第4話:追放

帝国暦1121年・神暦1021年・王国暦121年1月15日・ロディー視点

ロディー15歳


 祖父と祖母は王都から公爵都まで10日の旅程で戻っていた。

 俺たちは14日かけて戻ってきた。

 その間に色々試して分かった事がある。

 農民スキルを上げるのはとても難しいと言う事だ。


 神与スキルを上げるためには魔力を使って農作業をしなければいけない。

 それも全ての小項目を均等に上げなければ、神与スキルは上がらない。

 だが、この世界の人間の魔力はレベル1だと10前後しかない。

 苦しい生活をしている農民は、農具でやれる農業に魔力を使ったりしない。


 普通の人々は、生きて行くためにどうしても必要な事にしか魔力を使わない。

 神与スキルでなくてもレベル9までは上げられるのだ。

 全ての国民が、毎年のように徴兵されて命の危険にさらされるのだ。

 魔力は武術系スキルの方に使って生き残ろうとするのが普通なのだ。


 だが俺には前世の知識を使って蓄えた魔力がある。

 食べれば食べるほど魔力を作り出す事もできる。

 魔力切れの心配なく、農民スキルの検証をする事ができた。

 そのお陰で、俺の農民レベルはとんでもない事になっている。


「ロディー、聞いているのか!

 ルキウスのお陰で最前線送りだけは許されたのだ。

 家臣としてルキウスにしっかりと頭を下げろ!」


 祖父が俺の事を虫けらのように見ている。

 視線だけでなく口汚く罵られ続けたが、俺には祖父に対する愛情などないので、何を言われて全く気にならない。

 まあ、祖父の基準では、武術系スキルを得られなかった者は出来損ないなのだ。

 

「ルキウス公孫殿下、御厚情感謝の言葉もございません」


 俺の長弟ルキウスは14歳で来年神与の儀式を受ける。

 10人に1人しか武術系スキルを得られないから、王侯貴族は10人以上の子供を設けるように務めている。

 それでも、毎年四方に戦争を仕掛けるアルテリア王国では多くの貴族家が滅びる。


「気にするな、ロディー。

 ロディーには農民スキルを活かして兵糧を増やしてもらわなければならない。

 食糧が確保できなければ次の戦を始められないからな」


 これは事前に俺とルキウスで話し合っていた祖父を説得する言葉だ。

 ルキウスが武術系スキルを神与される確率も1割しかない。

 家督争いをする前に生き残る事が大前提だ。

 多くの王侯貴族子弟が最前線で死んでいるのを見ていれば、自然とそうなる。


 だから俺は弟妹を心から可愛がっていた。

 本当に愛しているのもあるが、少しの打算もあった。

 10人に1人しか武術系スキルは得られないから、武術系スキルを得られなかった時には助け合おうと約束していたのだ。


「ふん、そう簡単に兵糧を増やせると思うなよ。

 ロディーが行くのは大森林の境界線にある飛び地だ。

 獰猛な獣ばかりでなく、季節によっては魔獣まで現れる。

 1年も経たないうちに喰い殺されるであろう」


 それが期待していた孫に言う言葉かよ。

 まあ、神童とまで言われて期待していた孫が武術系スキルを得られなかったのだ。

 期待していた分だけ落胆と憎しみが大きいのかもしれないが、俺は祖父や公爵家の為に生まれてきたわけではない。


「温情をかけてくださった公爵殿下やロンギヌス公子殿下、ルキウス公孫殿下の為に身命を賭して働かせていただきます」


 この世界の爵位や敬称は日本式ではない。

 王位継承権がある王族の公爵には殿下という敬称をつけなければいけない。

 神与の儀式を終えて公爵家の陪臣騎士となった俺は、実の家族に臣下の礼をとらなければいけないのだ。


「分かっているのならいい。

 本来なら最前線に送って死なせるところだが、兵糧不足の状況ではこちらから戦争を仕掛ける事もできないからな」


 不足しているのは兵糧だけではないだろう、爺さん。

 何十年も戦いを続けているから、武具も兵力も不足している。

 全ての税を合計したら、作物の9割も徴収しているのだ。

 このままでは国民全てが餓死してしまうぞ、わかっているのか?


