第9話:神与スキルの謎
帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年1月30日・ロディー視点
ロディー15歳
俺がこの世界に転生してから聞いた話には、神与スキルの転職はなかった。
もちろん上位スキルもなかったし、神与スキルの並列もなかった。
あったのは付属スキルと一般スキルだけだ。
俺の農民スキルに開拓スキルが並列される事は想定外の事だった。
「騎士様!
聞いてはいけない事だとは分かっていますが、凄すぎます。
1日で、いえ、半日でイチゴが育つなんて!」
朝食の場で自問自答している俺の横でアルフィンがとても驚いている。
やった俺自身がアルフィンの驚愕は当然の事だと思う。
俺の知る範囲では、農民が作る作物の成長は前世と変わらない。
とんでもない魔樹や魔草もあるが、作物は前世と同じ物も多いから比較できる。
「それに騎士様、イチゴが大粒過ぎます!
甘過ぎます!
これがイチゴだなんて信じられません。
それとも、この辺りと騎士様のふるさとではイチゴという言葉が違うのですか?」
「いや、俺の故郷のイチゴも、たぶんアルフィン嬢の知っているイチゴと同じだ。
ただこのイチゴも俺のスキルで創り出したモノだから、深く聞かないでくれ」
この世界のイチゴは、俺の知るイチゴに比べると酸味が強く小さいイチゴだ。
俺が知っているエゾヘビイチゴくらいの大きさしかない。
公爵家にいる間はそんなイチゴで我慢していたが、農民スキルが神与されて、魔力さえケチらなければ前世で食べた農作物を再現できるのだ、我慢できる訳がない。
「そうですが、聞かないと約束したのに聞いてしまって申し訳ありません」
「いや、気持ちは分かるからかまわないぞ。
だが、もうこれ以上聞かないでくれ。
それと、好きなだけ食べてもいいが、食べ過ぎると腹をこわすからな」
本当かどうかは知らないが、イチゴの食べ過ぎて死んだ大名がいる。
尾張徳川家3代目藩主の綱誠はイチゴの食べ過ぎで死んだというのだ。
ついでに言えば、息子の4代目藩主である吉通は饅頭の食べ過ぎで死んだという。
俺も前世の農作物が再現できるが、衛生環境は再現できない。
「はい、とても美味しくて、つい食べ過ぎそうになりますが、ガマンします。
季節に関係なく、食べたくなったらいつでも1日で作れるのですよね?」
「ああ、いつでも作れるから、安心してくれ。
ただ、今からどれくらいの魔力が必要になるか色々試す。
それで、食べて元に戻る魔力量と比較してみる。
食べて作れる魔力量以上に魔力が必要な作り方はムダだからな」
「そうなのですね。
わたくしはその間に騎士様に命じられた事をやらせていただきます」
「ああ、頼む。
イチゴは痛みやすいから、早く全部食べるか保存食にしなければいけない。
保存食にするには瓶か樽が必要なのだが、俺は持っていない。
この里に残っている瓶や樽を消毒してもらわないと、保存のしようがない」
「はい、余っている瓶と樽はご指示通り茹でてきれいにいたします」
この世界にも、表面が傷んだ肉の表面を黒焦げになるまで焼いて、黒焦げになった部分をこそげ落として食べられるようにする事が行われている。
同じような意味で、樽の内面を焼いてきれいにする方法が知られている。
俺はそれを少し変化させて、アルフィンに熱湯消毒を教えただけだ。
「イチゴもブドウやリンゴと同じようにワインになる。
イチゴの芳醇な香りと甘味が特徴なとても美味しいフルーツワインだ」
リンゴ酒のシードルほど有名ではないが、他にも果物から作られた酒はある。
ニュージーランドのキウイワインは前世でもそれなりに知られていた。
イチゴから造ったエルドビアの産地は……オーストリアだったと思う。
アルコール度数は15%くらいだったから、ジャムにした方がいいか?
「今思い出したのだが、イチゴワインは結構強い酒なのだ。
強い酒を妙齢の女性に飲ますのは問題がある気がしてきた。
ジャムにしてみたらどうだろうか?」
「騎士様の判断にお任せいたします。
強いお酒なら、わたくしは飲まないようにいたしますし」
どうすべきだろうか?
