒と熟成させる酒に分ける事ができれば、10年20年、いや、ドワーフなら100年200年熟成させた酒を飲む事もできるのだぞ」
「なんだと?!
100年200年熟成させるだと!
熟成させれば熟成させるほど上手くなるのか?
だが、これほど美味い酒を飲まずにガマンできるだろうか……」
「まあ、はっきり言えば、お前の我慢しだいだな。
だが、それより前にこの酒を飲んでみろ。
美味くはないが、今まで飲んだ事がない強烈に強い酒だぞ」
俺の知る範囲では、この世界に蒸留の技術はなかった。
問題は、エンシェントと言えるほど長生きしたドワーフなら、それも狂気に取り付かれたように酒が好きなドワーフなら、蒸留の技術を発明している可能性がある。
「くっわぁあアアアアア!
なんだこの強烈な酒は、美味いとか不味いとかいう言葉を超えているぞ!
もっとだ、もっと飲ませてくれ!」
よし、この勝負に勝ったぞ。
後は硬軟織り交ぜた交渉でこの女ドワーフに忠誠を誓わせるだけだ。
忠誠を使わせた後で酒造りを教えれば、後は勝手に自分で酒を造るだろう。
『ロディー』
種族:ホモサピエンス
神与スキル:農民 ・レベル342
:自作農民・レベル 58
:開拓農民・レベル207
付属スキル:耕種農業レベル212
耕作 レベル422
種蒔き レベル342
品種改良レベル342
農薬生産レベル342
農薬散布レベル342
選定 レベル342
収穫 レベル342
剣鉈術 レベル475
戦斧術 レベル475
:工芸農業レベル212
木工 レベル212
紡績 レベル212
織物 レベル212
:開拓 レベル342
伐採 レベル342
建築 レベル342
:自作 レベル106
燻製 レベル 68
酒造 レベル 58
発酵 レベル 83
陶芸 レベル106
一般スキル:戦闘術レベル9
剣術 レベル9
槍術 レベル9
戦斧術レベル9
弓術 レベル9
石弓術レベル9
拳術 レベル9
脚術 レベル9
柔術 レベル9
戦術 レベル9
馬術 レベル9
調教術レベル9
:魔術
:生産術レベル9
木工 レベル9
絵画 レベル9
習字 レベル9
算術 レベル9
料理 レベル9
刺繍 レベル9
裁縫 レベル9
大工 レベル9
石工 レベル9
「基本能力」
HP: 7028
魔力:1700114
命力:1244865
筋力: 6592
体力: 6528
知性: 11984
精神: 6999
速力: 6191
器用: 6070
運 : 6183
魅力: 6119
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