「はい、武術系スキルを得る事もできなかった、出来損ないの私に温情をかけてくださった、公爵殿下とロンギヌス公子殿下、ルキウス公孫殿下の為に大森林近くの飛び地を開拓して、少しでも多くの兵糧を作ります」


「ふん、口では何とでも言える。

 そのような事は、実際に兵糧となる穀物を作ってから言うのだな」


 わかっているじゃないか、爺さん、お前らの為に食糧を作る気などない。

 もう俺にはお前らに対する愛情など欠片もない。

 これから死地に送られるであろう、弟妹たちを助ける準備をするだけだ。

 公爵領に戻ってくるまでの間に農業スキルの可能性を確認しているのだ。


「はい、今直ぐ飛び地のフラウ男爵領に行ってまいります」


 トラースト公爵家はいくつかの従属爵位を持っている。

 元々フラウ辺境伯爵あった先祖が、ロマンティア帝国の興亡と共に周辺の戦争を仕掛け、多くの領地や爵位を手に入れた結果だ。

 その多くの領地の中で、大森林に接しているトラースト男爵領に送られるのだ。


 だが男爵位を与えられたわけではない。

 男爵領内でも未開の地を騎士領として与えられただけだ。

 これから自分の手で開拓していかなければいけないのだが、食糧も資金も与えられず、農民スキルがあるのだから大丈夫だろうと冷たく言われただけだ。


「クズグズ言っていないでさっさと行け。

 ルキウスに免じて騎士に任じてやったが、実際には追放だ。

 公爵家からなに1つ持ち出す事は許さん。

 お前が砂糖作りで手に入れていた財貨も没収だ。

 トラースト男爵領までの旅程で野垂れ死にするがいい」


 ルキウスが更に助け舟を出そうとしてくれたが、目で止めた。

 これ以上何か言うと、ルキウスの印象が悪くなり過ぎてしまう。

 そんな事になったら、来年の神与の儀式でルキウスが武術系スキルを得られなかった時に、その場で殺されてしまう可能性すらある。


 祖父が知っている俺の財貨がほんの一部でしかない。

 こういう事もあろうかと、大半の財貨は分散して隠してある。

 祖父たちの監視の目が緩んでから回収すればいい。

 公爵家の軍馬も、愛着がわかないように特定の馬を可愛がらないようにしていた。


「はい、失礼いたします」


 俺は隙を見せないように祖父母と両親の前から辞した。

 なぜか農民スキルのなかに剣鉈術や戦斧術があったから、公爵領に戻るまでの間に上げられるだけレベルを上げたが、まだ常在戦場の祖父の足元にも及ばない。

 だが、無限ともいえる魔力を持つ俺ならば、直ぐに祖父を追い越せるのだ。


「脳内ステータス画面オープン」


『ロディー』

種族:ホモサピエンス

神与スキル:農民・レベル110

 付属スキル:耕種農業レベル110

        耕作  レベル139

        種蒔き レベル129

        品種改良レベル120

        農薬生産レベル128

        農薬散布レベル128

        選定  レベル110

        収穫  レベル110

        剣鉈術 レベル90

        戦斧術 レベル90

      :工芸農業レベル35

        木工  レベル35

        紡績  レベル20

        織物  レベル20

 一般スキル:戦闘術レベル9

        剣術 レベル9

        槍術 レベル9

        戦斧術レベル9

        弓術 レベル9

        石弓術レベル9

        拳術 レベル9

        脚術 レベル9

        柔術 レベル9

        戦術 レベル9

        馬術 レベル9

        調教術レベル9

      :魔術

      :生産術レベル9

        木工 レベル9

        絵画 レベル9

        習字 レベル9

        算術 レベル9

        料理 レベル9

        刺繍 レベル9

        裁縫 レベル9

        大工 レベル9

        石工 レベル9


「基本能力」

HP:   1397

魔力:1823874

命力:1198327

筋力:   1398  

体力:   1391 

知性:  10087  

精神:   4582  

速力:   1398

器用:   1390

運 :   1395

魅力:   1390

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