アルフィンに見られないのなら、全部食べてしまえばいい。
亜空間化した胃や肝臓に蓄えられる。
だが、今後の事を考えれば保存期間の長いモノに加工した方がいい。
「アルフィンが飲まないと言ってくれるのなら、やはりワインにしよう。
俺も酒などなくてもいいのだが、俺が死んだ後の事も考えなければいけない。
これから生まれてくる子孫が同じスキルを神与されるかは分からないからな」
「仰せのままに」
「それと、さっき言っていた燻製小屋に案内してくれ」
「こちらでございます」
アルフィンは身分を隠そうと頑張っている。
家臣たちがいた頃に自分に話しかけられていた言葉を使っているのだろう。
元々頭がいいのだろうが、皇帝家に生まれた人間とは思えないくらい上手だ。
余計な事には関わり合いたくないから、このまま領民扱いしよう。
「ここでございます」
俺はアルフィンが案内してくれた燻製小屋は、まだ十分に使えそうだった。
手早く解体した獣肉をフックにかけて吊るし、昨日作っておいた薪で熱燻する。
斃した獣の量が多いから、急いで焼くか燻製するかしないといけない。
燻製小屋だけでなく、焚火の上で即席の燻製をした方がいいだろうか?
「俺が戻るまでに、できるだけ多くの肉を焚火で炙ってくれ。
それが無理なら余っている瓶に入れて茹でてくれ。
茹でて乾燥させてから燻製する方法なら、肉が腐らないかもしれない」
「分かりました、そうさせていただきます」
「では後の事を頼む、昼には戻ってくる」
★★★★★★
俺は昨日からやっている城壁造りを行った。
何をやればどのスキルが上がるのかを確かめながらやった。
それで分かった事は、丸太にする前の枝払いを何時何を考えてやるかで、上がるスキルが違ってくるという事だ。
木を伐採してから材木(丸太)にしようとして枝を払うと建築スキルが上がる。
だが伐採する前に木に登って、木の成長を助けようと思って枝を払うと、選定スキルが上がるのだ。
神与スキルを上げたいのなら、その辺に気を付けた方がいいようだ。
ああ、それと、農民スキルと開拓農民スキルの間に自作農民スキルがあった。
酒造が料理人とは別のスキルなのは知っていたが、燻製は料理スキルだった。
だから料理人スキルに含まれると思っていたのだが、剣鉈術や戦斧術と同じように、付属スキルとして神与スキルに含まれるようだ。
それにしても、自作農民スキルが農民スキルとは別にあるとは驚きだ。
前世の知識から考えれば、自作農民スキルとは別に小作農民スキルがあるのか?
確かめたい気持ちがないわけではないが、小作人になるのは嫌だな。
この国のほとんどの農民は小作人になっている気がする。
ガンガン森の木を斧で伐採し、剣鉈で枝を払った。
各種建築道具を魔力で発現させて細工した。
そのお陰で伐採レベルと建築レベルが上がった。
結果として開拓農民がとんでもなくレベルアップしている。
自作農民スキルもあげたいが、これは保存食が関係していると思う。
確かに前世では親戚のブドウ農家が家庭用のワインを造っていた。
農家ではなくなった我が家でも、祖母が味噌や梅干を自作していた。
味噌が自作できるなら、料理のレパートリーが格段に増える。
味噌漬けする事で燻製や塩漬け以外にも長期保存の方法を手に入れられる。
問題は麹菌や酵母菌だが、これも前世のラノベ知識を試せばいい。
すでに想いを込めた魔力鍬を使うだけで前世の食物を再現できている。
きっと酵母菌や麹菌も再現できる事だろう。
ただ1つとても気になる事がある。
脳内ステータス画面を常時発動させていると、大項目や小項目のスキルだけでなく、神与スキルまで迷ったようにあっちこっちに表示される。
まるで想定外の事があって慌ててスキル基準を決め直しているようだ。
『ロディー』
種族:ホモサピエンス
神与スキル:農民 ・レベル239
:自作農民・レベル 1
:開拓農民・レベル207
付属スキル:耕種農業レベル212
耕作 レベル243
種蒔き レベル238
品種改良レベル238
農薬生産レベル238
農薬散布レベル238
選定 レベル239
収穫 レベル239
剣鉈術 レベル365
戦斧術 レベル388
:工芸農業レベル212
木工 レベル212
紡績 レベル212
織物 レベル212
:開拓 レベル207
伐採 レベル207
建築 レベル207
:自作 レベル 1
燻製 レベル1
酒造 レベル9
一般スキル:戦闘術レベル9
剣術 レベル9
槍術 レベル9
戦斧術レベル9
弓術 レベル9
石弓術レベル9
拳術 レベル9
脚術 レベル9
柔術 レベル9
戦術 レベル9
馬術 レベル9
調教術レベル9
:魔術
:生産術レベル9
木工 レベル9
絵画 レベル9
習字 レベル9
算術 レベル9
料理 レベル9
刺繍 レベル9
裁縫 レベル9
大工 レベル9
石工 レベル9
「基本能力」
HP: 4929
魔力:1823874
命力:1198327
筋力: 4498
体力: 4523
知性: 10982
精神: 4999
速力: 4591
器用: 4560
運 : 4610
魅力: 4560
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